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日々思いついた「お話」を思いついたまま書く

妖魔始末人 朧 妖介 81

2010年05月30日 | 朧 妖介(全87話完結)
 妖魔が雄叫びを上げた。
 妖魔を白い光が貫いていた。
『斬鬼丸』が瘤の中を激しい勢いで突き通り、妖魔へと抜けたのだ。その煽りで、エリは槍から抜け落ち、瘤の上に転がった。
 貫かれ、宙でもがく妖魔を、葉子は残忍な笑みを浮かべて見上げていた。  
「お前は始末しても足りないわ・・・」
 葉子は『斬鬼丸』の柄を握る手に力を込めた。 
「・・・葉子ぉぉ・・・」妖魔の顔が幸久に変わった。「止めてくれぇぇ・・・ 俺を助けてくれぇぇ・・・」
「幸久・・・」葉子の目が細められた。「・・・残念ね。もうわたしはあなたの事をどうとも思っていないわ。もうわたしの心が痛むこともないの」
「・・・葉子・・・ 助けてくれたら、楽しい事をいくらでもしてやる・・・」幸久は言うと力なく笑って見せた。「約束する・・・」
「・・・ダメよ」葉子は妖介に視線を走らせ、それから幸久を見つめた。「先約があるの!」     妖魔を貫いている刀身の白い輝きが増した。
「葉子ぉぉぉぉああああうぎぎぎぃぃぃ!」
 幸久の声が次第に獣の方向へと変わって行った。幸久の顔が緑色に変わり、赤黒い太い筋が何本も浮き上がった。白濁に目が吊り上がり、葉子を睨みつけた。葉子は笑ってみせた。
 声が止んだ。妖魔の全身から力が抜け、動きが止まった。『斬鬼丸』の刀身が消えた。
 妖魔はゆっくりと霧散した。静寂があった。葉子はほっと息を漏らした。
 途端に瘤どもが渦を巻くように激しく動き出した。瘤一つ一つが、先を争って葉子の周りから放れて行く。まるで一斉に飛び立つ蝗の大群のようだ。荒れた疾風が巻き起こる。悲鳴や雄叫びが絶え間なく流れる。生臭い臭いにむせ返る。瘤の群れからは、怖れの波動が伝わって来る。逃げ惑う瘤どもの中には、葉子に触れて霧散する物もあった。
 葉子は耐え切れず、目を閉じ、その場にしゃがみ込んだ。瘤どもの気配が続く。
 ・・・妖介! エリ! ・・・ 葉子は動けない自分にもどかしさを感じていた。・・・わたしがもっと早くしっかりしていたら、こんな事にはならなかったのに・・・ 自分に対して口惜しさが溢れる。妖介の人を馬鹿にしたような笑みや、エリの生意気そうな表情が浮かぶ。
 不意に周囲が静かになった。悲鳴や雄叫び、生臭い臭い、それらが消えた。
 葉子は顔を上げた。・・・ここは! 
 葉子の寝室だった。灯りが点いている。
 ・・・戻って来れたんだ!
 葉子は立ち上がると、周りを見た。
 妖介がカーペットの上にうつ伏せたままでいた。
 エリがベッドの上で目を開けたまま仰向けていた。

      つづく




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