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コーイチ物語 「秘密のノート」 101

2022年09月23日 | コーイチ物語 1 12) パーティ会場にて コーイチ・フライング  
 コーイチが京子に押されながらステージに向かう途中に場内の照明が戻った。しかし、コーイチの視界の片隅に、まだ照明の戻っていない暗い場所が映った。……あそこだけ照明が壊れているんだな。コーイチは思いながら通り過ぎた。
 と、その時、はっと何かに気付いたように、その暗い場所をもう一度確認しようとして立ち止まろうとした。しかし、足は自力で止めたものの、京子に押されていた背中は止めようが無く、そのまま前のめりに倒れてしまった。そして、その上に京子が「きゃっ!」と短い悲鳴を上げて倒れてきた。
「どうしたのよ!」
 京子がコーイチの背中の上で文句を言った。
「いや、ちょっと…… ごめん!」
 コーイチは謝りながら、鼻腔をくすぐる甘く優しい香りと、背中の軽くてやわらかな感触とを意識していた。
「変なコーイチ君ね」
 京子は言いながら立ち上がった。少し残念な気分のコーイチだった。コーイチも立ち上がると、京子はドレスの裾を直しているところだった。
「ごめん、逆に君に恥ずかしい思いをさせてしまったようだね」
「いいのよ、気にしないで。別に見られて困るようなものは、何も持っていないわ。……でも、周りの人に、ちょっとだけサービスしちゃったかな?」
 そう言って京子は笑った。可愛い笑顔だった。……これで魔女じゃなけりゃ、文句無いんだけどなぁ。
「で、どうして立ち止まったの?」
「え、ああ、そうだ!」
 ふと現実に連れ戻されたコーイチは、もう一度暗い場所を見た。さっきよりさらに暗くなっているようだった。
「何見てるの?」
 京子は言いながら、コーイチの視線の先を追った。
「あっ、あれは!」
 京子は言うと同時に笑い出した。
 暗い場所は、吉田第二営業部長が、ぼんやりと佇んでいる場所だった。完全に忘れ去られてしまった吉田部長は、すっかり暗い雰囲気になってしまって、佇んでいる場所を暗黒の闇で実際に包んでしまっていたのだ。さっきより暗く見えたのは、吉田部長の隣に、周りにすっかり愛想をつかされた岡島が、同じようにぼんやりと佇んでいたからだった。二人のあまりの暗さのため、誰も半径一メートル以内に近付く事が出来ないでいた。
「ダーク兄弟、ダークパワー全開って感じね」
 京子は楽しそうに言った。
「でもさ、吉田部長の存在感の無さって、ボクが君のノートに薄~く名前を書いたからなんだろう?」コーイチは心配そうに吉田部長を見ながら言った。「凄く責任を感じてしまうな」
「そんな事言っても、名前を書いたらどうなるかなんて、その時は知らなかったんだから、薄~く書いたのは決して間違いじゃなかったと思うわ」
「そう言ってくれるのは嬉しいけど、やっぱりボクの責任だよ……」
 コーイチは泣き出しそうな気分になった。
「でもね……」京子はコーイチに顔を近づけてささやいた。「そのお蔭で、こうして逢えたのよ」
「……そうか、そう言う考えも出来るよなぁ……」
「そうよ! もっと前向きに行きましょう!」
 京子が元気良く言った。……本当、これで魔女じゃなけりゃ、最高なんだけどなぁ。
「おいおい、コーイチ君。お楽しみのところ悪いんだけど、そろそろ良いかな?」
 林谷がやって来て言った。コーイチが返事をする前に、京子が意地悪そうな声で言った。
「その前に、もう一人の主役にも、何かやってもらいましょうよ!」
「もう一人……?」
 林谷が不思議そうな顔をした。
「吉田吉吉第二営業部長ですよ」
 コーイチが言った。……こう言う意地悪っぽいところが魔女気質なんだよなぁ。困ったもんだ。……でも、可愛いから許してしまおう! コーイチは一人うなずいていた。

       つづく

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