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ヒーロー「スペシャルマン」・13

2014年08月12日 | スペシャルマン
 オレは「スペシャルマン」と呼ばれる正義のヒーローだ。常人の及ばない様々な特殊能力を秘めている。この力で悪を倒し続けているのだ。
 さて、ヒーローの条件の一つとして認識されているものに、永遠であると言うのがある。つまり、ずっとヒーローであり続けるのだ。
 しかし、こんな馬鹿な事があっていいと思うか? 簡単に「ずっとヒーロー」なんて言ったが、冷静に考えてみれば、「一生涯ヒーロー」でなければならないって事なんだぞ。オレが嫌だと駄々をこねようが、勘弁してくれと泣き喚こうが、ヒーローを辞めるわけにはいかないって事なのだ。
 ヒーローは本来はかっこいいものだ。それはオレも認める。だが、一つ訊きたい。
「ヒーローってどんなイメージですか?」
 さあ、どう思う? やっぱり、若くてカッコよくて頭も良くて何をやらせても素晴らしくて。まあ、そんな感じだろうか。多少歳が行ってたとしても、渋くて年相応にカッコよくて本来の頭の良さに経験から得た知識を加え何をやらせても決まっていて。やっぱり、そんな感じだろう。
 だが、実際は、日々戦いに明け暮れてクタクタだ。常人よりタフかもしれないが、それにしたって限度がある。機械だってメンテナンスしなきゃ、すぐにガタついてしまう。ましてやオレは生身なんだ。少しは気遣えってんだ!
 しかも、敵である「ブラックシャドウ」は組織だっているから、とっかえひっかえ、戦闘員やらなんやらを、せっせと送り込んできやがる。こっちはオレ一人だとわかっているからなのか? いずれはオレがへたばって、戦う事ができなくなるのを、にやにやしながら待っているのだろうか?
 さらにオレは仕事もしている。いい加減、ヒーローらしく扱ってもらいたいものだ。
 このことを政府の要人に言ったことがある。すると、要人はこう答えやがった。
「なるほど、君の言いたい事は分かった。しかし、君を国家が養うとなると、君は国家公務員となるわけだ。そのためには試験を受けてもらわねばならない。しかも、国家の中枢を担う部署になるだろうから、当然上級職と言う事になる。いや待てよ。そもそも、君のような立場はどこが管轄することになるのだろうな? 防衛省かな? だとしても、新たに部署を作るとなると、これは色々と手続きが必要だな。国会で議論してもらう必要があるかもな。そうなると、すぐに答えは出ないだろう。何しろ野党は何でも反対するからな。どれくらいかかるかな? 数年はかかるかもしれないな」
 早い話、面倒臭い事を言わずにヒーローをやってろよって事のようだ。
 こんな勝手な話があるか! ……しかし、オレはヒーローだ。正義のヒーローだ。オレに与してくれている善良な人たちに文句なんぞ言えるわけがないのだ。くそっ!
 そんなある休みの日、近所の公園のベンチに座ってぼうっとしていたら「ブラックシャドウ」の戦闘員どもと「ブラックナイト四号」が現れ、オレを取り囲んだ。
「はっはっは~! スペシャルマン! ここで遭ったが運の尽きだ! はっはっは~!」
「ブラックナイト四号」変な笑い方をし、オレを指さした。戦闘員どももすっと身構え、オレの攻撃に備えている。
 しかし、オレは「ブラックナイト四号」をちらと見ただけで、動かなかった。
「どうした、スペシャルマン! 怖気づいたのか? はっはっは~!」
「……そう言う事にしておいてくれ……」オレは弱々しい声で言った。「もう、疲れちまったんだよ……」
「……おい、どう言う事だ?」ざわつく戦闘員どもを制して「ブラックナイト四号」が訊いてきた。不審そうな表情だ。「お前は正義のヒーローだろうが!」
 オレは立ち上がった。「ブラックナイト四号」を睨み付けた。
「……正義だあ?」
 心の中の何かが、ぶちっと切れた。
 その後の事は覚えていない。
 気が付いたら変身していて、群がる戦闘員どもをバッタバッタとなぎ倒し、慌てた「ブラックナイト四号」は「アーマーメカ」に乗り込んで襲いかかってきたものの、メカごと抱え上げ、くるくると宙で振り回し、はるか彼方まで放り投げた。「アーマーメカ」は空中で爆発した。
 戦いが終わり、変身が解けると、身を隠していた多くの人たちがどっと押し寄せ、口々に感謝の言葉を叫んでいた。……ここでオレは我に返った。
「いやあ、お見事! すごい戦いでしたね!」
「スペシャルマン、強い!」
「まだまだ私たちを守ってくださいね!」
 オレは笑顔でそれらに答えていた。
 オレは正義のために戦ったのか? いいや、正義という言葉に、なぜかブチ切れて暴れただけだ。しかし、周りはそうは見ていないようだ。敵を倒せばそれで良い。それで正義なのだ。大義名分などいらない。しかも、こういう暴れ方は、オレをすっきり爽やかにする。ずっとやれそうな自信を待たせてくれる。
 迂闊だった。正義のヒーローなんて堅っ苦しく考えず、心の赴くままに暴れればいいんだ。敵に対し何の思いも持たず、ただただ、ぶっ倒しゃあいいんだ。そうすりゃ、世間も喜んでくれるってもんだ。こんなんじゃ、オレが悪のヒーローになってしまうかもしれない。





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