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コーイチ物語 「秘密のノート」 116

2022年09月24日 | コーイチ物語 1 13) パーティ会場にて コーイチ退場 
「さ、コーイチ君、立ってちょうだい」
 傍目には、仲良く寄り添い合いながら立ち上がったように見え、仲良く寄り添い合いながらステージの階段を下りて来たように見え、仲良く寄り添い合いながら歩いているように見えた。
 しかし、実を言えば、コーイチの身体をしっかりと押さえつけた京子に逆らえないだけだった。
「おやおや、仲良し二人組みの登場だね」
 林谷が声をかけて来た。ふらふらしているコーイチを珍しそうに見ている。
「大分、ふらついているねぇ。天井近くを飛び回って、飛行機酔いみたいな感じになったのかな?」
「いいえ、ビールを飲み過ぎちゃったの」京子がにこにこしながら言った。「本当、自分の限界を知らないんだから、世話が焼けちゃうわ」
「ほう、京子さんが介抱役かい。……コーイチ君、良い彼女を持ったねえ」
 林谷は一人うなずいていた。……違うんです! これはこの娘の魔法なんです! コーイチは思ったが、出て来る言葉は「京子ぉ……」だった。それを聞いて、林谷はまた一人うなずいた。
「酔うと本音が出ると言うね。コーイチ君、頼りはやっぱり京子さんかい。いや、良い事だよ、良い事だよ」
 林谷はコーイチの肩をぽんぽんと叩いて、笑いながら別のグループの方へ行ってしまった。
「あら、コーイチ君!」
 清水が声をかけて来た。数人の黒仲間、そして名護瀬も居た。
「どうしたの? ふらふらしちゃって」
「酔っちゃったの。ビールを飲み過ぎて……」
 京子がにこにこしながら言う。コーイチは否定するように頭を左右に振った。
「コーイチ、酔って頭を振ると、とんでもない事になっちまうぞ。止めとけよ!」
 自身経験のある名護瀬が、心配そうに言った。
「大丈夫よ。わたしが介抱するから!」
 京子が答えた。
「あら、コーイチ君、良いわねぇ……」
「介抱目的で、わざと飲み過ぎたんだな! 困ったヤツだなあ!」
 ……魔法なんだ。名護瀬、これは魔法のせいなんだ! 清水さん、得意の黒魔法で何とかして下さいよぉ…… しかし、口から出るのは相変わらず「京子ぉ……」だった。
「じゃ、失礼しまっす!」
 京子は言って歩き出した。コーイチは引きずられるように従った。
 黒仲間の一人が追いかけて来て、京子の前に回り、軽く会釈をした。
「こんな場所でお会いできるなんて、光栄です!」
 ステージで見かけた京子の仲間の魔女だった。
「いいの、硬い挨拶はやめてちょうだい」
「はい、分かりました。……しかし、どうしてこちらへ?」
「ちょっと、このコーイチ君に用事があって」
「そうですか。でも、何故そのようなお姿で? それじゃ、まるで……」
「もう、何も言わないで!」
 京子がこわい顔をして睨みつけた。
「す、すみません! お許しを! お許しを! お許しを!」
 睨まれた魔女は繰り返し言いながら走り去って行った。……やはりこの娘、魔女の世界の王家の出身なのか? コーイチは思いながら「京子ぉ……」と呟いた。
「京子さん、娘から聞いたんだけどね……」
 印旛沼がどこからとも無く現れた。
「コーイチ君の所に…… その…… 泊まるんだって?」
「ええ」京子は平然として答えた。「だって、こんなに酔っているのに放っておけないわ。介抱しなくちゃ」
 印旛沼はコーイチを見た。確かにふらふらしている。
「こんなに酔っているコーイチ君を見るのは初めてだよ。確かに介抱が必要だね。何なら娘にも手伝わせようか?」
「そうして欲しいけど、泊まるって言ったら、何か勘違いしちゃったみたいで……」
「そうか。あの娘は、変に純情だからねぇ……」印旛沼は納得したような顔で言った。「じゃ、泊まるのは介抱するためだって、私から伝えておくよ。これに懲りず、これからも娘と仲良くして欲しいな」
「もちろん!」
 京子は笑顔で答えた。印旛沼はひと安心と言った顔で逸子を探しに行った。
「さ、コーイチ君、本当に帰るわよ」
 京子は言って、会場の出入り口のドアのノブに手をかけた。

       つづく

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