ジェシルはクェーガーとは面識がなかった。自分のオフィスに戻り(扉は外から開かないように手動開閉にしたのをしっかりと確かめた)、ホログラムを立ち上げて、クェーガーの立体像をデスクの上で回転させる。
「やっぱり、会ったことはないわねぇ……」クェーガーはパルマ人特有の毛深い顔をしている。会っていれば覚えているはずだ。「ま、パトロールも広いから、わたしの知らない人もいるわよね」
ジェシルは言いながらベルザの実を頬張る。朝食べていなかったからか、いつもは甘酸っぱいベルザの実がとても美味しく感じられた。次いで、ジェシルはクェーガーの経歴を調べた。特段目立つものはなかった。
「やっぱり、パトロールの資料はこんな所が限界よね……」ジェシルは革張り椅子の背凭れに寄り掛かる。「でも、こう言う人が、思いの外、異様に専門知識が豊富だったりするのよねぇ」
ジェシルはホログラムを消した。立ち上がってソファに座り、ザドクリスタルのテーブルの上のリモコンを操作して、アンデラー・ヴェルスの甘い歌声を流す。
「行方不明か……」
ジェシルはソファに寝転がった。制服の前ジッパーを大きく下げ、ほっとしたように息をつく。一応勤務時間なのでフリソデには着替えなかった。
「わたしを狙うために行方をくらましたのかしら? それとも別件?」ジェシルは天井を見ながら独り言を言う。「もし、クェーガーがモーリーと共にわたしを狙ったとして、あのニンジャ野郎は誰かしら? 上層部は本気で探そうとしているようには見えないけど…… だとしたら、思った通り、上層部の誰かさんが関わっているのね」
ジェシルの脳裏にビョンドル統括管理官の顔が浮かぶ。
「ビョンドル統括管理官か…… 統括管理官個人の考えかしらね? それとも、上層部全体がわたしを狙っている?」
上層部と暗黒街とは結構関係が深いらしいと聞いたことがある。散々暴れ回るジェシルを煙たく思うのは暗黒街のお歴々だけではないのだろう。
でも…… と、ジェシルは思う。たかが一捜査官を抹殺するには大袈裟な気もする。取りあえず解雇すれば用が足りるのではないだろうか? 一民間人となったジェシルが大暴れすれば、それだけで逮捕や、場合によっては射殺なども出来るはずだ。
まさかわたしの一族が…… ジェシルは親戚たちの顔を一人一人思い浮かべてみた。……わたしが結婚しなければ、直系の血筋は絶えてしまう。一族と言っても、直系の威容があるおかげで、傍系の皆々様方は今の地位を保っているのが現実だ。だから、わたしがいなくなってしまった時点で、権威も何もかも失われてしまう事になる。そうなれば、一族をやっかんでいる皆々様方の総攻撃に遭って、一族の皆々様方は、あっという間に失脚してしまうだろう。だとすれば、わたしを守りこそすれ、亡き者にはできないはずよね。やたら結婚を勧める叔父は、ひょっとしたら今の地位が危ないのかもしれない。そう思うと、自然と口元が緩むジェシルだった。絶対に結婚なんかしてやるものか! ジェシルはべえと舌を突き出してみせた。
「それにしても、わたしの休日の行動を追っている者がいたってことよね…… 直接わたしを狙う者たち以外に、監視している者たちでもいるのかしら……」
ジェシルは目を閉じて、メルカトリーム熱線銃でベルザの実のジュースのグラスを撃たれた時の事を思い出していた。……監視役は、あの絡んできた坊やたちだったのかしら? それとも、隣のテーブルにいた冴えないオジサンだったのかしら? いや、ウエイトレスのあの可愛い娘なのかもしれない……
「もう何が何だかわからないわね……」ジェシルは大きな欠伸をした。朝早くにトールメン部長に呼び出されたので、眠気が襲ってきたようだった。「さてと、もう一眠りしようかしら……」
ジェシルは言うと再び目を閉じた。しばらくすると可愛らしい寝息を立てはじめた。
つづく
「やっぱり、会ったことはないわねぇ……」クェーガーはパルマ人特有の毛深い顔をしている。会っていれば覚えているはずだ。「ま、パトロールも広いから、わたしの知らない人もいるわよね」
ジェシルは言いながらベルザの実を頬張る。朝食べていなかったからか、いつもは甘酸っぱいベルザの実がとても美味しく感じられた。次いで、ジェシルはクェーガーの経歴を調べた。特段目立つものはなかった。
「やっぱり、パトロールの資料はこんな所が限界よね……」ジェシルは革張り椅子の背凭れに寄り掛かる。「でも、こう言う人が、思いの外、異様に専門知識が豊富だったりするのよねぇ」
ジェシルはホログラムを消した。立ち上がってソファに座り、ザドクリスタルのテーブルの上のリモコンを操作して、アンデラー・ヴェルスの甘い歌声を流す。
「行方不明か……」
ジェシルはソファに寝転がった。制服の前ジッパーを大きく下げ、ほっとしたように息をつく。一応勤務時間なのでフリソデには着替えなかった。
「わたしを狙うために行方をくらましたのかしら? それとも別件?」ジェシルは天井を見ながら独り言を言う。「もし、クェーガーがモーリーと共にわたしを狙ったとして、あのニンジャ野郎は誰かしら? 上層部は本気で探そうとしているようには見えないけど…… だとしたら、思った通り、上層部の誰かさんが関わっているのね」
ジェシルの脳裏にビョンドル統括管理官の顔が浮かぶ。
「ビョンドル統括管理官か…… 統括管理官個人の考えかしらね? それとも、上層部全体がわたしを狙っている?」
上層部と暗黒街とは結構関係が深いらしいと聞いたことがある。散々暴れ回るジェシルを煙たく思うのは暗黒街のお歴々だけではないのだろう。
でも…… と、ジェシルは思う。たかが一捜査官を抹殺するには大袈裟な気もする。取りあえず解雇すれば用が足りるのではないだろうか? 一民間人となったジェシルが大暴れすれば、それだけで逮捕や、場合によっては射殺なども出来るはずだ。
まさかわたしの一族が…… ジェシルは親戚たちの顔を一人一人思い浮かべてみた。……わたしが結婚しなければ、直系の血筋は絶えてしまう。一族と言っても、直系の威容があるおかげで、傍系の皆々様方は今の地位を保っているのが現実だ。だから、わたしがいなくなってしまった時点で、権威も何もかも失われてしまう事になる。そうなれば、一族をやっかんでいる皆々様方の総攻撃に遭って、一族の皆々様方は、あっという間に失脚してしまうだろう。だとすれば、わたしを守りこそすれ、亡き者にはできないはずよね。やたら結婚を勧める叔父は、ひょっとしたら今の地位が危ないのかもしれない。そう思うと、自然と口元が緩むジェシルだった。絶対に結婚なんかしてやるものか! ジェシルはべえと舌を突き出してみせた。
「それにしても、わたしの休日の行動を追っている者がいたってことよね…… 直接わたしを狙う者たち以外に、監視している者たちでもいるのかしら……」
ジェシルは目を閉じて、メルカトリーム熱線銃でベルザの実のジュースのグラスを撃たれた時の事を思い出していた。……監視役は、あの絡んできた坊やたちだったのかしら? それとも、隣のテーブルにいた冴えないオジサンだったのかしら? いや、ウエイトレスのあの可愛い娘なのかもしれない……
「もう何が何だかわからないわね……」ジェシルは大きな欠伸をした。朝早くにトールメン部長に呼び出されたので、眠気が襲ってきたようだった。「さてと、もう一眠りしようかしら……」
ジェシルは言うと再び目を閉じた。しばらくすると可愛らしい寝息を立てはじめた。
つづく
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