くるみとはるみが、公園に走って来た。
通りの角を曲がった文枝が悲鳴を上げ、明が何も言わずに駈け出した。その後に白木先生を先頭に行ってみると、座り込んでわあわあ泣いている文枝がいた。
「文枝! 大丈夫か!」
千草が文枝の前にしゃがみ込んだ。
「怖かったよう!」
文枝は千草に抱きついてさらに泣き出した。こらえきれずに千草は尻もちをついた。
桂子が文枝の髪の毛を掻き上げて首筋を調べ、ほっと安堵のため息をついた。
「何ともなってないや……」
「よかったな文枝!」
「……うん、ありがとう、千草、桂子……」
そんなやりとりを聞きながら、くるみが目を凝らすと、走って行く明の後ろ姿が見えた。
「明!」
くるみはそう叫ぶと追いかけた。
「くるみちゃん! ダメよ!」
白木先生が言う。しかし、くるみの足は止まらなかった。
「しょうがないヤツだ!」
そう言うと、はるみが走り出した。
しばらくしてくるみに追いついたはるみだったが、二人の足が止まった。明を見失ってしまったからだ。
「あのへっぽこ、後先考えずに追っかけやがって!」
はるみが怒っている。くるみも怒っている。
「明に何かあったら、相手を只じゃおかないわ!」
「おい、くるみ……」はるみが呆れた顔で言う。「お前、それって……」
「とにかく捜そう! そんなに遠くに行けるわけないわ!」
「ああ、そうだな」
二人は走った。途中、二手に分かれている路地に出た。一旦立ち止まった。足音でも聞こえないかと耳を澄ましてみたが、何も聞こえなかった。
「どうしよう…… へっぽこ、襲われたのかも……」はるみが不安そうに言う。「戻って、先生に言って警察を呼ぼう」
「イヤよ! 明は必ず近くにいるわよ!」くるみはそう言ってから、はっとする。「公園! そうよ、公園よ! この辺りにあったはずだわ。逃げ込むなら公園は最適よ!」
くるみは走り出した。はるみもその後に続く。そして、公園にたどり着いた。乱れた息もそのままに、くるみは公園にゆっくりした足取りで入った。はるみもそれに続く。
「静かだな……」はるみが小声で言う。「居ないんじゃないのか?」
くるみは返事をせず周囲を見回している。公園の中程に街灯が立っている。そこに人影が見えた。くるみにはそれが誰だかすぐに分かった。
「明!」くるみは言うと駈け出した。「明! 大丈夫?」
駈けて来るくるみに気が付いた明は手を振った。くるみは明のそばまで来て、足を止めた。ほっとしたのか、くるみの目に涙が浮かんだ。しかし、明に気付かれないように、袖口で汗をぬぐいながら涙もぬぐった。
ふと見ると、明の足元に全身黒ずくめの中年の男が倒れていた。気を失っているようだった。
「……明、それ……」くるみが男を指差した。「まさか、犯人……?」
「うん、そうだよ」明は平然と答える。「公園まで追いかけて、そして思いっきりタックルしてみたら、上手い具合に倒れて、その時に頭を打ったらしい」
「なに! へっぽこが捕まえたのか!」追いついたはるみが言う。動かない男を爪先で蹴った。「この野郎が文枝を! ……にしても、へっぽこ、やるじゃん! 見直したぜ!」
その時、強い光が三人に当たった。巡回中の二人組の警官だった。光は懐中電灯だった。
「何かあったのかい? こんな遅い時間に……」懐中電灯は倒れている男を照らした。「……そこに倒れているのは?」
「一連の吸血騒動の犯人です!」くるみが胸を張って言った。「この明が捕まえたんです!」
「何だって? そりゃ確かかい?」
明はうなずいた。話しかけてきた警官は男に手錠をかけ、もう一人が無線で連絡をしていた。
しばらくすると、数台のパトカーがサイレンを鳴らして公園前に来た。近所からも人が出て来た。
男はやっと気が付いたらしく、立ち上がろうとしたが、そこを警官に押さえられ、新たに来た警官たちに抱えられるようにして連れて行かれた。
「君たちにも話を聞きたいんだけど」最初に話しかけてきた警官が三人の顔を見ながら言う。「どうかな? 大丈夫かな?」
「はい」明は答えた。「でも、この二人は後から来たんで、何もわからないと思います。帰してあげて欲しいです」
警官はうなずいた。
そこへ、騒ぎを聞きつけて白木先生と女子たちが走って来た。女子たちは互いに肩を組んで泣き出した。白木先生はその姿を見て、何度もうなずきながら涙をぬぐっていた。
つづく
通りの角を曲がった文枝が悲鳴を上げ、明が何も言わずに駈け出した。その後に白木先生を先頭に行ってみると、座り込んでわあわあ泣いている文枝がいた。
「文枝! 大丈夫か!」
千草が文枝の前にしゃがみ込んだ。
「怖かったよう!」
文枝は千草に抱きついてさらに泣き出した。こらえきれずに千草は尻もちをついた。
桂子が文枝の髪の毛を掻き上げて首筋を調べ、ほっと安堵のため息をついた。
「何ともなってないや……」
「よかったな文枝!」
「……うん、ありがとう、千草、桂子……」
そんなやりとりを聞きながら、くるみが目を凝らすと、走って行く明の後ろ姿が見えた。
「明!」
くるみはそう叫ぶと追いかけた。
「くるみちゃん! ダメよ!」
白木先生が言う。しかし、くるみの足は止まらなかった。
「しょうがないヤツだ!」
そう言うと、はるみが走り出した。
しばらくしてくるみに追いついたはるみだったが、二人の足が止まった。明を見失ってしまったからだ。
「あのへっぽこ、後先考えずに追っかけやがって!」
はるみが怒っている。くるみも怒っている。
「明に何かあったら、相手を只じゃおかないわ!」
「おい、くるみ……」はるみが呆れた顔で言う。「お前、それって……」
「とにかく捜そう! そんなに遠くに行けるわけないわ!」
「ああ、そうだな」
二人は走った。途中、二手に分かれている路地に出た。一旦立ち止まった。足音でも聞こえないかと耳を澄ましてみたが、何も聞こえなかった。
「どうしよう…… へっぽこ、襲われたのかも……」はるみが不安そうに言う。「戻って、先生に言って警察を呼ぼう」
「イヤよ! 明は必ず近くにいるわよ!」くるみはそう言ってから、はっとする。「公園! そうよ、公園よ! この辺りにあったはずだわ。逃げ込むなら公園は最適よ!」
くるみは走り出した。はるみもその後に続く。そして、公園にたどり着いた。乱れた息もそのままに、くるみは公園にゆっくりした足取りで入った。はるみもそれに続く。
「静かだな……」はるみが小声で言う。「居ないんじゃないのか?」
くるみは返事をせず周囲を見回している。公園の中程に街灯が立っている。そこに人影が見えた。くるみにはそれが誰だかすぐに分かった。
「明!」くるみは言うと駈け出した。「明! 大丈夫?」
駈けて来るくるみに気が付いた明は手を振った。くるみは明のそばまで来て、足を止めた。ほっとしたのか、くるみの目に涙が浮かんだ。しかし、明に気付かれないように、袖口で汗をぬぐいながら涙もぬぐった。
ふと見ると、明の足元に全身黒ずくめの中年の男が倒れていた。気を失っているようだった。
「……明、それ……」くるみが男を指差した。「まさか、犯人……?」
「うん、そうだよ」明は平然と答える。「公園まで追いかけて、そして思いっきりタックルしてみたら、上手い具合に倒れて、その時に頭を打ったらしい」
「なに! へっぽこが捕まえたのか!」追いついたはるみが言う。動かない男を爪先で蹴った。「この野郎が文枝を! ……にしても、へっぽこ、やるじゃん! 見直したぜ!」
その時、強い光が三人に当たった。巡回中の二人組の警官だった。光は懐中電灯だった。
「何かあったのかい? こんな遅い時間に……」懐中電灯は倒れている男を照らした。「……そこに倒れているのは?」
「一連の吸血騒動の犯人です!」くるみが胸を張って言った。「この明が捕まえたんです!」
「何だって? そりゃ確かかい?」
明はうなずいた。話しかけてきた警官は男に手錠をかけ、もう一人が無線で連絡をしていた。
しばらくすると、数台のパトカーがサイレンを鳴らして公園前に来た。近所からも人が出て来た。
男はやっと気が付いたらしく、立ち上がろうとしたが、そこを警官に押さえられ、新たに来た警官たちに抱えられるようにして連れて行かれた。
「君たちにも話を聞きたいんだけど」最初に話しかけてきた警官が三人の顔を見ながら言う。「どうかな? 大丈夫かな?」
「はい」明は答えた。「でも、この二人は後から来たんで、何もわからないと思います。帰してあげて欲しいです」
警官はうなずいた。
そこへ、騒ぎを聞きつけて白木先生と女子たちが走って来た。女子たちは互いに肩を組んで泣き出した。白木先生はその姿を見て、何度もうなずきながら涙をぬぐっていた。
つづく
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます