新月のサソリ

空想・幻想・詩・たまにリアル。
孤独に沈みたい。光に癒やされたい。
ふと浮かぶ思い。そんな色々。

深淵の殻

2024-07-18 03:55:00 | 

時が満ちていく。

朝露に濡れる蕾が夜明けに花弁をひらくとき、小さな水滴が雫となって彼らを潤す。
眠っていた大地が息を吹き返し、今日を始める。

散りばめられた答えの欠片が、ゆっくりと『今』という地点に吸い寄せられ、集結していく。
なにもかもが、この《約束の時》を待っていたかのように。

彼女の中で息を潜め、じっとうずくまっていたものが動き出す。
真実の刃が、強く頑なに閉じた強固な殻をついに打ち割る。
遠く葬られたはずのものは、彼女の中の深く暗い淵に沈み、誰にも気づかれず、しかしずっとこの瞬間を願っていた。

思いがけぬ衝撃ののち、彼女の内側と外側はようやく繋がり、深く同時に呼吸を始める。
陽光が射抜く万物の鮮やかなる彩りを、彼女は『今』はじめて知った。まっさらな光は彼女を貫き、細胞を駆け巡る。

新しく顕れたその世界では、時は過ぎることをやめ、満ちていく。


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