「お願いって言うのはねぇ……」
滑川がまたサングラスをはずし、睫毛の長いつぶらな瞳を、何度もまばたきさせながら京子を見た。
「逸子ちゃんと一緒に写真撮らせてくれないかしら?」
「ちょっと、ナメちゃん、どういう事?」
逸子が口を尖らせて文句を言う。滑川は逸子の方に向き直り、ウインクして見せた。
「つまり、『逸子&京子 in ドレ・ドル』って事よ。逸子ちゃんも京子ちゃんも、とても素敵な女の子だもの、こんな二人を使わせてもらわない手はないわ」
「でも、この人……」
逸子が不満そうな声で言うのを、京子が遮った。
「ええ、わたしは全く構わないわよ」
京子はコーイチの腕をぶらぶらさせながら笑顔を見せる。
「何言ってんのよ! わたしはお断りよ!」
逸子もコーイチの腕をぶらぶらさせながらこわい顔で京子に言う。
「あーら、あらあらあら、わたしと一緒に写るのが本当はこわいんでしょ? 仕方ないわ、わたしに負けているんだもの。ねーぇ、コーイチ君!」
「変な事言わないでよ! わたしは素人さんと写るのがイヤなの。それに、負けているのはあなたの方よ。ねーぇ、コーイチさん!」
コーイチは苦笑いをしながら京子と逸子を見比べていた。どっちが可愛いなんて言えない、どっちも可愛いから……
パンパンパン! と大きな音がした。三人が音の方を向くと、滑川が手を叩いていた。
「さあさあ、注目、注目! とにかく二人一緒にやってみましょう。逸子ちゃんはプロの美しさと可愛さを、京子ちゃんはそのままの素直な美しさと可愛さを。二人とも似たサイズだから、スタッフの持ってくる服をそれぞれ色々と着てもらって…… う~ん、いいわあぁ~、画が浮かんで来るわぁ~」
滑川はうっとりとした眼差しで宙を見つめていた。
「さ、二人とも一緒に来てちょうだい。もうそろそろスタッフが一階ロビーに到着するわ。……ああああ、楽しみだわぁ! 久々に燃えるわぁ!」
滑川は言って、ルンルンステップで先にドアから出て行った。
逸子はしぶしぶコーイチの腕から手を離し、京子にこわい顔で語気鋭く言った。
「ナメちゃんがあそこまで入れ込むなんて珍しいわね。……いい? これはお仕事よ! わたしの足を引っ張らないでね! さあ行くわよ、ぼやぼやしないで!」
それから、とても可愛らしい笑顔をコーイチに向けた。
「コーイチさん、行ってきます。でもすぐに戻ってきます。待っていてね」
逸子はちょっと涙ぐんで、コーイチに手を振りながら歩き出した。コーイチも思わず手を振り返そうと左手を上げかけたが、右腕を強く締め付けられて我に返り、左手を下ろした。京子がこわい顔でコーイチを見ている。
「じゃあ、私も行って来るわね……」
京子は言うと、コーイチの腕を離し、歩き出す。
「ちょっと待った」
コーイチが真剣な顔を京子に向けた。
「なあに?」
京子はコーイチに向ける。
「また何か企んでいないだろうね?」
滑川に魔法をかけた時のように、京子の眼が妖しく光ったからだ。
「さあ、それは、ナ・イ・ショ!」
京子は笑顔をコーイチに見せると、小走りで逸子を追い抜き、あわてて追いかける逸子と共に、ドアから出て行った。
「……大丈夫かなぁ……」
コーイチはドアを見つめながらつぶやいた。「ナ・イ・ショ!」って言う事は必ず何かやらかすって事に違いない。何をする気なんだろう。まさか…… コーイチの頭の中を新聞や雑誌の見出しが駆け巡った。
「よおう、コうイチい!」
コーイチの思考を断ち切るようなダミ声が背後からした。
コーイチは振り返る。
両手に栓を抜いたワインのボトルを持ち、さらにスーツの左右のポケットにもワインのボトルを入れ、真っ赤な顔にニヤニヤ笑いを浮かべた背の高い若い男が、ふらふらしながら近寄ってきた。
「名護瀬……」
コーイチはまたイヤな予感がした。
つづく
滑川がまたサングラスをはずし、睫毛の長いつぶらな瞳を、何度もまばたきさせながら京子を見た。
「逸子ちゃんと一緒に写真撮らせてくれないかしら?」
「ちょっと、ナメちゃん、どういう事?」
逸子が口を尖らせて文句を言う。滑川は逸子の方に向き直り、ウインクして見せた。
「つまり、『逸子&京子 in ドレ・ドル』って事よ。逸子ちゃんも京子ちゃんも、とても素敵な女の子だもの、こんな二人を使わせてもらわない手はないわ」
「でも、この人……」
逸子が不満そうな声で言うのを、京子が遮った。
「ええ、わたしは全く構わないわよ」
京子はコーイチの腕をぶらぶらさせながら笑顔を見せる。
「何言ってんのよ! わたしはお断りよ!」
逸子もコーイチの腕をぶらぶらさせながらこわい顔で京子に言う。
「あーら、あらあらあら、わたしと一緒に写るのが本当はこわいんでしょ? 仕方ないわ、わたしに負けているんだもの。ねーぇ、コーイチ君!」
「変な事言わないでよ! わたしは素人さんと写るのがイヤなの。それに、負けているのはあなたの方よ。ねーぇ、コーイチさん!」
コーイチは苦笑いをしながら京子と逸子を見比べていた。どっちが可愛いなんて言えない、どっちも可愛いから……
パンパンパン! と大きな音がした。三人が音の方を向くと、滑川が手を叩いていた。
「さあさあ、注目、注目! とにかく二人一緒にやってみましょう。逸子ちゃんはプロの美しさと可愛さを、京子ちゃんはそのままの素直な美しさと可愛さを。二人とも似たサイズだから、スタッフの持ってくる服をそれぞれ色々と着てもらって…… う~ん、いいわあぁ~、画が浮かんで来るわぁ~」
滑川はうっとりとした眼差しで宙を見つめていた。
「さ、二人とも一緒に来てちょうだい。もうそろそろスタッフが一階ロビーに到着するわ。……ああああ、楽しみだわぁ! 久々に燃えるわぁ!」
滑川は言って、ルンルンステップで先にドアから出て行った。
逸子はしぶしぶコーイチの腕から手を離し、京子にこわい顔で語気鋭く言った。
「ナメちゃんがあそこまで入れ込むなんて珍しいわね。……いい? これはお仕事よ! わたしの足を引っ張らないでね! さあ行くわよ、ぼやぼやしないで!」
それから、とても可愛らしい笑顔をコーイチに向けた。
「コーイチさん、行ってきます。でもすぐに戻ってきます。待っていてね」
逸子はちょっと涙ぐんで、コーイチに手を振りながら歩き出した。コーイチも思わず手を振り返そうと左手を上げかけたが、右腕を強く締め付けられて我に返り、左手を下ろした。京子がこわい顔でコーイチを見ている。
「じゃあ、私も行って来るわね……」
京子は言うと、コーイチの腕を離し、歩き出す。
「ちょっと待った」
コーイチが真剣な顔を京子に向けた。
「なあに?」
京子はコーイチに向ける。
「また何か企んでいないだろうね?」
滑川に魔法をかけた時のように、京子の眼が妖しく光ったからだ。
「さあ、それは、ナ・イ・ショ!」
京子は笑顔をコーイチに見せると、小走りで逸子を追い抜き、あわてて追いかける逸子と共に、ドアから出て行った。
「……大丈夫かなぁ……」
コーイチはドアを見つめながらつぶやいた。「ナ・イ・ショ!」って言う事は必ず何かやらかすって事に違いない。何をする気なんだろう。まさか…… コーイチの頭の中を新聞や雑誌の見出しが駆け巡った。
「よおう、コうイチい!」
コーイチの思考を断ち切るようなダミ声が背後からした。
コーイチは振り返る。
両手に栓を抜いたワインのボトルを持ち、さらにスーツの左右のポケットにもワインのボトルを入れ、真っ赤な顔にニヤニヤ笑いを浮かべた背の高い若い男が、ふらふらしながら近寄ってきた。
「名護瀬……」
コーイチはまたイヤな予感がした。
つづく
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