お話

日々思いついた「お話」を思いついたまま書く

シンドバッドの航海記 5

2009年03月22日 | シンドバッドの航海記(一話完結連載中)
 シンドバッドは五度目の航海の時、立ち寄った港で、この土地のサルタンの娘が魔物の島へと連れ去られた事を聞いた。娘は魔物の城の最上階に幽閉されていると言う。計算高いシンドバッドは考えた。
「ふむ、助ければサルタンに恩を売る事になるな。大した土地ではないが、これからの仕事にも色々と便利だろう」
 まずサルタンに会い、娘の救出を約束した。
「おおそうか、そうか! 末娘は目に入れても痛くないほど愛しいのだ。助けてくれたら婿として迎え、次のサルタンとなってもらいたい」
 老齢なサルタンは涙を流して喜んだ。くれると言うのなら貰っておこう、シンドバッドはほくそ笑んだ。
 早速、命知らずの屈強な男たち数百名を多額の給料で雇い入れ、船を数隻も買い上げ、準備を整えると、昼間に魔物の島へと向かった。魔物の活動は夜が中心だ。昼間ならばその力も弱っているはずだ。
 雇い入れた男たちは、手はず通り大声で叫びながら手に棍棒やら大振りの剣やらを待ち、島に上陸する。驚いた魔物たちが何事かと慌てふためく。合戦が始まる。最初は優勢に立ったが、慌てていても相手は魔物だ。次第に押され、かなりの数の男たちが犠牲になった。
 シンドバッドはその隙に魔物の居城へ忍び込み、最上階を目指した。魔物たちは外の合戦にすべて出払っているようで、城の中では一匹も遭遇しなかった。
 最上階についた。鉄の閂が三つも付けられている扉があった。この部屋に違いない。
「姫様、助けに来ました」シンドバッドは扉を叩きながら言った。「もう心配はありません」
「どなたですか?」鷹揚とした口調が返って来た。「父上の手の方ですか?」
「そうです、姫様」
 シンドバッドは扉についていた覗き小窓を開け、中を窺がった。途端に小窓を閉め、後ずさった。見えたのは老女が一人だった。
「気がつくべきだった! 老齢のサルタンの末娘だった!」
 シンドバッドは逃げ出した。そして自嘲気味に笑うとつぶやいた。
「とんだ浪費だったな」




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