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コーイチ物語 「秘密のノート」 70

2022年09月13日 | コーイチ物語 1 8) パーティ会場にて 幼なじみの京子さん  
「こんな所まで来て、何をしているんだ!」
 岡島は大声を出した。さも自分が大変な場面を押さえたかのようだ。
「大体、この席に女を連れてきて、ドアの前で、そんな、イヤらしい真似をして!」
 岡島は大股で歩み寄って来る。
「何の話だ?」
 コーイチには岡島の言う意味が全く分からなかった。何を言っているんだ? 何がイヤらしいんだ? 
「あらあら、あなたには、耳元で話す仕草が、頬にキスでもした様に見えたのかしら?」
 コーイチの陰から京子が顔を覗かせた。岡島の歩みがぴたりと止まった。
「欲求不満ってヤツかしらね。……ま、仕方ないわね。何をやっても、何一つ成果が上がらないんだもの、あなたは」
 京子は言いながら一歩前に出た。無意識に岡島が一歩下がった。
「だから、あなたは誰かを格下にでも見ないとやって行けないのよ。そして、それをコーイチ君にしているのよ。……でも、無駄よ。あなた一人では何も出来ないって、みんな知ってるの。ただ、それを言うと、あなたの態度が面倒くさくなっちゃうから、言わないだけ」
 岡島は、しきりに髪の毛をいじり回し、おろおろし始めた。
「あなたは平気で人を落とすくせに、自分がやられる立場になると、そんな態度をするのね。かわいそうなボク、悪口に耐えているボク、みんなボクを助けて…… ああ、そっちの方が数倍もイヤらしい! あなた、子供じゃないんだから、いつまでも甘えてるんじゃないわよ、気持ち悪い!」
「何もそこまで言わなくても……」
 コーイチが口をはさむ。京子はコーイチに笑顔を向けた。
「いいのよ、コーイチ君。同じ課だからって助け舟なんて出さなくても。この人はこんな風に、いつも誰かに助けられてここまで来たの。でも、それを当然と思っているのよ。いや、それすら思わないかな。感謝の気持ちが一つもない人だものね」
「そんな事ないよ。ボクは……」
 岡島は髪の毛をいじりながら、小声で言った。京子は岡島の仕草をまねて、髪の毛をいじってみせた。
「あらあら、見苦しいから、髪の毛いじりはやめたら? それにまた、自分は全然悪くないって言うような、自分語りでもする気なんでしょ?」
「いや、そんなつもりはないけど……」
 岡島は手を下ろした。
「自慢げに言っていた『世界を乱舞するOkajima‐x』計画はどうなったの? ダメになったのは周りの人たちのせいなのかしら? そんな事ばかり言ってたら、誰も相手にしなくなるわ。そうでなくても、昨日と今日で言う事が全く正反対になるあなたは信用なんかされてないだろうけど」
 岡島は泣きそうな顔になった。
「あらあら、元々のバカ顔が、泣くともっとバカ顔になっちゃうわよ」
 岡島はロビーにがっくりと膝と手をついてしまった。そのままの状態で固まってしまったようだった。
「あらあら、踊り場の時と同じポーズね。とこっとん、芸の無い人なのね」
 京子は呆れたような声で言った。
 コーイチはそんな京子を見てポツリと言った。
「まるで、意地悪魔女みたいだな……」
 京子は驚いた顔でコーイチを見た。
「コーイチ君、大正解よ!」
 それから、ちょっと意地悪そうな笑顔を浮かべた。
「でも、『意地悪』は余計だわね。んふふふふ」

       つづく

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