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大怪獣オチラ 対 宇宙怪獣モヘラ  弐拾伍

2019年08月03日 | オチラ 対 モヘラ(全27話完結)
 幼い子供たちが突然泣き出すと言う事が、世界各地で起きるようになった。
 大人たちはオチラが出現する前触れだと信じた。子供たちが無く度に、大人たちは希望を持った。しかし、オチラの出現は確認できなかった。大人たちは苛立った。苛立つ間にもモヘラの襲撃がある。人々は疲弊した。オチラへの信仰にも似た期待はいつしか薄らいで行った。泣き出す子供を叱る大人が増えた。
 イタリアの社会学者のカルロ・パッチーニ博士は、今のペースでモヘラが世界を襲い続けると八年以内には人類は絶滅すると発表した。そして、絶滅を避けるのならば、モヘラと言う「天敵」を受け入れ、多少の犠牲を覚悟し、とにかく人口を増やす必要がある、と説いた。人間としての種の保存を思い、賛同する者も多かった。しかし、宗教家たちを中心にして、モヘラの餌を作り出しながら生き続けるよりは、潔く絶滅を望むのが人の道であるとの声も多かった。
 二分した世論は、その支持者同士の衝突へと発展して行った。ある時は口論で、ある時は暴力で。その様子を「モヘラに食われる前に共食いをしている」と、日本のニュースキャスターの青木崇広が、自身のニュース番組で皮肉った。この見方が世界に広まり、争いをしている姿を見ると人々は「共食い!」と非難した。その効果もあって、二派の争いは沈静化した。
 だが、存続か絶滅か、選択する必要は刻一刻と迫っていた。
 人類は大きな岐路に立っていた。
 モヘラはヒマラヤ山脈のエベレスト中腹に二週間ほど居た。モヘラは甲高い声で鳴くと、その大きな羽をはばたかせ、飛び立った。
 各国の軍事レーダーがモヘラの動きを察知し追尾する。到着地点は予想できない。モヘラが気まぐれを起こしたように進路を変えるからだ。通過点に当たる国では万一に備えて緊急態勢は整えている。
 ヒマラヤ山脈から北上したモヘラは、急に進路を変えた。レーダーが追尾する。モヘラはある場所のはるか上空で旋回を始めた。
 旋回時はすぐには降りて来ない事は知られていた。まるで降りる場所を探しているように幾度も弧を描き続ける。
 旋回している場所は日本の東京上空だった。
 各国から日本政府へ連絡が入る。もちろん、日本もモヘラの動きを把握していた。事前に定めていた超法規的措置による自衛隊の防衛出動が伊部総理大臣により下令された。対モヘラ用に編成された陸海空の各部隊は素早く行動を起こした。
 対する野党は下令されたのを聞くと、記者会見を開き「民間人の安全をどうするのか、人より国土が大切か」と反対を力強く唱えた。「ではより良い対案はあるのですね? それを示して下さい」と記者の一人が質問すると、急に弱々しい口調になり「……いや、それは政府が考えることで……」と言葉を濁し、記者団の失笑を買った。
 モヘラは降りて来た。
 かつて成虫となった羽田空港の滑走路だ。滑走路に降りるとモヘラは動かなくなった。いつものモヘラであれば舌を伸ばし人々を絡め取って行くはずだった。しかし、動かない。何かを待っているようにも見える。
 空港内を逃げ惑う人々と共にいる幼い子供たちが、いきなり一斉に泣き出した。座り込んだまま泣き出す子、母親にしがみついたまま泣き出す子、床の上を転がりながら泣き出す子、手が付けられない状況になってしまった。
 その時、地震が起こった。
 東京湾の海水が乱れ、滑走路を濡らす。次いで海上に巨大な白い泡が幾つも浮かんだ。
 モヘラがそれを見て甲高い声で鳴いた。
 海中からオチラが迫り上がる様にして出現した。オチラは滑走路にいるモヘラに向かい雄叫びを上げた。


  次回「大怪獣オチラ 対 宇宙怪獣モヘラ 弐拾六」の熾烈な展開を待て。


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