エレベーターを降りると、上層階専属のごつい警備員が二人、無言で近付いてきた。すでに連絡が行っていたようで、二人はジェシルを間に挟んで前後に立ち、連行するようにして、ビョンドル長官のオフィスに向かう。ジェシルは終始むっとした不機嫌な顔を隠すことなく歩いている。
長官のオフィスの前に来ると、前を歩いていた警備員がインターホンで、ジェシルを連れてきた旨を伝える。それが済むと、警備員はジェシルに向かって顎をしゃくり、オフィスに入るようにと促す。
「ご苦労」ジェシルは、わざと幹部職員っぽい口調で言った。「終わったらまた迎えに来てくれたまえ」
睨み付けてくる警備員を無視して、ジェシルはビョンドル長官のオフィスに入った。
広いオフィスの奥まったところに、ビョンドル長官のデスクがあり、そのデスクには幾冊かのファイルが広げたままになっている。ビョンドル長官はうんざりした表情で椅子の背もたれを軋らせていた。ジェシルが入って来ると、背もたれから背中を浮かせた。
「やっと来たか、ジェシル……」ビョンドル長官はデスクに両肘を突き、組んだ手越しにジェシルを上目使いで見つめた。「トールメン部長からすぐに出頭すると連絡を受けから、相応の時間が経っている」
「はい、すみません」ジェシルは謝罪するが、口先だけなのが見え見えだ。「ちょっと調べ物をしていました」
「わたしも、統括管理官の頃のようには行かないのだ、ジェシル」ビョンドル長官は言う。「とにかく、時間が惜しいのだよ」
「今後、気を付けます」ジェシルは、ビョンドル長官の背後の壁に飾ってある、訳の分からない絵を見ながら答えた。「……それで、用向きは何ですか?」
「トールメン部長から聞いていないのか?」
「詳しくは聞いていません。ビョンドル長官に聞くようにと責任を押し付けていました」
「そうか……」
ビョンドル長官は苦々しい顔を作った。……これで部長の評価は下がったわね。万年部長の誕生ね! ジェシルは内心にやにやと笑っていた。
「実は、オーランド・ゼムに関してなのだが……」
「七百歳のナルスカ人でシンジケートのボスでしたよね?」
「何だ、少しは話を聞いていたのか」
ジェシルは舌打ちをした。自分のこの不用意な一言でトールメン部長の評価が少し上がったと思ったからだ。ビョンドル長官は不思議そうな表情をジェシルに向けたが、すぐに気を取り直したようだ。
「オーランド・ゼムは、全宇宙のシンジケートを潰すつもりになっている。そのために、宇宙パトロールに協力を要請してきた」
「でも、宇宙パトロールだって、掛かりっきりってわけには行かないんじゃありませんか? 他にも犯罪はうんざりするほどあるんですから」
「それは分かっている……」
「じゃあ、どうするんです?」
「これは、わたしの一存で決められる事ではないが……」ビョンドル長官は深々と椅子に座り直した。背もたれが大きく軋んだ音を立てた。「宇宙連邦軍に特別部隊を編成してもらって対処させたいと考えている」
「あ、やっぱり、そうなりますよね」ジェシルはうなずく。「……そこまで計画しているんなら、わたしなんか必要じゃないんじゃありませんか?」言ってからジェシルははっとする。「……まさか、わたしをその特別部隊に入れるとか……」
「いや、それは無い」ビョンドル長官は溜め息をつく。「それは無いのだが、厄介な話があるのだよ……」
「厄介な話? 特別部隊設立のための宇宙評議員の根回しですか? それなら別に厄介でもありません。評議員代表の叔父にちょっと言えば根回しは簡単ですよ。直系のわたしの言う事なら何でも聞くはずですし」
「いや、根回しは大丈夫だ。そうでは無くてな……」ビョンドル長官は再び溜め息をつく。「オーランド・ゼムが、君を指名したのだ」
「トールメン部長からもそう聞きましたが、わたしは会った事が無いんですよ」
「それは分からんが、向こうは良く知っているようだったぞ」
「え~っ! そのオーランド・ゼムって人、ストーカーの類なんじゃないですかぁ?」ジェシルは薄気味悪いと言った表情をする。「わたしは、本当に知らないんですよ。向こうが勝手に知っているだけですよ」
「ふむ……」ビョンドル長官はデスクを右の人差し指でとんとんと打つ。「……まあ、君はある意味で有名人だからな」
「どう言う意味ですか?」
ジェシルはむっとして、ビョンドル長官を睨むが、ビョンドル長官は平然と受け流した。
「……では、行こうか」ビョンドル長官は卓上時計を見て、立ち上がった。「一緒に来なさい」
「どこへですか?」一方的な言われ方に、ジェシルはまたむっとする。「聞かないと行きません」
「オーランド・ゼムに会いに行くのだよ」
つづく
長官のオフィスの前に来ると、前を歩いていた警備員がインターホンで、ジェシルを連れてきた旨を伝える。それが済むと、警備員はジェシルに向かって顎をしゃくり、オフィスに入るようにと促す。
「ご苦労」ジェシルは、わざと幹部職員っぽい口調で言った。「終わったらまた迎えに来てくれたまえ」
睨み付けてくる警備員を無視して、ジェシルはビョンドル長官のオフィスに入った。
広いオフィスの奥まったところに、ビョンドル長官のデスクがあり、そのデスクには幾冊かのファイルが広げたままになっている。ビョンドル長官はうんざりした表情で椅子の背もたれを軋らせていた。ジェシルが入って来ると、背もたれから背中を浮かせた。
「やっと来たか、ジェシル……」ビョンドル長官はデスクに両肘を突き、組んだ手越しにジェシルを上目使いで見つめた。「トールメン部長からすぐに出頭すると連絡を受けから、相応の時間が経っている」
「はい、すみません」ジェシルは謝罪するが、口先だけなのが見え見えだ。「ちょっと調べ物をしていました」
「わたしも、統括管理官の頃のようには行かないのだ、ジェシル」ビョンドル長官は言う。「とにかく、時間が惜しいのだよ」
「今後、気を付けます」ジェシルは、ビョンドル長官の背後の壁に飾ってある、訳の分からない絵を見ながら答えた。「……それで、用向きは何ですか?」
「トールメン部長から聞いていないのか?」
「詳しくは聞いていません。ビョンドル長官に聞くようにと責任を押し付けていました」
「そうか……」
ビョンドル長官は苦々しい顔を作った。……これで部長の評価は下がったわね。万年部長の誕生ね! ジェシルは内心にやにやと笑っていた。
「実は、オーランド・ゼムに関してなのだが……」
「七百歳のナルスカ人でシンジケートのボスでしたよね?」
「何だ、少しは話を聞いていたのか」
ジェシルは舌打ちをした。自分のこの不用意な一言でトールメン部長の評価が少し上がったと思ったからだ。ビョンドル長官は不思議そうな表情をジェシルに向けたが、すぐに気を取り直したようだ。
「オーランド・ゼムは、全宇宙のシンジケートを潰すつもりになっている。そのために、宇宙パトロールに協力を要請してきた」
「でも、宇宙パトロールだって、掛かりっきりってわけには行かないんじゃありませんか? 他にも犯罪はうんざりするほどあるんですから」
「それは分かっている……」
「じゃあ、どうするんです?」
「これは、わたしの一存で決められる事ではないが……」ビョンドル長官は深々と椅子に座り直した。背もたれが大きく軋んだ音を立てた。「宇宙連邦軍に特別部隊を編成してもらって対処させたいと考えている」
「あ、やっぱり、そうなりますよね」ジェシルはうなずく。「……そこまで計画しているんなら、わたしなんか必要じゃないんじゃありませんか?」言ってからジェシルははっとする。「……まさか、わたしをその特別部隊に入れるとか……」
「いや、それは無い」ビョンドル長官は溜め息をつく。「それは無いのだが、厄介な話があるのだよ……」
「厄介な話? 特別部隊設立のための宇宙評議員の根回しですか? それなら別に厄介でもありません。評議員代表の叔父にちょっと言えば根回しは簡単ですよ。直系のわたしの言う事なら何でも聞くはずですし」
「いや、根回しは大丈夫だ。そうでは無くてな……」ビョンドル長官は再び溜め息をつく。「オーランド・ゼムが、君を指名したのだ」
「トールメン部長からもそう聞きましたが、わたしは会った事が無いんですよ」
「それは分からんが、向こうは良く知っているようだったぞ」
「え~っ! そのオーランド・ゼムって人、ストーカーの類なんじゃないですかぁ?」ジェシルは薄気味悪いと言った表情をする。「わたしは、本当に知らないんですよ。向こうが勝手に知っているだけですよ」
「ふむ……」ビョンドル長官はデスクを右の人差し指でとんとんと打つ。「……まあ、君はある意味で有名人だからな」
「どう言う意味ですか?」
ジェシルはむっとして、ビョンドル長官を睨むが、ビョンドル長官は平然と受け流した。
「……では、行こうか」ビョンドル長官は卓上時計を見て、立ち上がった。「一緒に来なさい」
「どこへですか?」一方的な言われ方に、ジェシルはまたむっとする。「聞かないと行きません」
「オーランド・ゼムに会いに行くのだよ」
つづく
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