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霊感少女 さとみ 2  学校七不思議の怪  第五章 駈け回る体育館の怪 34

2022年04月11日 | 霊感少女 さとみ 2 第五章 駈け回る体育館の怪
 何度か座り込みそうになるさとみを、アイたちが支えるようにして家へと送ってくれた。
「あらあら、皆さん、ありがとうございます」母親が礼を言う。「これで『さざなみ』のメロンパンでも買って食べてちょうだいませ」
 母親は言うと、財布からお札を取り出して、アイに手渡した。
「いえ、そんな、いけませんよ。舎弟は会長第一は当然なんですから」アイは受け取りを拒む。朱音としのぶもうなずく。「どうかお戻し下さい!」
「あら、その会長の母親の言う事は聞けないのかしらぁ?」母親はふざけた口調で言う。アイたちは困った表情になった。「ほほほ、良いから受け取ってちょうだい。『さざなみ』のメロンパン、さとみも好物なのよ」
 アイたちはお札を受け取り、礼を述べて帰って行った。その間、ぽうっとした顔で立っていたさとみだったが、皆が居なくなると三和土にしゃがみ込んでしまった。
「さとみ? 大丈夫?」母親が心配そうな顔をする。「最近、疲れた顔をしているけど、夜更しでもしているの?」
「いや、してないわ……」さとみは答えるが、声は弱々しい。「寝るわ……」
 さとみは言うと、足を振って靴を脱ぎ、四つん這いになって廊下を這う。
「あらあら、それじゃ赤ちゃんじゃない」母親が呆れたように言う。「そんなんで、階段を上がれるの?」
「大丈夫よ……」
「鞄とかは、後でお部屋に持って行ってあげるわね」
「うん、ありがとう……」
 さとみはリビングへと這って行く。

 何とか自室に辿り着いたさとみは、着替えもせずにベッドに転がった。転がったと言うよりも、倒れ込んだ。うつ伏せたままで、すぐに寝息を立てていた。


「さとちゃん……」
 さとみに声が掛けられた。聞き覚えのある声だ。さとみは目を開ける。からだの疲れが軽くなったような気がする。さとみは声のした方に顔を向けた。机の傍に、着物を着てにこにこ笑っている小柄な年配の女性が立っていた。
「富おばあちゃん!」
 さとみは起き上がった。
 さとみの幼い時分、霊力の使い方を教えてくれ、それ以外でもいつも味方になってくれた祖母の富だった。霊の絡む出来事の時にいつも持ち歩いているポシェットのイチゴのアップリケは富が縫い付けたものだった。「これで、さとちゃんといつも一緒だよ」と言って頭を撫でてくれた。今もさとみを守ってくれている。
「おばあちゃん……」さとみは涙を流す。「おばあちゃん……」
「ほっほっほ、泣いたりして、どうしたんだい?」富は笑顔のままでさとみに訊く。「いつも笑顔で元気なさとちゃんじゃなかったのかい?」
「だって……」
「ほっほっほ」富は笑いながらさとみに寄る。下を向いているさとみの頭を撫でる。「……頑張ったなぁ。良い子、良い子」
 撫でられる頭から全身に優しい温もりが拡がる。さとみはすんすんと小さく泣き出した。
「おばあちゃん、いつも助けてくれて、ありがとう……」
「おやおや、何を言っているんだい?」冨の手が止まる。さとみは顔を上げた。富は相変わらず笑顔だった。「おばあちゃんは、な~んにもしていないよ」
「え……?」さとみは驚く。「だって、だって! わたしが困った時、いっつも金色に光ってあの影を追い返してくれたじゃない!」
「いいや、おばあちゃんは、何もしていないよ」冨は再びさとみの頭を撫でる。「見守る事はしていたけどね、何もしていないよ」
「じゃあ、どうして、金色に光ったの?」さとみは言うと、はっと気がつく。「そうか、おばあちゃんよりも、もっとおばあちゃんが助けてくれたのね! ひいおばあちゃんとか、ひいひいおばあちゃんとか……」
「ほっほっほ!」冨は笑う。「さとちゃんって、本当、小さい時からそんな頓珍漢な事を言っていたわねぇ。おばあちゃん、そんな話を聞くたびに楽しくって笑っていたわねぇ」
「もうっ!」笑われたさとみはぷっと頬を膨らませた。「……でも、頓珍漢な事って? おばあちゃんたちが助けてくれたんじゃないの?」
「違うわよ……」冨は言うと真顔になった。さとみは初めて見たかもしれないと思った。「さとちゃん自身が光ったのよ」
「え?」
「さとちゃんの力が強くなっているの。まだ、あの影をどうこうするまでではないけれど、結構良い線を行っているわ」冨は言うとまた笑顔に戻る。「だから、おばあちゃんは、安心していられるの」
「そんなぁ……」
「本当の話よ。でもね、ちょっと心配」
「でしょ? だから、これからも助けてよう!」
「助けるんなら、仲間たちがいてくれるじゃないの。新しい人も加わってくれたようだし」
「虎之助はともかく、冨美代さんは旦那さんの嵩彦さんの所へ行っちゃうわ」
「ほっほっほ、それはどうかしらねぇ」冨はくすくすと笑う。「その冨美代さんって人、みつさんに気があるようよ」
「ええっ!」
 さとみは驚く。そして、窓の手形の出来事の時のミツルを思い出した。……ミツルもみつさんに惚れたとか言っていたわ。みつさんって、そう言う感じなのかしら?
「ほっほっほ、そう、みつさんって女性にそんな気を起こさせるところがあるわねぇ」冨はさとみの心を読んだようだ。「わたしももっと若かったら……」
「おばあちゃん!」
「ほっほっほ、冗談、冗談」冨は笑う。「でもね、あの時からだが光ったのは、さとちゃんの力なんだよ。それから、それが顕著になって行ったのさ」
「……そうなの?」
「そうなんだよ。だから、あの影はさとちゃんをどうにかしたいのさ。邪魔だからね」
「そう……」
「でもね、さっきも言ったけど、心配もあるの」
「なあに?」
「長い時間とか、頻繁にとか、霊体を抜け出させていると、生身が弱ってしまうの。授業中に寝ちゃったでしょ? これが続くと危険なのよ」
「でも……」
「あの影はそこを衝いて来るわ。さとちゃんの生身がへとへとになって、動けなくなるようにするつもりだわ」
「でも、助けなきゃいけない霊がいたら、放っておけない……」
「ほっほっほ」冨はうなずく。「そう言うと思ったよ。さすがおばあちゃんの孫娘だ。……じゃあ、おばあちゃんはさとちゃんの言う、ひいおばあちゃんやひいひいおばあちゃんたちに話をしておこうかねぇ」
「ありがとう……」
「まあ、今はゆっくりとからだを、生身を休めなさい……」


 さとみの部屋のドアがそっと開いた。
 母親が手にさとみの鞄を持っていた。
「あらあら、爆睡中ね」うつ伏せたまますうすう寝息を立てているさとみを見て、母親が笑む。「夜更かしは健康と美容の大敵よ」
 母親はそっと鞄を机の上に置いた。
「……おばあちゃん……」
 さとみに発した寝言に、母親はくすっと笑った。


つづく

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