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霊感少女 さとみ 2  学校七不思議の怪  第六章 備品飛び交う校長室の怪 33

2022年05月17日 | 霊感少女 さとみ 2 第六章 備品飛び交う校長室の怪
 金色の光を噴き昇らせているさとみは、みつと冨美代の間をすり抜け、前に出た。いきなり前へ出てきたさとみに、みつと冨美代は驚いている。
 影から放たれた青白い光はさとみを直撃した。しかし、影の放つ光は霧散した。
 さとみは向きを変え、自分の生身に飛び込む。生身に戻ったさとみは片岡と共にじゅうたんの上へ転がった。飛んで来たキャビネットはそのまま壁に激突した。浮き上がっていた楯や額が操り糸が切れた様に、じゅうたんの上に散らばった。
「会長!」アイの声がドアの外からする。ノブをがちゃがちゃと回している。「どうしたんです? 今の音は何です?」
「アイちゃん! やるわよ!」百合恵の声だ。「返事を待ってはいられないわ!」
 しばらくして、ドアに何かが当たる音が繰り返された。
「……さとみさん」片岡は自分の上になっているさとみに言う。「何と危ない事を……」
「……大丈夫です……」
 さとみは笑みを浮かべて見せた。とは言え、霊体を戻してすぐにこれほど動いたことは無かったので、思いの外からだがくたくたになってしまった。
「……片岡さん、このままじっとしていて下さい」
 さとみは言うと、霊体を抜け出させた。そして、みつと冨美代の前に立つ。さとみの全身から金色の光が放たれる。さとみを守ろうと動くみつと冨美代に、さとみは笑顔を向けて頭を左右に振る。動かないでと制しているのだ。二人は立ち止まる。さとみはうなずいてから影へと向き直り、対峙する。
「もうあなたの負けよ!」さとみは影に言う。影は揺らめき出している。「大人しくあの世へ逝って!」
「……邪魔をするなぁぁ!」影の声が響いた。室内が揺れた。「綾部さとみぃぃぃ!」
 影はさとみに突進してきた。さとみは両手を影に向かって伸ばした。広げた両の手の平から金色の光が放たれた。
 影はさとみの放った金色の光に覆われた。燃える紙のように影が身をくねらせる。それは苦悶に身をよじらせているようだった。
 と、じゅうたんに散らばっていた楯や額が浮き上がり始めた。影が生身のさとみを直接に攻撃しようとしたのだ。
「さとみ殿!」みつがそれを見て叫ぶ。「影はお任せください! ご自身をお守りあれ!」
「左様です!」冨美代は薙刀を陰に向けて言う。「今ならわたくしたちで影を討てましょう! ささ、早う!」
 さとみは霊体を生身に戻した。それを待っていたかのように浮き上がった楯や額がさとみに目がけて飛びかかった。が、それらはさとみの当たる寸前で止まった。さとみのからだが金色に光り始め、その光に阻まれていたからだ。
「天誅!」
 みつは裂帛の気合いで、身をよじらせている影に、中段の構えから突きに出た。
「ええいっ!」
 冨美代も気合と共に上段の構えから影を討ち据えた。
 気配が変わった。
 さとみは顔を上げる。
 さとみの寸前で止まっていた楯や額がじゅうたんの上に落ちていた。
 みつの刀は影の下半分を貫き刺し、冨美代の薙刀は影の上半分を縦に裂いていた。
 ドアが室内側に倒れてきた。ドアの立っていた空間に、右脚を蹴り上げた姿のアイと百合恵とがいた。赤い下着がアイのスカートの奥に見えている。
「会長!」
 アイは叫ぶと部屋に入って来た。
「……さとみちゃん……」百合恵は金色の光りに包まれているさとみと、その周りに散らばっている楯や額、トロフィーを見る。それから、みつと冨美代を見た。「まあ、二人とも……」
「会長!」アイはさとみに駈け寄る。金色なのが見えていないのかもしれない。「しっかりして下さい、会長!」
 アイはさとみを抱き起す。さとみはぽうっとした顔で、泣き出しそうなアイの顔を見つめる。
「……アイ。大丈夫、よ……」
 霊体を行ったり来たりさせて疲れ切っていたさとみは、幾度か口をぱくぱくさせてからかすれた声で言った。
「会長…… 」アイの目に涙が浮かび、頬を伝った。「良かった……」
 アイはさとみの下に片岡がいる事に、今気がついたような顔をしている。さとみを抱き起したまま顔を右の二の腕でこする。涙を拭き取るためだ。
「爺さんもいたんだな」アイは素っ気なく言う。泣いた顔を見られたのが癪だったようだ。「大丈夫か?」
「ははは、大丈夫ですよ」片岡は苦笑する。「……それよりも、さとみさんを下ろしてくださいませんかな?」
「あ? ああ、そうだな」
 アイは片岡の上からさとみを抱きかかえて、離した。さとみは小さい子供のように素直にアイに抱きかかえ上げられる。
「まあ、アイちゃんは力持ちね」百合恵がくすっと笑う。「わたし、妬けちゃうわ」
「そんな、姐さん……」アイは返答に困るが、さとみを離さない。「舎弟としては当然の事をしただけで……」
「ふふふ…… アイちゃんってかわいいわね」
「百合恵さん……」さとみが力の入らない声で言う。「みつさんと冨美代さんは……」
「見てごらんなさい」
 百合恵は言って横にずれた。みつと冨美代が影をしっかりと仕留めている姿があった。
「良かったぁ……」さとみはつぶやく。しかし、不意に表情を曇らせた。「影、消えないんですか?」
「え?」百合恵も振り返る。良く見ると、みつも冨美代も困惑しているようだ。「そう言えば……」
「仕留めたんなら、霧散すると思うんですけど……」
「たしかに……」百合恵もうなずく。そして、みつに顔を向けた。「みつさん、何かあったの?」
「……抜けないのです」みつが百合恵に言う。「刀が抜けないのです。手も離れない。このまま吸い込まれて行きそうで……」
「左様ですの!」冨美代も百合恵に言う。表情が苦しそうだ。「それに、何だか力が抜けて行っているようですの……」
「さとみちゃん!」二人の話を聞いた百合恵が慌てる。「まずい事になったわ!」
「え……?」
 さとみが再びみつと冨美代を見ると、二人は影に吸い込まれて姿を消してしまった。残った刀と薙刀が床に落ちた。
「ふわああああああああっっ!」
 影が突然叫んだ。霊の声が聞こえないはずの生身のさとみにも聞こえた。叫ぶと影は霧散した。


つづく

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