神様の計画
2015-10-27 | 詩
遠いお話
もう記憶の階層の底に眠る地団太の孤独
あの井戸の底に君はまだ眠り続けているのだろうか?
たどり着けない最果ての国への列車は
とうとう駅には現れなかったのだ
僕は途方に暮れて煙草に火を点け
やはり深いため息を吐いた
やがて此処からも旅立たなくてはならない深夜三時の頃合い
飲みすぎたバーボンで頭痛が止まない
今夜もまた眠れない
遠いお話
君と僕はいつだって酔っぱらっていて
楽器を悪戯しては合間に煙を吹かせた
煙草の灯が自堕落に僕の長すぎる前髪を焦がした
君はくすくす微笑んで
聖書を開き
優しく僕に朗読した
ね、
神様の計画を知っているかい?
くすくす微笑みながら君は僕に問いかけた
僕はグラスのウイスキーをごくりと飲み干してしらんぷりした
僕には僕自身の計画すら知らないのに
神様の計画なんて知らない、そう云いいたげだよね
僕のグラスにお酒を注いで君は煙草に灯を点けた
それからささやくように告げた
世界はね
球体で出来ているんだ
そうして其の成分は優しさと哀しみなのさ
優しさと哀しみ?
そう。
遠い記憶のお話とその後日談、
世界が役割を終えた瞬間
僕らは影になるんだ。
君には想い出せるかい?
あの夕映えのグランドに長く伸びた影
図書館の窓から眺めていた風景
もう失われてしまった時の残渣
摩耗された記憶の白黒フィルム
其処に刻印された影の記号
それが僕らそのものなのさ。
酔いが回り始めた僕は
ぼんやりと君の話を聴いていた
影って全体何者なんだい?
新しいバーボンの封を切りながら君は答えた
影は実態をともなわない。
影には過去も未来も存在しない。
その瞬間そのものが影の正体だよ。
僕らは影になる、近からず遠からずね。
君はやがて僕の記憶を忘れるんだ、
きれいさっぱりとね。
僕の存在は摩耗されるんだよ。
そうして君は君の記憶と名前を忘れるんだ。
それから君はあの駅にたどり着く。
そうして青い月の夜に夜行列車に乗り込むんだ。
旅に出るんだよ。
旅?
一体何処へ?
最果ての国へさ。
最果ての国?
そう。
もし君が最果ての国にたどり着いたら
石畳の街角の街頭の青に照らされた壁をごらん。
其処に映し出された魚の影が僕なんだよ。
僕らはそうやって出会うんだよ。
それが神様の計画だからね。
魂は輪廻し僕らは再会する。
いつだって何処までもね。
だから
だから哀しまないで。
君の手首から赤い線が流れるのをぼんやりと見ていた
だから哀しまないで。
世界は優しさと哀しみで出来ているんだ。
僕らは影になるんだよ。
そうしてまた出会うんだ。
最果ての国のあの街角で
古びた再生機から古臭い音楽が流れていた
ジョン・ダウランドの「流れよわが涙」だった
始まりと終わりの物語
僕らには僕らの生活を修理することが出来なかった
壊れ物
遠いお話
薄明に霞んでゆく記憶たち
もう
もう想い出せないんだ
グラスのバーボンを飲み干した
世界は
世界は優しさと哀しみで出来ているんだよ
僕らはきっと最果ての国で再会する
だから
だから哀しまないで
いつかの夜
いつかの記憶たち
ただ懺悔して嘔吐した眠れないあの夜
ねえ
眠れないよ
くすくす
くすくす
君の微笑みが木霊する
もう記憶の階層の底に眠る地団太の孤独
あの井戸の底に君はまだ眠り続けているのだろうか?
たどり着けない最果ての国への列車は
とうとう駅には現れなかったのだ
僕は途方に暮れて煙草に火を点け
やはり深いため息を吐いた
やがて此処からも旅立たなくてはならない深夜三時の頃合い
飲みすぎたバーボンで頭痛が止まない
今夜もまた眠れない
遠いお話
君と僕はいつだって酔っぱらっていて
楽器を悪戯しては合間に煙を吹かせた
煙草の灯が自堕落に僕の長すぎる前髪を焦がした
君はくすくす微笑んで
聖書を開き
優しく僕に朗読した
ね、
神様の計画を知っているかい?
くすくす微笑みながら君は僕に問いかけた
僕はグラスのウイスキーをごくりと飲み干してしらんぷりした
僕には僕自身の計画すら知らないのに
神様の計画なんて知らない、そう云いいたげだよね
僕のグラスにお酒を注いで君は煙草に灯を点けた
それからささやくように告げた
世界はね
球体で出来ているんだ
そうして其の成分は優しさと哀しみなのさ
優しさと哀しみ?
そう。
遠い記憶のお話とその後日談、
世界が役割を終えた瞬間
僕らは影になるんだ。
君には想い出せるかい?
あの夕映えのグランドに長く伸びた影
図書館の窓から眺めていた風景
もう失われてしまった時の残渣
摩耗された記憶の白黒フィルム
其処に刻印された影の記号
それが僕らそのものなのさ。
酔いが回り始めた僕は
ぼんやりと君の話を聴いていた
影って全体何者なんだい?
新しいバーボンの封を切りながら君は答えた
影は実態をともなわない。
影には過去も未来も存在しない。
その瞬間そのものが影の正体だよ。
僕らは影になる、近からず遠からずね。
君はやがて僕の記憶を忘れるんだ、
きれいさっぱりとね。
僕の存在は摩耗されるんだよ。
そうして君は君の記憶と名前を忘れるんだ。
それから君はあの駅にたどり着く。
そうして青い月の夜に夜行列車に乗り込むんだ。
旅に出るんだよ。
旅?
一体何処へ?
最果ての国へさ。
最果ての国?
そう。
もし君が最果ての国にたどり着いたら
石畳の街角の街頭の青に照らされた壁をごらん。
其処に映し出された魚の影が僕なんだよ。
僕らはそうやって出会うんだよ。
それが神様の計画だからね。
魂は輪廻し僕らは再会する。
いつだって何処までもね。
だから
だから哀しまないで。
君の手首から赤い線が流れるのをぼんやりと見ていた
だから哀しまないで。
世界は優しさと哀しみで出来ているんだ。
僕らは影になるんだよ。
そうしてまた出会うんだ。
最果ての国のあの街角で
古びた再生機から古臭い音楽が流れていた
ジョン・ダウランドの「流れよわが涙」だった
始まりと終わりの物語
僕らには僕らの生活を修理することが出来なかった
壊れ物
遠いお話
薄明に霞んでゆく記憶たち
もう
もう想い出せないんだ
グラスのバーボンを飲み干した
世界は
世界は優しさと哀しみで出来ているんだよ
僕らはきっと最果ての国で再会する
だから
だから哀しまないで
いつかの夜
いつかの記憶たち
ただ懺悔して嘔吐した眠れないあの夜
ねえ
眠れないよ
くすくす
くすくす
君の微笑みが木霊する