月は申し分なく丸く輝いていた。
遠くでオカリナを吹くように風が歌った。はじめてのような懐かしいような、不思議な音階。秘密の約束。
この窪地にはさっきまで泉が湧いていたけれど、今は水が引き底一面に水草が見える。その真ん中に君は立ち、風が渦巻く時を待ち、あの遠く輝く故郷に帰ろうとしている。
「見送りはいらない。私のためにひとつだけ咲かせたあの露草が、見送ってくれる」
君は気丈にそう言って背中を向けたけど、その肩がとても小さく見えたものだから、僕はつい、目を逸らしてしまった。
刹那、黒い突風が僕を通り抜けた。
顔を上げると君はもう、其処にはいなかった。
君の匂いを残したまま影は消え、渦巻いた風もやんだ。急に静かになった夜の黒を、月明かりが溶かしていく。
僕は君が咲かせた露草を探したけれど、窪地のあちらこちらから水が湧いて出て、すぐにそこは元の泉になってしまった。
揺れる水面に月が浮かんだ。
オカリナを鳴らしていたのは君だったんだね。風がやんで気づくなんて。
遠くでオカリナを吹くように風が歌った。はじめてのような懐かしいような、不思議な音階。秘密の約束。
この窪地にはさっきまで泉が湧いていたけれど、今は水が引き底一面に水草が見える。その真ん中に君は立ち、風が渦巻く時を待ち、あの遠く輝く故郷に帰ろうとしている。
「見送りはいらない。私のためにひとつだけ咲かせたあの露草が、見送ってくれる」
君は気丈にそう言って背中を向けたけど、その肩がとても小さく見えたものだから、僕はつい、目を逸らしてしまった。
刹那、黒い突風が僕を通り抜けた。
顔を上げると君はもう、其処にはいなかった。
君の匂いを残したまま影は消え、渦巻いた風もやんだ。急に静かになった夜の黒を、月明かりが溶かしていく。
僕は君が咲かせた露草を探したけれど、窪地のあちらこちらから水が湧いて出て、すぐにそこは元の泉になってしまった。
揺れる水面に月が浮かんだ。
オカリナを鳴らしていたのは君だったんだね。風がやんで気づくなんて。
「月がとっても綺麗だよ」
いまさらそんなことを言っても、君には届かない。君の露草はどこにあるの。
月がとっても綺麗なんだよ。