お話

日々思いついた「お話」を思いついたまま書く

吸血鬼大作戦 ⑬

2019年08月21日 | 吸血鬼大作戦(全30話完結)
 白木先生が笑ってくれたおかげで、四人娘の殺気が消えた。くるみは何となく物足りなそうな表情だった。
「……へっぽこ君、どうしてそんなこと思ったりしたの? 遠慮なく話してみて」
 白木先生が少し心配そうな顔で聞いた。明に、何か心の病でもあるのかもと、思っているようだった。
「いえ、それは……」
 明は言い淀んだ。もともとのきっかけはくるみの吸血宇宙人説だった。それに振り回されて、気がついたら保健室にまで来てしまっていた。ここで、実はくるみが言い出したことで、何て言おうものなら、くるみの従姉率いる不良娘軍団が黙ってはいないだろう。白木先生も暴れる不良軍団を抑えることはしなさそうだ。むしろ、にやにやしながら見ていそうだ。ああ、どうしよう…… 明は頭を抱えた。
「実は、犬の事件があった日の夕方、先生とはるみちゃんたちが、三山絵美さんが散歩させていた犬と会っているんです」くるみが話し出した。冷たい眼差しを明に向けている。「その犬、ウィルヘルムが被害に遭ったんです。それで、このへっぽこが、無い知恵絞って考えついたのが、白木先生吸血宇宙人説なんです」
 不良娘たちの殺気が強まった。それを感じた明はぶるっと身を震わせた。
「犬……」白木先生は記憶をたどる。「ああ、あの大きな犬ね。確か、はるみちゃんが、うちの学校の娘って言ったので、仲良くなろうと思って近づいたわ。あの娘、絵美ちゃん、得意げで嬉しそうだったわね…… あの犬が襲われたんだ……」
「そうなんです。絵美、とっても悲しんでいました。学校しばらく休むって言ってました……」
「そう…… 学校に出てきたら保健室に来るように言ってね。先生の出来る範囲でサポートするから」
「先生って、優しいんですね」くるみが目をキラキラさせながら言った。「わたし、感動しました!」
「先生はね、学校みんなの心もからだもケアしたいのよ」
「素晴らしいです!」くるみは言うと、はるみを見た。「それで、荒んだ心のはるみちゃんが、保健室に入り浸っているんだ…… わたしも入り浸っちゃおうかな?」
「馬鹿!」はるみが言い返す。「くるみは荒んでもいないし病気でもない。それに、学力優秀娘なんだから、保健室は必要ないだろう? そんな娘が入り浸っていたら、学校中で問題になっちまう。白木先生にも迷惑掛かるし、下手したら、あたしらの行く所が無くなっちまうだろう。入り浸るなんて、やめてくれよな」
「はるみちゃんが自分の教室に行くんならやめるけど、行かないんならやめない」
「無理な事を言うなよな」
「まあまあ、この娘たち、学校に来るようになっただけ進歩したのよ」
「先生が甘やかすから……」
「甘えるって言っても、文枝じゃ先生が壊れちまうな」
「何よ、小さすぎてどこに居るのかわからない千草に言われたくないね!」
「おい、話がずれて来たぜ」
「桂子は赤い髪自体がずれてんだよ!」
「うるさいねえ、これは地毛だよ!」
「嘘つけ!」
 明そっちのけでわいわいやって盛り上がっている。明は保健室を出ようと、そおっと後ずさる。
「おい、へっぽこ! どこへ行くんだい!」文枝が鋭い口調で言った。「お前はあたしの隣だよ!」
 明はすっかり諦めて、ベッドに座っている文枝の隣にちょこんと腰掛けた。文枝が大きな尻をずらして明に密着する。明は全身を硬直させた。
「宇宙人か……」はるみがつぶやく。「確か、血が抜き取られていたんだったな」
「そうなの」くるみが答える。「ワイドショウだと、もっともらしい事言ってたけど、機械で血を抜くなんて無理っぽいのよねぇ……」
「じゃあさ」赤毛の桂子が立ち上がった。「あたしらでその宇宙人をとっ捕まえて、ボコボコにしてやろうぜ!」
「面白そうね」小柄な千草が笑う。「仮に、どっかの変態野郎だったとしても、宇宙人だと思って必死に抵抗しているうちにボコボコにしちまったって言えば、お咎めも少ないんじゃないかしらね」
「あのねえ、あんたたち……」白木先生が呆れたように言う。「学校で、しかも教諭の前で、物騒な話をするなんて、どうかしているんじゃない?」
「あっ、失礼しました!」
 はるみは立ち上がって白木先生に頭を下げた。他の連中もそれに倣う。くるみも同じようにしている。ぼうっとベッドに座っていた明は、文枝の胸ぐらをつかまれて立たされ、それから頭をぐっと押さえつけられて下げさせられた。
「……でも、面白しろそうねぇ」白木先生は言うと、にやりと笑った。「みんなが暴走し過ぎないように見守る保護者が必要ね。……仕方ないわね、わたしがなってあげるわ」
「さすが、姉御先生だ!」
 はるみたちは笑う。明一人が笑わない。そんな様子の明を、文枝がじろりとにらむ。明は引きつった笑顔を作る。くるみはそれを見て、明に向かって「へっぽこ」と大きく口を動かして見せ、けらけらと笑っていた。


 つづく


 

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