舞踏会

孤独がとくんとくんと鳴り始めた
　深夜零時の廃墟に於いて
　　要所要所を繊細に眺める界隈と
　　　情景を俯瞰すれそれぞれの楕円
　　　　その楕円はいつかの壊れかけた観覧車
　　　　　青い観覧車に乗り込み
　　　　　　下界の灰色の街にただ意識を流した
　　　　　　　境界線の白線がたなびく
　　　　　　　　嗚呼
　　　　　　　　　もう届かないのだ
　　　　　　　　　
　　　　　　　　　絶望という名の終着点に
　　　　　　　　　　僕等はそっと足を踏み入れたのだ
　　　　　　　　　　　刹那にみた光の陰影は厳かに消え
　　　　　　　　　　　　ただ白紙の散乱に万華鏡の不可思議な世界があるのだ

　　　　　　　　　　　　１９世紀のウイーンの舞台
　　　　　　　　　　　　　皆が着飾りタキシードとドレスに身を包む
　　　　　　　　　　　　　　僕は似合わない燕尾服でギターを弾いていた
　　　　　　　　　　　　　　　ジュリアーニ
　　　　　　　　　　　　　　　　カルリ
　　　　　　　　　　　　　　　　　フェルディナンド・ソル

　　　　　　　　　　　　　　　　　　城の舞踏会の大広間で
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　彼等彼女らは踊り続けるのだ
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　僕はシャンパンを煽った
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　迂闊には近ずけない貴婦人と目が合った
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　慌てて譜面に目を落とし
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　素知らぬ顔で演奏した

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　舞台が一段落を告げると
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　酔い覚ましに窓のそばに行き
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　夜風にあたった

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　こんにちは。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　声に振り向くと少女が微笑んでいた
　　　　　　　
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　はじめまして。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　貴女の楽器は何というの？

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　ギターと申します。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　ふ～ん。不思議な楽器ね。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　ご覧になられたことはことはないのですか？

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　そうね。リュートは見たことがあるけれど。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　演奏はお気に召しましたか？

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　悪くないわ。なんだか親密な音がする。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　よかった。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　僕等はシャンパンで乾杯した
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　此処は廃墟ではなかったんですか？

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　少女はドレスの悪戯しながら微笑んだ

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　舞踏会の時だけ城は生き返るの。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　生き返る？

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　そう。それまで私たちは眠り続けるの。
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　安らかにね。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　ね、なにか弾いて。
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　歌いたいの。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　いいですよ。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　僕は楽器を構えてギターを弾いた

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　ジョン・ダウランドの曲を弾いた

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　少女が即興で歌を歌った

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　とても繊細で親密な歌声だった

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　神様、この瞬間が永遠でありますように

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　このままが

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　このままが