「無理って!」葉子は思わず大声を出す。「妖魔の作った傷なら直せるって言ってたじゃない!」
「馬鹿か、お前は!」妖介は振り返って葉子を睨みつけた。それからゆっくりと犬歯を覗かせる。「回復したばかりのオレじゃ、無理だと言う事だ。何しろ、お前のせいで、ひどい目に会ったんだからな」
「・・・」・・・この男って、わたしの気持ちなんて平気で踏みにじるのよね。何てひどいヤツ! 怒りが沸いてくる。「あなたって・・・」
「お前、エリの隣に寝ろ」妖介は葉子に言った。「お前の感情などに関心は無い。それに、今はエリを回復させることが先だろう」
「・・・そうだけど・・・」葉子は自分の感情を何とか押し殺した。「わたしがエリちゃんの隣で寝る事が必要なの?」
「自分の事だけしか出来ない、どうしようもない女のままでは居たくは無いだろう?」妖介が皮肉な笑みを浮かべる。・・・また、わたしの心を読んだんだわ! 葉子が睨みつける。「素っ裸で無防備につっ立っているお前を利用する」
妖介は言いながら、葉子を無遠慮に見続ける。葉子は慌ててしゃがみ込んだ。顔だけを妖介に向ける。
「そんな言い方しなくても良いじゃないのよう!」
「馬鹿女、今さら隠してどうするんだ」犬歯を剥き出す。「それに、お前のからだに興味は無いと言っているはずだ。さっさとしろ!」
妖介はベッド脇に立った。妖介を睨みつけていた視線をエリに移す。
「・・・どうすれば良いの?」
葉子は不安そうな表情を妖介に向ける。
「からだを密着させろ」
妖介は葉子を見下ろして言った。
葉子は立ち膝をし、ベッドのエリを見つめた。涙が溢れる。
・・・エリちゃん・・・ わたしに『斬鬼丸』を持って来てくれたのよね。わたしを正気づかせてくれたのよね。あなたが居なかったら、わたしが妖魔になっていたのよね。
手を伸ばし、動かぬからだに触れた。命が通っていないかのように冷たかった。傷口の血が固まっている。見開かれたままの瞳の視点は定まってはいなかった。不安が広がる。
「いいか、馬鹿女」妖介が静かに言った。「エリの口癖は『絶体絶命』だ。それも気楽に使う。何故だか分かるか?」
「・・・」葉子はエリの顔を見ながら首を振る。涙が左右に散った。「分からないわよう・・・」
「妖魔から受けた傷は必ず治ると確信しているからだ」その言葉に葉子が顔を上げた。妖介が葉子を見つめている。「オレを信じているからだ。そして、力が現われたお前もだ」
妖介は葉子の右肩をつかんだ。
・・・何? 何なのよう! エリがメロンパンを齧りながら楽しそうに話をしている姿が葉子の脳裏に映った。
『今はまだだけど、葉子お姉さんが力を発揮したら、妖介くらいにはなるかなあ?』
『えっ! 妖介よりも強くなるかもぉ? 大変じゃん! 尻に敷かれない様にしなきゃあね』
『でさ、当然、妖介みたいに、妖魔から受けた傷やなんかを直せるようになるんでしょ?』
『やっぱりね! 葉子お姉さんなら出来て当然よ。優しいし、ちょっと泣き虫だけど、わたしは大好き! あ~あ、葉子お姉さん、早く力が目覚めないかなあ』
・・・エリちゃん・・・
「エリがオレに話していた事だ」妖介が手を離した。脳裏のエリが消えた。「力の現われたお前には見えただろう。エリはお前の力を信じている。こんな無茶が出来たのも、そのせいだ」
「・・・分かったわ」
葉子は立ち上がり、ベッドに上がると、エリの隣に並んだ。しっかりとエリのからだを抱きしめる。頬を重ねる。冷たかった。涙がまた溢れる。
「いいか・・・」妖介が真顔になった。「後はお前の心だ。妖魔を憎み、仲間の命を願う心だ」
「・・・」葉子ははっとして妖介の方を見た。「わたしを直してくれた時、そんな心になってくれたの?」
「・・・下らない事を聞くな!」
妖介は言い捨てると、寝室から出て行った。
つづく
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「馬鹿か、お前は!」妖介は振り返って葉子を睨みつけた。それからゆっくりと犬歯を覗かせる。「回復したばかりのオレじゃ、無理だと言う事だ。何しろ、お前のせいで、ひどい目に会ったんだからな」
「・・・」・・・この男って、わたしの気持ちなんて平気で踏みにじるのよね。何てひどいヤツ! 怒りが沸いてくる。「あなたって・・・」
「お前、エリの隣に寝ろ」妖介は葉子に言った。「お前の感情などに関心は無い。それに、今はエリを回復させることが先だろう」
「・・・そうだけど・・・」葉子は自分の感情を何とか押し殺した。「わたしがエリちゃんの隣で寝る事が必要なの?」
「自分の事だけしか出来ない、どうしようもない女のままでは居たくは無いだろう?」妖介が皮肉な笑みを浮かべる。・・・また、わたしの心を読んだんだわ! 葉子が睨みつける。「素っ裸で無防備につっ立っているお前を利用する」
妖介は言いながら、葉子を無遠慮に見続ける。葉子は慌ててしゃがみ込んだ。顔だけを妖介に向ける。
「そんな言い方しなくても良いじゃないのよう!」
「馬鹿女、今さら隠してどうするんだ」犬歯を剥き出す。「それに、お前のからだに興味は無いと言っているはずだ。さっさとしろ!」
妖介はベッド脇に立った。妖介を睨みつけていた視線をエリに移す。
「・・・どうすれば良いの?」
葉子は不安そうな表情を妖介に向ける。
「からだを密着させろ」
妖介は葉子を見下ろして言った。
葉子は立ち膝をし、ベッドのエリを見つめた。涙が溢れる。
・・・エリちゃん・・・ わたしに『斬鬼丸』を持って来てくれたのよね。わたしを正気づかせてくれたのよね。あなたが居なかったら、わたしが妖魔になっていたのよね。
手を伸ばし、動かぬからだに触れた。命が通っていないかのように冷たかった。傷口の血が固まっている。見開かれたままの瞳の視点は定まってはいなかった。不安が広がる。
「いいか、馬鹿女」妖介が静かに言った。「エリの口癖は『絶体絶命』だ。それも気楽に使う。何故だか分かるか?」
「・・・」葉子はエリの顔を見ながら首を振る。涙が左右に散った。「分からないわよう・・・」
「妖魔から受けた傷は必ず治ると確信しているからだ」その言葉に葉子が顔を上げた。妖介が葉子を見つめている。「オレを信じているからだ。そして、力が現われたお前もだ」
妖介は葉子の右肩をつかんだ。
・・・何? 何なのよう! エリがメロンパンを齧りながら楽しそうに話をしている姿が葉子の脳裏に映った。
『今はまだだけど、葉子お姉さんが力を発揮したら、妖介くらいにはなるかなあ?』
『えっ! 妖介よりも強くなるかもぉ? 大変じゃん! 尻に敷かれない様にしなきゃあね』
『でさ、当然、妖介みたいに、妖魔から受けた傷やなんかを直せるようになるんでしょ?』
『やっぱりね! 葉子お姉さんなら出来て当然よ。優しいし、ちょっと泣き虫だけど、わたしは大好き! あ~あ、葉子お姉さん、早く力が目覚めないかなあ』
・・・エリちゃん・・・
「エリがオレに話していた事だ」妖介が手を離した。脳裏のエリが消えた。「力の現われたお前には見えただろう。エリはお前の力を信じている。こんな無茶が出来たのも、そのせいだ」
「・・・分かったわ」
葉子は立ち上がり、ベッドに上がると、エリの隣に並んだ。しっかりとエリのからだを抱きしめる。頬を重ねる。冷たかった。涙がまた溢れる。
「いいか・・・」妖介が真顔になった。「後はお前の心だ。妖魔を憎み、仲間の命を願う心だ」
「・・・」葉子ははっとして妖介の方を見た。「わたしを直してくれた時、そんな心になってくれたの?」
「・・・下らない事を聞くな!」
妖介は言い捨てると、寝室から出て行った。
つづく
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