お話

日々思いついた「お話」を思いついたまま書く

吸血鬼大作戦 ⑩

2019年08月18日 | 吸血鬼大作戦(全30話完結)
 翌日の登校時間、明は考え込みながら歩いている。
 昨日、三山絵美の家に寄ってからの帰り道、ずっと押し黙ったままで明をすっかり無視し、そのままさよならも言わずに別れたくるみが、気になっていたのだ。肘撃ちされた脇腹が時々思い出したように痛む。
 くるみは何を深刻に考えていたのだろうか? 吸血宇宙人について何か思い至ったのだろうか? 明は痛む脇腹を制服の上から撫でる。そうしながら、明なりに知恵を絞ってみる。
 昨日の話で出て来たのは、白木先生と不良たちだ。そう言えば、白木先生、三山さんの犬に関心を持ったみたいな話だったなあ。……待てよ。猫事件は、新任の先生が来てから起きたんじゃなかったっけ? そうだ、それは間違いない。からだの悪そうなひろみ先生や妻子持ちの松重先生は除外して良いだろうから、白木先生って可能性は大きいかも知れない…… (明の年頃は、自分の周りが世界の全てだ中心だと思いがちな特徴がある)
「おはよう、へっぽこ!」
 くるみがいきなり曲がり角から顔を出してきた。不意打ちを食らった明は、わっと叫んで飛び上がった。
「なにやってんのよ!」くるみが呆れ顔をする。「毎日の事なんだから、少しは学習してよね!」
「ふん!」明は鼻を鳴らす。「お前も、そんな子供染みた事、そろそろ止めろよな!」
「いいじゃないの。どうせ中学の間だけなんだから。わたしとへっぽこじゃ、行く高校が違う事になるに決まっているんだから」
 そう言うと、くるみはけらけらと笑う。確かに、くるみは市内の最優秀校へ進むだろうが、明はまあぼちぼちな高校になるだろう。朝から面白くない話だ。さらに面白くないのは「へっぽこ」が定着してしまったことだった。
「それにしても、何を考えて歩いていたのよ?」
「いや、別に……」明は言葉を濁す。何を言ったって、何か言われるに決まっているからだ。「な~んにも考えちゃいないよ」
「嘘ね」くるみは即座に否定した。「昨日の絵美の話から、白木先生が吸血宇宙人だと思ったんでしょ?」
「いや、そんな事、考えもしなかったよ」
 明は白々しい棒読みのような口調になった。
「その口調って、図星の時のものよねぇ……」くるみは鼻で笑った。あっさり見破られた明は真っ赤になる。「で、そんな事を本気で思っていたんだ……」
「だってさ」明は開き直った。「三山さん家の犬に会ったのは白木先生だし、猫事件だって、白木先生が赴任してから起こったし……」
「へっぽこねぇ……」くるみはため息をついた。「赴任だったら、ひろみ先生だって松重先生だっているじゃない? 他にも探せば、その日にこの市にやってきた人って、いっぱいいるんじゃないの? それに、元々居る人が、実は犯人かも知れないわよ」
「でもさ……」くるみにまくし立てられ、明は赤い顔から青い顔になって行く。「犬に関係していたのは白木先生だろう?」
「他にも二頭犠牲になっているのよ。そっちの犯人が絵美の犬を襲ったってことだって考えられるじゃない」
「そうかもしれないけどさ……」
「単純な頭じゃ、そこまでが限界ね」
「じゃあさ!」明が大きな声を出す。「くるみはどう思ってんだよ!」
「なに逆切れしてんのよ」くるみは明を見ながら笑う。「みっともないわよ」
「ふん! とにかく、くるみはどう思ってんだい?」
「わたしは……」くるみは真剣な表情になる。「まだ分かんないわ……」
「なんだよう! 分かんないくせに文句だけは言うんだな!」
「何よ、その言い方!」くるみが明をにらみつけた。「いいわ! 分かったわ! 学校着いたら白木先生の保健室へ行けばいいんだわ! そして、先生に直接聞けばいいんだわ!」
「……」くるみの激怒に明は一歩下がった。明は色々と言い訳を考える。「……でもさ、白木先生が犯人だったら、乗り込んで行ったオレが犠牲になるかもしれないじゃないか。危険だろ? な?」
「じゃあ、わたしも一緒に行ってあげるわ! へっぽこの前に立っていてあげるわ! そして、わたしが襲われでもしたら一目散に逃げると良いんだわ!」
 そう言うと、くるみは踵を返して、すたすたと学校へ向かって歩き出した。
 言い出したら聞かないくるみの性格を知っている明は、大きなため息をつくと、重い足取りで後に続く。


 つづく
 

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