学校に着くと、はるみが待ち構えていた。 明は腕をつかまれ、強引に保健室に連れて行かれた。保健室には不良娘たちとくるみと白木先生とがいた。
「さて、全員そろったわね。では、最初のお知らせよ」白木先生が笑顔を明に向けた。「まずは、早田明君、昨日はよく頑張ったわね。へっぽこ返上が決定よ」
「はあ…… それは、ありがとうございます……」
「もっと嬉しそうな顔をしやがれ!」はるみが明の背中を叩いた。「……でも、男らしかったぜ」
「そうね」白木先生もうなずく。「警察にくるみちゃんとはるみちゃんは関係が無いって言ってくれたんだってね。おかげで二人ともそのまま解放されたわ」
「でも、先生は警察からちょっと注意されてたね」桂子が赤い髪を掻き上げながら言った。「『大人が、それも教員が何やってんですか』ってね」
「そうそう」千草が思い出したように含み笑いをする。「その時の先生がさ、しどろもどろで『いや、これは教育の一環で……』とかなんて言っちゃってさ」
「それは言わない約束でしょ!」白木先生が千草に言い返す。「みんなが警察の人をギロッて感じでにらみつけたから、言われたのよ」
「とにかく、へっぽこ……じゃない、明ちゃんよう!」文枝が明の前に立った。「……助けてくれて、ありがとな。あたしは、くるみの次にお前にべた惚れだぜ!」
「ヤダ、文枝ちゃん!」くるみが真っ赤になった。「変な事言わないで!」
「変な事じゃないだろうが」はるみがからかうように言う。「将来の旦那様なんじゃないか?」
「もうっ! みんなの意地悪!」
くるみは言いながらも、ちらちらと明を見ていた。明はどう答えていいのか分からないと言った面持ちだった。
「さて、もう一つお知らせ」白木先生が全員を見回しながら言う。「まだ、公式に発表されていないんだけど……」
「先生、焦らしてないで教えてよ!」文枝が言う。「あたしは焦らされるのが嫌いなんだ」
「だよな」千草が小馬鹿にしたように言う。「文枝はファストフードのハンバーガー屋でも、待たせんじゃねえよって言っちゃあ、いらいらしてるもんな」
「うるせえなあ!」
「だって本当の事じゃん!」
「まあまあ」白木先生が割って入る。「実はね、川村ひろみ先生なんだけど、辞めちゃったみたいなのよ」
「えっ!」
皆は驚いた。明一人平然としている。
「昨日の夜中に、いきなり校長の家にやって来て『わたし、辞めます!』って辞表を渡して帰ったらしいの。校長が慌てて後を追ったけど、もう姿が無かったんだって。で、今朝、教頭が川村先生のアパートに言って確認したら、もぬけの殻だったんですって」
ジェシルが何か装置を使って校長宅を見つけて、無理矢理話を付けたのだろう。アパートはカルースが全部回収したはずだ、明は思った。
「いきなりバックれちまうなんて、すげぇや……」桂子が感心したようにつぶやいた。「ひょっとしたら、白木先生よりもワルだったんじゃないか?」
「そうかもね」白木先生は笑う。「ま、大変なのは校長や教頭やそれより上のお偉いさんたちだから、どうでも良いんだけどね」
「とにかく、周りはUFO事件や川村先生失踪事件でにぎやかだけど」くるみが言って明を見る。「わたしたちには、昨日の明の活躍が一番の話題よ!」
「そう言うことだ」はるみはうなずいた。「これで来年の頭は明で良さそうだな。これからばしばし鍛えてやるぜ」
「ダメよ!」くるみがはるみの前に立ちふさがった。「明を不良にしちゃダメ! 不良ははるみちゃんの代でおしまいよ!」
「うるせぇな!」
「うるさくってもダメよ!」
くるみとはるみ睨み合っている。周りは楽しそうに笑っている。
「あの…… ちょっとトイレ……」
明はそう言うと保健室を出た。
廊下の窓から空を見上げる。
……ジェシルたち、要件を全て終えて帰っちまったんだなぁ、明は思った。
明は制服の内ポケットに手を入れる。そこから万年筆のようなものを取り出した。
「これはね、地球で何か不可解な事件があったら、ここを押して起動させてね。そうすれば、特殊な音波が発信されて、宇宙パトロールにすぐに届くの。受信できたら、直ぐにやって来るわ。それと、これは誰にも教えちゃダメよ。地球人はこれを受け入れるにはまだ早いから。そう言うわけで、明君、君は宇宙パトロールの特別捜査官ってところね」
「でも、オレで良いんですか?」
「以前にこの国である任務に就いていた時に観たテレビとかでやってた宇宙物で、こんなの持って巨大ヒーローに変身する人の名前が『ハヤタ』とか言ってたわ。だから、ちょうど良いじゃない?」
ジェシルは可愛い声で言って笑うと、装置を明に手渡した。
明はしみじみと装置を見た。手渡してくれた時に触れたジェシルの柔らかな手を思い出す。
……正義と英雄と勇者か……
明はにやりと笑うと装置を内ポケットにしまい、トイレへと向かった。
おしまい
作者註:
宇宙パトロール捜査官ジェシル・アンのシリーズ、これで三作になりました。
「ある男の日記」と「盗まれた女神像」、そして本作「吸血鬼大作戦」です。
気に言って頂けましたら、再読をして頂けると幸いです。
これからも思いついたら書きたいと思います。
「さて、全員そろったわね。では、最初のお知らせよ」白木先生が笑顔を明に向けた。「まずは、早田明君、昨日はよく頑張ったわね。へっぽこ返上が決定よ」
「はあ…… それは、ありがとうございます……」
「もっと嬉しそうな顔をしやがれ!」はるみが明の背中を叩いた。「……でも、男らしかったぜ」
「そうね」白木先生もうなずく。「警察にくるみちゃんとはるみちゃんは関係が無いって言ってくれたんだってね。おかげで二人ともそのまま解放されたわ」
「でも、先生は警察からちょっと注意されてたね」桂子が赤い髪を掻き上げながら言った。「『大人が、それも教員が何やってんですか』ってね」
「そうそう」千草が思い出したように含み笑いをする。「その時の先生がさ、しどろもどろで『いや、これは教育の一環で……』とかなんて言っちゃってさ」
「それは言わない約束でしょ!」白木先生が千草に言い返す。「みんなが警察の人をギロッて感じでにらみつけたから、言われたのよ」
「とにかく、へっぽこ……じゃない、明ちゃんよう!」文枝が明の前に立った。「……助けてくれて、ありがとな。あたしは、くるみの次にお前にべた惚れだぜ!」
「ヤダ、文枝ちゃん!」くるみが真っ赤になった。「変な事言わないで!」
「変な事じゃないだろうが」はるみがからかうように言う。「将来の旦那様なんじゃないか?」
「もうっ! みんなの意地悪!」
くるみは言いながらも、ちらちらと明を見ていた。明はどう答えていいのか分からないと言った面持ちだった。
「さて、もう一つお知らせ」白木先生が全員を見回しながら言う。「まだ、公式に発表されていないんだけど……」
「先生、焦らしてないで教えてよ!」文枝が言う。「あたしは焦らされるのが嫌いなんだ」
「だよな」千草が小馬鹿にしたように言う。「文枝はファストフードのハンバーガー屋でも、待たせんじゃねえよって言っちゃあ、いらいらしてるもんな」
「うるせえなあ!」
「だって本当の事じゃん!」
「まあまあ」白木先生が割って入る。「実はね、川村ひろみ先生なんだけど、辞めちゃったみたいなのよ」
「えっ!」
皆は驚いた。明一人平然としている。
「昨日の夜中に、いきなり校長の家にやって来て『わたし、辞めます!』って辞表を渡して帰ったらしいの。校長が慌てて後を追ったけど、もう姿が無かったんだって。で、今朝、教頭が川村先生のアパートに言って確認したら、もぬけの殻だったんですって」
ジェシルが何か装置を使って校長宅を見つけて、無理矢理話を付けたのだろう。アパートはカルースが全部回収したはずだ、明は思った。
「いきなりバックれちまうなんて、すげぇや……」桂子が感心したようにつぶやいた。「ひょっとしたら、白木先生よりもワルだったんじゃないか?」
「そうかもね」白木先生は笑う。「ま、大変なのは校長や教頭やそれより上のお偉いさんたちだから、どうでも良いんだけどね」
「とにかく、周りはUFO事件や川村先生失踪事件でにぎやかだけど」くるみが言って明を見る。「わたしたちには、昨日の明の活躍が一番の話題よ!」
「そう言うことだ」はるみはうなずいた。「これで来年の頭は明で良さそうだな。これからばしばし鍛えてやるぜ」
「ダメよ!」くるみがはるみの前に立ちふさがった。「明を不良にしちゃダメ! 不良ははるみちゃんの代でおしまいよ!」
「うるせぇな!」
「うるさくってもダメよ!」
くるみとはるみ睨み合っている。周りは楽しそうに笑っている。
「あの…… ちょっとトイレ……」
明はそう言うと保健室を出た。
廊下の窓から空を見上げる。
……ジェシルたち、要件を全て終えて帰っちまったんだなぁ、明は思った。
明は制服の内ポケットに手を入れる。そこから万年筆のようなものを取り出した。
「これはね、地球で何か不可解な事件があったら、ここを押して起動させてね。そうすれば、特殊な音波が発信されて、宇宙パトロールにすぐに届くの。受信できたら、直ぐにやって来るわ。それと、これは誰にも教えちゃダメよ。地球人はこれを受け入れるにはまだ早いから。そう言うわけで、明君、君は宇宙パトロールの特別捜査官ってところね」
「でも、オレで良いんですか?」
「以前にこの国である任務に就いていた時に観たテレビとかでやってた宇宙物で、こんなの持って巨大ヒーローに変身する人の名前が『ハヤタ』とか言ってたわ。だから、ちょうど良いじゃない?」
ジェシルは可愛い声で言って笑うと、装置を明に手渡した。
明はしみじみと装置を見た。手渡してくれた時に触れたジェシルの柔らかな手を思い出す。
……正義と英雄と勇者か……
明はにやりと笑うと装置を内ポケットにしまい、トイレへと向かった。
おしまい
作者註:
宇宙パトロール捜査官ジェシル・アンのシリーズ、これで三作になりました。
「ある男の日記」と「盗まれた女神像」、そして本作「吸血鬼大作戦」です。
気に言って頂けましたら、再読をして頂けると幸いです。
これからも思いついたら書きたいと思います。
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