オレは「スペシャルマン」と呼ばれる正義のヒーローだ。常人の及ばない様々な特殊能力を秘めている。この力で悪を倒し続けているのだ。
さて、ヒーローの条件の一つとして認識されているものに、性別は基本は男と言うのがある。そりゃそうだろう。飛んだり跳ねたり、殴ったり殴られたり、場合によっては息の根を止めたり…… とても女が行えるものとは思えない。実際、男でありヒーローでもあるこのオレだってイヤなのだ。平和に穏やかに友好的に解決できる奴が現れたら、それこそ真のヒーローだと思う。その点で、オレはヒーローでとしてはまだまだ未熟だと痛感している。どうだ、正直だろう。
しかし、今の世の中は性別で分け隔てをしてはいけないらしい。職業でも男女を隔てるような言い回しを避けている。看護師、CA、ビジネスパーソン等々だ。看護婦、スチュワーデス、OLなんて死語なのだろう。
そのくせ「サラリーマン川柳」なんて、くたびれた行き場のないおっさんの思いをイメージさせる言葉は無くならないし、「奥様・奥さん」なんて、由来がいつも奥にいるからなんて蔑視から生まれた言葉を平気で使っている。訳が分からん! 結局は言葉だけは立派なものを使っているが、その根底にある考えが変わったわけではないのだろう。
言葉だけ変えて波風が立たないようにするのなら、「サラリーマン川柳」は「BP(ビジネスパーソン)川柳」に、「奥様・奥さん」は「LP(ライフパートナー)」にでも変わるんじゃないか? ほら、利口ぶってるヤツほど、略語的なアルファベットが好きだろう?
オレが言いたいのは、男と女には、それぞれ特質が異なるんだから、違いがあって当然だと言う事だ。言い方を変えたってそれで変わるわけじゃないだろう。だから、危険を伴う戦うヒーローは男の役目で良いと思っているのだ。基本弱い女性を守るのは男の務めだ! どうだ、男らしいだろう。
ある休日、オレはどう言う心境の変化なのか、恋人の翔子に何かプレゼントでも買おうと思い立ち、ぶらりとデパートに向かった。
館内に入った途端、突然デパートの床が大きく揺れ、オレが見ていた案内板を取り付けている壁が倒れてきた。壁に押しつぶされながら床に転がると、目の前の床に亀裂が入り、そこから「アーマーメカ」が飛び出してきた。同時にどこからともなく戦闘員がわらわらと現われた。
「だーっはっはっは~!」「アーマーメカ」のコクピットのフードが開き、「ブラックナイト五号」が立ち上がりながら、不思議な笑い声をあげた。「スペシャルマン! 何だ、その恰好は! まるでつぶれた蛙だな! だーっはっはっは~!」
「ブラックナイト五号」は床に降り立つと、壁に挟まれ、仰向けになって身動きのできないオレの顔を見下ろした。そして「だーっはっはっは~!」と笑いだした。戦闘員も寄ってきて一緒になって馬鹿にした笑い声をあげながらオレを見下ろしている。
「スペシャルマン! 変身しなければお前はただの人間、見た目通りのひ弱な若造なんだよ!」
屈辱的な言葉を浴びせられたが、首から上を動かすのが精いっぱいだった。
「……く、くそっ! オレをつけ狙っていたのか?」、絞り出すようにオレは言った。「……暇な奴らだな」
「だーっはっはっは~!」「ブラックナイト五号」はわざとらしく頷いて見せた。「お前の事は何でもお見通しなんだよ。だーっはっはっは~! それに、そんな恰好で強がっても、ちっとも怖かないぞう! かえって滑稽だ! だーっはっはっは~!」
戦闘員たちもつられて馬鹿笑いをする。
悔しいが身動きができない。つまりは、変身ができない。
「さて、お遊びはお終いだ。今日がお前の命日だ。たまには思い出してやろか? だーっはっはっは~!」
今まで愛読してくれて感謝する。今回だけは本当に最後だろう。プレゼントを受け取って大喜びし、オレに抱きつく翔子が浮かぶ。しかし、何をプレゼントしたのかは浮かばない。覚悟を決めて目を閉じた。戦闘員たちの動く気配が感じられた。さらばだ……
「お待ち!」
突然、鋭い声が響いた。オレは目を開けた。
「ブラックナイト五号」も戦闘員たちも見えなかった。オレは頭を仰け反らして様子をうかがった。全員がオレに背を向けているのが見えた。それが左右に分かれた。別れた真ん中を、なかなか可愛らしい、すらっとした細身の制服姿の女子高生が歩いてきた(どんな時でも細かな観察をするオレってすごいだろう?)。その足が止まった。くるりと回り、オレに背を向けた。
「変身!」
女子高生はそう叫ぶと、両腕を真上に上げ、それを前方へゆっくり降ろし、胸元まで下ろした時、バッと左右に開いた。その後しゃがみ込み、顔を天に向け、「てやぁーっ!」と気合を入れて飛び上がった(デパートの一階は天井が高いのでぶつからない)。そして、空中で一回転し、床の上に降り立った。……オレの変身ポーズと同じだった。
「スペシャルウーマン参上!」
オレと同じような姿だが、若々しい女性らしさが表れた外見だ。しかし、そこには正義の力が漲っていた(オレと同じだ)。
「スペシャルウーマンだとぉ? お嬢ちゃん、ふざけちゃいけないよぉ」
そう言いながら「ブラックナイト五号」はへらへらと笑っている。戦闘員の一人がおどけた様子で近付いて右腕をつかんだ。スペシャルウーマンはその腕を軽く払った。戦闘員ははるか彼方の壁まで飛んで行って、鈍い音を立て、動かなくなった。
「おのれぇぇぇぇぇぇ!」「ブラックナイト五号」の表情が険しくなった。「者ども、やっちまえ!」
戦闘員が一斉にスペシャルウーマンに飛び掛かった。スペシャルウーマンは、キレのいい動きで戦闘員をバッタバッタとなぎ倒していく。飛んだり跳ねたり、殴ったり殴られたり、息の根をしっかりと止めたり…… あっという間に「ブラックナイト五号」だけになってしまった。
「どぅ? まだ戦うぅ? 戦ったらこれが見られないわよぉ」スペシャルウーマンはふざけた口調で言うと、「ブラックナイト五号」に向かってお尻を突き出し、左右に振ってみせた。「どうするぅ?」
「ふ、ふん!」「ブラックナイト五号」は、お尻の動きを見ながら鼻を鳴らした。「き、今日のところはこれくらいで勘弁してやる! ……おい、スペシャルマン! とんだ命拾いをしたな! 次は二人まとめて葬ってやるぞ! だーっはっはっは~!」
瞬間移動装置を使ったのか、「ブラックナイト五号」も戦闘員も消えた。
隠れていた一般人たちがわさわさとあふれ出てきて、スペシャルウーマンを取り囲んだ。
「ありがとう! スペシャルウーマン!」
「強くて可愛い!」
「変身前の姿も可愛い!」
「ぼ、僕、ファンになっちゃいました!」
「どこの高校? 何年生?」
「あの、お名前を教えて下さい!」
スペシャルウーマンは変身を解いた。若々しい笑顔を人々に向けた。
「隠すことはないですから、お教えします。わたしは高瀬川麗子、高校二年生です。学校は……」
スペシャルウーマン、いや、女子高生、いや、高瀬川麗子ちゃんはぞろぞろとついて来る人たち(すっかり取り巻きに見える)に囲まれてデパートから出て行った。
壁に押し潰されたままのオレだけが残った。
迂闊だった。もはや男だ女だは関係ないのだ。強いて関係があるとすれば、見た目だ。ひ弱な若造よりも、なかなか可愛らしい、すらっとした細身の制服姿の女子高生の方が、良いんだろう。オレのことなど、すっかり忘れられている。明日の新聞の見出しは「女子高生ヒロイン(ほら、ここにも言葉の差があるじゃないか)誕生」で決まりだ。週刊誌やマスコミも持て囃すだろう。ひょっとしたら「ブラックシャドウ」も今後はスペシャルウーマンを敵として扱うかもしれない。なんてこった! オレの今までの功績なんざ、塵になったってわけだ。
こんなんじゃ、オレが悪のヒーローになってしまうかもしれない。
さて、ヒーローの条件の一つとして認識されているものに、性別は基本は男と言うのがある。そりゃそうだろう。飛んだり跳ねたり、殴ったり殴られたり、場合によっては息の根を止めたり…… とても女が行えるものとは思えない。実際、男でありヒーローでもあるこのオレだってイヤなのだ。平和に穏やかに友好的に解決できる奴が現れたら、それこそ真のヒーローだと思う。その点で、オレはヒーローでとしてはまだまだ未熟だと痛感している。どうだ、正直だろう。
しかし、今の世の中は性別で分け隔てをしてはいけないらしい。職業でも男女を隔てるような言い回しを避けている。看護師、CA、ビジネスパーソン等々だ。看護婦、スチュワーデス、OLなんて死語なのだろう。
そのくせ「サラリーマン川柳」なんて、くたびれた行き場のないおっさんの思いをイメージさせる言葉は無くならないし、「奥様・奥さん」なんて、由来がいつも奥にいるからなんて蔑視から生まれた言葉を平気で使っている。訳が分からん! 結局は言葉だけは立派なものを使っているが、その根底にある考えが変わったわけではないのだろう。
言葉だけ変えて波風が立たないようにするのなら、「サラリーマン川柳」は「BP(ビジネスパーソン)川柳」に、「奥様・奥さん」は「LP(ライフパートナー)」にでも変わるんじゃないか? ほら、利口ぶってるヤツほど、略語的なアルファベットが好きだろう?
オレが言いたいのは、男と女には、それぞれ特質が異なるんだから、違いがあって当然だと言う事だ。言い方を変えたってそれで変わるわけじゃないだろう。だから、危険を伴う戦うヒーローは男の役目で良いと思っているのだ。基本弱い女性を守るのは男の務めだ! どうだ、男らしいだろう。
ある休日、オレはどう言う心境の変化なのか、恋人の翔子に何かプレゼントでも買おうと思い立ち、ぶらりとデパートに向かった。
館内に入った途端、突然デパートの床が大きく揺れ、オレが見ていた案内板を取り付けている壁が倒れてきた。壁に押しつぶされながら床に転がると、目の前の床に亀裂が入り、そこから「アーマーメカ」が飛び出してきた。同時にどこからともなく戦闘員がわらわらと現われた。
「だーっはっはっは~!」「アーマーメカ」のコクピットのフードが開き、「ブラックナイト五号」が立ち上がりながら、不思議な笑い声をあげた。「スペシャルマン! 何だ、その恰好は! まるでつぶれた蛙だな! だーっはっはっは~!」
「ブラックナイト五号」は床に降り立つと、壁に挟まれ、仰向けになって身動きのできないオレの顔を見下ろした。そして「だーっはっはっは~!」と笑いだした。戦闘員も寄ってきて一緒になって馬鹿にした笑い声をあげながらオレを見下ろしている。
「スペシャルマン! 変身しなければお前はただの人間、見た目通りのひ弱な若造なんだよ!」
屈辱的な言葉を浴びせられたが、首から上を動かすのが精いっぱいだった。
「……く、くそっ! オレをつけ狙っていたのか?」、絞り出すようにオレは言った。「……暇な奴らだな」
「だーっはっはっは~!」「ブラックナイト五号」はわざとらしく頷いて見せた。「お前の事は何でもお見通しなんだよ。だーっはっはっは~! それに、そんな恰好で強がっても、ちっとも怖かないぞう! かえって滑稽だ! だーっはっはっは~!」
戦闘員たちもつられて馬鹿笑いをする。
悔しいが身動きができない。つまりは、変身ができない。
「さて、お遊びはお終いだ。今日がお前の命日だ。たまには思い出してやろか? だーっはっはっは~!」
今まで愛読してくれて感謝する。今回だけは本当に最後だろう。プレゼントを受け取って大喜びし、オレに抱きつく翔子が浮かぶ。しかし、何をプレゼントしたのかは浮かばない。覚悟を決めて目を閉じた。戦闘員たちの動く気配が感じられた。さらばだ……
「お待ち!」
突然、鋭い声が響いた。オレは目を開けた。
「ブラックナイト五号」も戦闘員たちも見えなかった。オレは頭を仰け反らして様子をうかがった。全員がオレに背を向けているのが見えた。それが左右に分かれた。別れた真ん中を、なかなか可愛らしい、すらっとした細身の制服姿の女子高生が歩いてきた(どんな時でも細かな観察をするオレってすごいだろう?)。その足が止まった。くるりと回り、オレに背を向けた。
「変身!」
女子高生はそう叫ぶと、両腕を真上に上げ、それを前方へゆっくり降ろし、胸元まで下ろした時、バッと左右に開いた。その後しゃがみ込み、顔を天に向け、「てやぁーっ!」と気合を入れて飛び上がった(デパートの一階は天井が高いのでぶつからない)。そして、空中で一回転し、床の上に降り立った。……オレの変身ポーズと同じだった。
「スペシャルウーマン参上!」
オレと同じような姿だが、若々しい女性らしさが表れた外見だ。しかし、そこには正義の力が漲っていた(オレと同じだ)。
「スペシャルウーマンだとぉ? お嬢ちゃん、ふざけちゃいけないよぉ」
そう言いながら「ブラックナイト五号」はへらへらと笑っている。戦闘員の一人がおどけた様子で近付いて右腕をつかんだ。スペシャルウーマンはその腕を軽く払った。戦闘員ははるか彼方の壁まで飛んで行って、鈍い音を立て、動かなくなった。
「おのれぇぇぇぇぇぇ!」「ブラックナイト五号」の表情が険しくなった。「者ども、やっちまえ!」
戦闘員が一斉にスペシャルウーマンに飛び掛かった。スペシャルウーマンは、キレのいい動きで戦闘員をバッタバッタとなぎ倒していく。飛んだり跳ねたり、殴ったり殴られたり、息の根をしっかりと止めたり…… あっという間に「ブラックナイト五号」だけになってしまった。
「どぅ? まだ戦うぅ? 戦ったらこれが見られないわよぉ」スペシャルウーマンはふざけた口調で言うと、「ブラックナイト五号」に向かってお尻を突き出し、左右に振ってみせた。「どうするぅ?」
「ふ、ふん!」「ブラックナイト五号」は、お尻の動きを見ながら鼻を鳴らした。「き、今日のところはこれくらいで勘弁してやる! ……おい、スペシャルマン! とんだ命拾いをしたな! 次は二人まとめて葬ってやるぞ! だーっはっはっは~!」
瞬間移動装置を使ったのか、「ブラックナイト五号」も戦闘員も消えた。
隠れていた一般人たちがわさわさとあふれ出てきて、スペシャルウーマンを取り囲んだ。
「ありがとう! スペシャルウーマン!」
「強くて可愛い!」
「変身前の姿も可愛い!」
「ぼ、僕、ファンになっちゃいました!」
「どこの高校? 何年生?」
「あの、お名前を教えて下さい!」
スペシャルウーマンは変身を解いた。若々しい笑顔を人々に向けた。
「隠すことはないですから、お教えします。わたしは高瀬川麗子、高校二年生です。学校は……」
スペシャルウーマン、いや、女子高生、いや、高瀬川麗子ちゃんはぞろぞろとついて来る人たち(すっかり取り巻きに見える)に囲まれてデパートから出て行った。
壁に押し潰されたままのオレだけが残った。
迂闊だった。もはや男だ女だは関係ないのだ。強いて関係があるとすれば、見た目だ。ひ弱な若造よりも、なかなか可愛らしい、すらっとした細身の制服姿の女子高生の方が、良いんだろう。オレのことなど、すっかり忘れられている。明日の新聞の見出しは「女子高生ヒロイン(ほら、ここにも言葉の差があるじゃないか)誕生」で決まりだ。週刊誌やマスコミも持て囃すだろう。ひょっとしたら「ブラックシャドウ」も今後はスペシャルウーマンを敵として扱うかもしれない。なんてこった! オレの今までの功績なんざ、塵になったってわけだ。
こんなんじゃ、オレが悪のヒーローになってしまうかもしれない。
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