「おはようございます!」札付き四人娘は起立すると、白木先生に深々と頭を下げた。「今日もよろしくお願いします!」
「はいはい、あなた達、学校に来るだけで上等よね」
白木先生は言って豪快に笑う。姉御肌なのだろう。札付き娘たちが素直だった。白木先生は明とくるみを見る。
「あら、新顔ね。それも男の子なんて初めてじゃないかしらねぇ……」白木先生はじろじろと明を見る。「このお姉さんたちのお友達?」
「お友達じゃなくて、おもちゃだよ、先生」
文枝はぐふぐふ笑って、隣に座っている明の肩を抱えるように、その太い腕を回した。明の全身が硬直する。
「やめろよ、文枝」はるみが言う。「そいつは、くるみのおもちゃだろ?」
全員が笑った。くるみも笑っている。白木先生は明を指差しながら笑っている。ふてくされているのは明だけだった。
「で? 本当はどこか痛かったりなんかするわけ?」ひとしきり笑ったあとに白木先生は明に言った。「それとも、一緒の娘の方?」
「こいつは、あたしの従妹のくるみさ」はるみが紹介した。「ほら、噂を聞いてない? 美人で頭が良くってってさ」
「ああ、聞いた聞いた! 道理で綺麗な娘だと思ったわ」白木先生は感心した顔でくるみを見ている。「この娘、はるみちゃんの従妹なんだ…… 一方は優秀なのに、一方は…… ま、良いか」
「先生、そりゃないよ」はるみは文句を言う。「こう見えて、あたし、勉強はできるんだから」
「だったら、教室で勉強すれば?」
「教室が嫌いだから、無理」
「やれやれ……」
「白木先生!」くるみが割り込む。「実はお聞きしたいことがあるんです!」
「え?」突然のくるみに、白木先生はちょっと驚いた顔をした。「何かしら? ひょっとして、スリーサイズとか?」
「いえ、違います」くるみは白木先生の冗談には乗らず、真剣な表情だった。「……とは言っても、聞きたがっているのは、このへっぽこですけど」
「はぇ?」いきなり話を振られた明は変な声を発した。「いえ、あの、その……」
「何よ、男らしく言いなさいよ! そのために朝から保健室に来たんじゃない!」
くるみの言葉に、他の不良娘たちも、そうだそうだとうなずく。……事情も知らないくせに、うなずくなよう! 明は思った。
「ほら、登校の時に言ってたじゃないの。事件の黒幕は…… って」
「分かったよ……」
明は言った。ここでのらりくらりと逃げ回っても、いずれは八方塞がりになって追いつめられ、さらに悲惨な目に遇う事は分かっていたからだ。今はくるみだけじゃない、はるみとゆかいな仲間たちもくっついているのだ。勝ち目はない。
「先生は公園の猫事件と飼い犬事件の事、知ってますか?」
「知ってるわよ。ずいぶん物騒な町なのねと思ったから」
「そうですか……」
明は黙ってしまった。皆の視線が明を突き刺している。
「それで?」白木先生が先を促す。「まさか、それだけってわけじゃないでしょ?」
「いえ、もう、良いです……」明は聞こえないくらいの小声で言った。これらの事件に白木先生は関係ないと思ったからだった。「すみませんでした。ボクが悪かったです……」
「何よ! しっかりしなさいよ!」くるみが大きな声で言う。「白木先生が犯人で、吸血宇宙人だって!」
「なんだとお!」
はるみが怒鳴りつけながら立ち上がった。他の不良娘たちも立ち上がる。それぞれが激怒の表情だ。
「てめえ、ふざけんじゃねえぞ!」
「一辺死んでみるか?」
「校庭に埋めるぞ!」
不良娘たちは口々に明へ脅し文句を吐く。その迫力と漲る殺気に、明は腰が抜けたようになった。
「お待ち!」鋭い声を出したのは白木先生だった。娘たちの殺気がすうっと引いた。白木先生は笑顔を明に向けた。しかし、妙に迫力がある。「……君、何て名前?」
「……早田 ……明 ……です……」明はおろおろしながら答えた。「いえ、すみません…… くるみと話しているうちに、ちょっとそんな気になってしまって……」
「おい、へっぽこ!」はるみが怒鳴る。「てめえ、従妹のせいにしやがるのか、あ?」
「まあまあ」白木先生は手を上げて、はるみを制する。「……早田明君。……よくぞ、我が正体を見破ったわね……」
「は?」明は驚く。不良娘たちも後ずさる。くるみも目を丸くする。「……て、事は…… まさか……」
「そうよ、わたしが宇宙人よ」白木先生は低い声で言うと、じっと明を見つめる。白木先生の頬が次第に紅潮し、口元が歪んでくる。と――「あはははははは!」
白木先生は堪えきれずに爆笑した。皆、あっけにとられている。白木先生は涙を流しながら笑っている。
「あはははは! 宇宙人だなんて、冗談に決まっているでしょ! ……しかし、へっぽこ君。中々君は楽しい子だねぇ…… あはははは!」
つづく
「はいはい、あなた達、学校に来るだけで上等よね」
白木先生は言って豪快に笑う。姉御肌なのだろう。札付き娘たちが素直だった。白木先生は明とくるみを見る。
「あら、新顔ね。それも男の子なんて初めてじゃないかしらねぇ……」白木先生はじろじろと明を見る。「このお姉さんたちのお友達?」
「お友達じゃなくて、おもちゃだよ、先生」
文枝はぐふぐふ笑って、隣に座っている明の肩を抱えるように、その太い腕を回した。明の全身が硬直する。
「やめろよ、文枝」はるみが言う。「そいつは、くるみのおもちゃだろ?」
全員が笑った。くるみも笑っている。白木先生は明を指差しながら笑っている。ふてくされているのは明だけだった。
「で? 本当はどこか痛かったりなんかするわけ?」ひとしきり笑ったあとに白木先生は明に言った。「それとも、一緒の娘の方?」
「こいつは、あたしの従妹のくるみさ」はるみが紹介した。「ほら、噂を聞いてない? 美人で頭が良くってってさ」
「ああ、聞いた聞いた! 道理で綺麗な娘だと思ったわ」白木先生は感心した顔でくるみを見ている。「この娘、はるみちゃんの従妹なんだ…… 一方は優秀なのに、一方は…… ま、良いか」
「先生、そりゃないよ」はるみは文句を言う。「こう見えて、あたし、勉強はできるんだから」
「だったら、教室で勉強すれば?」
「教室が嫌いだから、無理」
「やれやれ……」
「白木先生!」くるみが割り込む。「実はお聞きしたいことがあるんです!」
「え?」突然のくるみに、白木先生はちょっと驚いた顔をした。「何かしら? ひょっとして、スリーサイズとか?」
「いえ、違います」くるみは白木先生の冗談には乗らず、真剣な表情だった。「……とは言っても、聞きたがっているのは、このへっぽこですけど」
「はぇ?」いきなり話を振られた明は変な声を発した。「いえ、あの、その……」
「何よ、男らしく言いなさいよ! そのために朝から保健室に来たんじゃない!」
くるみの言葉に、他の不良娘たちも、そうだそうだとうなずく。……事情も知らないくせに、うなずくなよう! 明は思った。
「ほら、登校の時に言ってたじゃないの。事件の黒幕は…… って」
「分かったよ……」
明は言った。ここでのらりくらりと逃げ回っても、いずれは八方塞がりになって追いつめられ、さらに悲惨な目に遇う事は分かっていたからだ。今はくるみだけじゃない、はるみとゆかいな仲間たちもくっついているのだ。勝ち目はない。
「先生は公園の猫事件と飼い犬事件の事、知ってますか?」
「知ってるわよ。ずいぶん物騒な町なのねと思ったから」
「そうですか……」
明は黙ってしまった。皆の視線が明を突き刺している。
「それで?」白木先生が先を促す。「まさか、それだけってわけじゃないでしょ?」
「いえ、もう、良いです……」明は聞こえないくらいの小声で言った。これらの事件に白木先生は関係ないと思ったからだった。「すみませんでした。ボクが悪かったです……」
「何よ! しっかりしなさいよ!」くるみが大きな声で言う。「白木先生が犯人で、吸血宇宙人だって!」
「なんだとお!」
はるみが怒鳴りつけながら立ち上がった。他の不良娘たちも立ち上がる。それぞれが激怒の表情だ。
「てめえ、ふざけんじゃねえぞ!」
「一辺死んでみるか?」
「校庭に埋めるぞ!」
不良娘たちは口々に明へ脅し文句を吐く。その迫力と漲る殺気に、明は腰が抜けたようになった。
「お待ち!」鋭い声を出したのは白木先生だった。娘たちの殺気がすうっと引いた。白木先生は笑顔を明に向けた。しかし、妙に迫力がある。「……君、何て名前?」
「……早田 ……明 ……です……」明はおろおろしながら答えた。「いえ、すみません…… くるみと話しているうちに、ちょっとそんな気になってしまって……」
「おい、へっぽこ!」はるみが怒鳴る。「てめえ、従妹のせいにしやがるのか、あ?」
「まあまあ」白木先生は手を上げて、はるみを制する。「……早田明君。……よくぞ、我が正体を見破ったわね……」
「は?」明は驚く。不良娘たちも後ずさる。くるみも目を丸くする。「……て、事は…… まさか……」
「そうよ、わたしが宇宙人よ」白木先生は低い声で言うと、じっと明を見つめる。白木先生の頬が次第に紅潮し、口元が歪んでくる。と――「あはははははは!」
白木先生は堪えきれずに爆笑した。皆、あっけにとられている。白木先生は涙を流しながら笑っている。
「あはははは! 宇宙人だなんて、冗談に決まっているでしょ! ……しかし、へっぽこ君。中々君は楽しい子だねぇ…… あはははは!」
つづく
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