かめよこある記

~カメもタワシも~
To you who want to borrow the legs of a turtle

スキップ・ガール 15

2017-08-04 16:00:00 | かめよこ手のり文庫

 わたしは、さっきと変わらず公園にいた。すぐ後ろは例の水飲み場だ。体のあちこちを触って確かめてみた。何も変わったところはない。さっき地面についたお尻に砂がついていたくらいだ。
 何も変わったところがなくて、ほっとしたということではない。何か変わっていることを探していたのだから。なにかしらの答えを求めて男の顔を見た。
「あるいは、少し説明が足りなかったかもしれませんね。スキップの力が作用するのはあくまで時間であり、したがって場所を移動するというようなことはありません。安心してください。うまく時間を後戻りすることに成功いたしましたよ」「そ、そうなの?」
「はい。それが証拠に時間をご確認ください」男は、さっと片手をあげて公園の時計を指し示した。
 時計の針は確かにさっき見た時より30分ほど戻った場所を指していた。自然と顔がほぐれてきた
「わたし、遅刻しないでよくなったってこと?」男は静かに頷いた。
「まだ、うまく飲み込めてないんだけど、なんだか助けてもらっちゃったみたいで」それ以上何を言ったらいいかわからなくて、わたしは、とりあえず頭を下げた。
「とりあえず、わたし行ってもいいですか?」男が頷く。かけだそうとして、わたしはよろけてしまった。すかさず男が肩を抱きかかえた。
「タイムスリップによる時差ボケですね。はじめともなれば尚更です。少し休んでいかれたほうがいいでしょう」
 なんだか気だるい気もする。しかし、せっかく遅刻しないですむようになったかも知れないのに、こんなところで休んでいるわけにはいかない。「だいじょうぶ。わたし、行けます」わたしは、男にもう一度おじぎをして走り出した。
 公園を出てからも携帯で何度も確かめてみたけど、やっぱり時間は戻っている。でも、まだ信じられなくて走ることはやめられなかった。
 あの男が言うようにうまくいったということなのだろうか。やはり実感がわかない。なんだか時計の数字を信用できないでいる。
 もしかして、あの男がわたしに何かしたのだろうか。まさか変なくすりでも飲ませ幻覚を見せている間に公園の時計を巻き戻していたとか。携帯にだって細工して。
 あの巨大なUFOキャッチャーに頭をつままれたような感触や体のまわりを景色がうねうねと波打っているような感覚からくる気持ち悪さはまだ残っている。
 それとも夢でも見ているのだろうか。でも、それはなんだか違うような気もする。だって、いつも見ている夢って、見ているうちはあくまで夢だったから。目が覚めて、ああ、あれは夢だったんだってはじめて気づくんだ。だから、夢を見ているうちは、それを夢だとは疑わないものなのだ。
 それがどんなに不条理で理不尽でデタラメで受け入れられないような事だって、信じこませちゃうのが夢なんだから。
 信じられないような不条理で理不尽でデタラメで受け入れられないような事が繰り返し起こるのが現実の世界なんだ。
 同じく学校に向かう生徒たちを、わたしは何人も追い越していった。みんな歩いているし、誰も慌てている様子はない。やはり時間は戻っているのだろうか。
「おはよう」その声に引っぱられるように、わたしは足を止めた。
「なにそんなに急いでいるのよ」振り返るとシトネがかけよってきた。「あ、いや別に・・・」
「どうしたの?まだ余裕じゃない。いっしょに行こうよ」「うん」
 彼女の笑顔を見たとたん、今がたとえ夢だろうと現実だろうと、もうどうでもよくなってきた。こんな事もちろん言いだせないけど、わたし実は彼女のことが好きなのだ。むしろ、彼女になりたいとさえ思ってるくらい。


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