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コーイチ物語 2 「秘密の消しゴム」 66

2009年03月10日 | コーイチ物語 2(全161話完結)
 なぜ、なぜ、なぜ! コーイチは立ち上がり、話しかけてきた黄色い花を見下ろした。花はコーイチに向いている。・・・花が話しかけてくるなんて、僕はとうとう・・・ コーイチは頭をかかえた。そのまま、花のまわりをぐるぐると回りだした。
「そうか、あなた、ここへ来るのは初めてなのね」コーイチのあわてぶりに全く構う事なく、花は話し続ける。「ここは作られた世界なの。あなたが居た世界と根本的に違っているのよ」
「・・・え?」コーイチの動きが止まる。「違っている世界・・・」
「そうよ。あわてふためく前に思い出してよ」それから花は不思議そうに首を(茎を)傾げる。「あなた、何しに来たの?」
「・・・そうだった! 僕は別次元へ来たんだった!」コーイチは座り込んで、花に話しかけた。「あのさ、若い娘も来なかったかい?」
 気持ちが落ち着くと、この環境に違和感が無くなった。・・・考えてみれば、壁抜けピンクおじいさんの世界なんだものな。何でもありなんだろうさ。
「ずいぶんと、ぶしつけね」花弁がぷいとそっぽを向く。「まずは、あなたが何者で、どうやってここに来たのか言ってくれなくっちゃ、始まらないわよ」
「あ、ああ。これは失礼しました」コーイチは花に頭を下げた。なんとなく苦手なタイプの女性を思わせた。「僕はコーイチと言います。それで、芳川さんと共に逸子さんと鉛筆を取り戻しに、こことはちがう次元から消しゴムを使ってやってきました・・・」
「へえ、あなた、コーイチさんって言うのね。それだけは分かったわ」
 花はくすくすと笑い出した。まわりの花もつられて笑う。
「何がおかしいんだい?」コーイチは少々むっとした。・・・花にからかわれるなんて、イヤな気分だなあ。「君が言えと言ったから言ったんじゃないか。それを笑うとは、どう言うつもりだい」
「ふふふ、ゴメンなさい。真剣に話す姿が面白くって・・・」花は茎を伸ばし、しゃんとした。「若い娘さんが、さっき、いきなり現れたわ」
「その娘、黒いワンピースのミニだった?」
「よく分からないけど、黒っぽかったわ」
「芳川さんだ・・・」コーイチは一人うなずいた。「で、どこにいるんだい? 見なかったかい?」
「三頭の能無しクマに連れて行かれたわ」花はうんざりしたように言った。「ここに現れるのが分かっていたみたいで、かなり前から待っていたわよ」
「三頭のクマだってぇ!」コーイチはまた頭をかかえた。・・・落ち着け、ここは別次元なんだ。何でもありなんだ! 「そのクマって言うのは・・・?」
「ここの主、ベリーヌ女王様の兵隊よ」
「・・・」
 コーイチは溜め息をついた。・・・話す花、兵隊のクマ、ベリーヌ女王様・・・
「何だか、メルヘンな話だなあ」コーイチはつぶやいた。「これが別次元なのか・・・」
「そうじゃないわ」花が言う。「このエリアはベリーヌ女王様の作ったものなのよ」
「どう言う事?」
「この世界に古くからいる人たちは、いつの間にか、この世界を自分の好きに色々と飾る事ができるようになったのよ」
「飾る・・・」コーイチは腕組みをした。「いつの間にか、魔法使いになってしまったって事か・・・」
「そうかもしれないわね」花は続ける。「で、このエリアに古くから住んでいたベリーヌが、自分の好きなメルヘンの世界を作ったわけなの。自分をベリーヌ女王と呼んでね」
「ふーん。じゃあ、君も、この光景も、クマの兵隊も、みんなベリーヌさんが作ったんだ」
「その通りよ。あなた、飲み込みが早いじゃないの。気に入ったわ」
「そうかい?」褒められるのは、たとえ花からでも嬉しいものだ。そう思ったコーイチだった。「それで、ベリーヌさんは、どこにいるんだい?」
「ここを真っ直ぐ行くと、大きなお城が見えてくるわ。そこよ」
「お城に住んでいるのかい!」コーイチは呆れ顔で言った。「さすが、女王様だ・・・」
 コーイチは立ち上がった。花がコーイチを見上げる。
「どうしたの?」
「芳川さんを助けに行かなくちゃならないんだよ。こんな楽しい世界を作る人だ。話せばすぐに分かってくれるだろう」
「・・・」花はしばらく考え込んでいるようだった。しばらくすると、くすくす笑い出した。「いいわ。あなたが気に入ったから、色々と教えて、あ・げ・る。うふっ!」

       つづく

いつも熱い拍手、感謝しておりまするぅ

(そろそろ記録更新ですね。本人には通過点でしかないでしょうが・・・)



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