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コーイチ物語 「秘密のノート」 51

2022年09月04日 | コーイチ物語 1 6) 引き出しの美女  
 コーイチは吉田部長のデスクの大引き出しを開けた。
 途端にコーイチは引き出しの中を見ながら固まってしまったかのように身動きが出来なくなってしまった。
 机の中は底知れぬ濃い闇で満ちていた。邪悪な気配がその闇からむらむらと立ち上ってくる。
 しばらくすると、闇の中心のはるか底の方から白い小さな点が浮かんできた。点は浮かんでくるにつれ大きさを増して行く。
 見たくもないのに、目が離せなくなっている。
 点は楕円形の面になっている。何か模様のようなものが見えてくる。
 楕円の上半分の真ん中あたりに、二本のくっきりとした黒い短い線が横一列に並び、その少し下にこれも二本、しかし細い線が同じように横一列に並んでいる。下半分の丁度中央に赤い線が横に一本あった。
 その線の両端がゆっくりと上がり始めた。それに合わせるかのように、上半分の細い線の一本が円形に変わり始めた。
 楕円形全体はさらに大きくなって行く。楕円形の全体がはっきりとした。その途端、
「どわぁぁぁぁぁ!」
 コーイチは悲鳴を上げた。
 見た、見た、見た! 見てしまった。これはこれはこれは…… 
 楕円形は若い女性の顔になっていた。
 両端が上がった形の良い赤い唇が笑みを作り、やや太めの眉の下の目は片方だけ閉じられてコーイチにウインクをしているように見えた。
「清水さん清水さん清水さん清水さん清水さん清水さん清水さん清水さん清水さん!」
 コーイチは必死に叫んだ。まだ目がその顔から離せない。引き出しの中の顔はさらにはっきりとし、赤い唇からこぼれた白い歯とつんと高くなった鼻と軽くカールしている睫毛と透き通るような白い肌とが手に取るように見てとれた。
「どうしたの、コーイチ君?」
 清水が声をかけた。手には受話器を持っている。
「あの、その、あの、その……」
 コーイチは上手く説明が出来ず、右人差し指で引き出しの中を指し、にっと笑顔を作りウインクをして見せた。
「何か出たの?」
 清水が受話器を戻し、うんうんと頷くコーイチのところまで行った。そして、コーイチが指差す引き出しをのぞいた。
「なによ、何かあるかと期待したのに、元課長のガラクタばっかりじゃない」
 清水はつまらなさそうに言った。
「えっ!」
 コーイチは驚いて引き出しの中を見た。
 幾つものタバコの空箱やらガスのなくなったライターやら約一年分の給料明細やら幾葉かの川村静世の太目の太腿を写した写真やらが雑然と入っていた。
「あれえぇぇぇ?」

       つづく

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