みつの蹴りが骸骨の骨盤を撃つ。骨盤が飛ばされ、骸骨は崩れ落ちる。みつはグラウンドに転がったしゃれこうべを骨盤とは反対側に蹴り飛ばした。残りの部分も四方へ蹴散らした。
「さあ、さとみ殿! 逃げて下さい!」みつがさとみに向かって叫ぶ。「これだけ散り散りになれば、元に戻るにも時が掛かりましょう!」
「でも、みんなを置いて行けないわ!」
「何を言っているんです! こやつの狙いはさとみ殿ですぞ!」
さとみを見ている豆蔵がうなずく。生意気に竜二までもがうなずいている。
「そうよ、さとみちゃん」百合恵が言う。「こいつを動かしている邪悪霊は強力よ。躊躇っていたらやられちゃうわ!」
「でも、どこまでも追いかけて来るかも……」
「まだ学校の外には出られないと思うわ。いわゆる結界になっているはずよ」百合恵がにやりと笑む。「さあ、早く! 言う事聞かないと、嫌いになっちゃうわよ!」
さとみが向きを変えて走り出す。みつは集まり始めている骨の部品を蹴散らし続ける。
と、蹴散らされた部品の一部が地に落ちずに宙に浮かんだ。みつはそれを見て、身構える。宙に浮いていた部品は右腕を形成した。手を大きく広げて、みつに向かって勢いよく向かって来る。みつは左手の甲でそれを払い飛ばした。しかし、腕は散ることなく再びみつに向かって来る。みつは回し蹴りを放った。右腕は少し浮き上がって蹴りをかわした。
「おのれ!」
みつは跳躍し強烈な右脚の蹴りを食らわそうとした。が、不意に左脚を引っ張られた。みつはグラウンドに降り立った。左脚を見ると、いつの間にか形成した骨の左手が足首をしっかりとつかんでいた。引き剥がそうと前屈みになり両手を使う。しかし、びくともしなかった。
「うっ!」
みつは呻く。後頭部に激痛が走った。骨の右手が髪の毛を強い力で引っ張っていた。みつはそのまま仰向けに倒された。引き剥がそうと両腕を上げて後頭部へ回す。すると、足首をつかんでいた左手が離れ、がら空きのみつの喉元に迫り、首をつかんだ。
「みつさん!」
百合恵がみつに駈け寄ろうとする。左脚はまだ痛いが、動けないわけではない。
と、いきなり背中に衝撃があり、百合恵は前のめりに倒れた。四つん這いの格好でからだを支えて振り返ると、しゃれこうべが宙に浮かんでいた。しゃれこうべがぶつかって来たのだ。青白く光る眼窩に赤い鬼火の瞳が動いて百合恵を睨みつけた。
「……小娘……」
しゃれこうべの下顎がかたかたと動いて低い声で言う。
「あら、嬉しい」百合恵は言うと笑む。「わたしって、そんなに若くに見えるのかしら?」
百合恵はいきなり腹に衝撃を受けた。からだをくの字に曲げながらグラウンドを転がる。百合恵が苦悶の表情で見上げると、二本の骨の足があった。右脚が地を滑るように動いて横倒しになっている百合恵の腹を蹴った。百合恵は呻く。と、左脚が横を向いた百合恵の首を踏み付けた。強い力だ。百合恵は動けなくなった。両手で左脚を退かそうとするが全く動かない。じわじわと踏みつける力が増して行く。豆蔵と竜二はみつと百合恵を抑え込んでいる骨の手脚に飛び掛かるが素通りしてしまう。
「ひゃひゃひゃ……」しゃれこうべが不気味な笑い声を発した。「無駄だ、小娘を呼べ……」
みつと百合恵の苦しそうな呻き声が夜闇に流れていた。
「こらあ!」
大きな声がした。さとみは駈け戻って来て怒鳴ったのだ。ただ、迫力はない。
「好い加減にしなさいよう!」
しゃれこうべが揺れながらさとみの方へと近づいて行く。鬼火の瞳が一層赤く燃え上がった。
「さとみちゃん……」
百合恵が声をかける。と、骨の右脚は百合恵の腹を蹴った。百合恵はぐったりとする。
「百合恵殿!」
みつは起き上がろうとする。と、首を絞めている骨の左手にさらに力が加わった。みつは両手で剥がそうとする。すると、髪の毛をつかんで引っ張っている右手に力が加わる。
「みつさん! アイから抜け出して!」
見かねたさとみが叫ぶ。
「いいえ、そんな事をしたら、アイ殿の命が危ない……」みつが苦しそうに答える。「わたしが憑いている限り、アイ殿に苦痛は起こりませんから……」
みつは答えたが、すぐにぐったりとしてしまった。気を失ったようだ。
さとみはみつに駈け寄ろうとする。が、しゃれこうべが行く手を塞いだ。揺らめく鬼火の瞳がじっとさとみを見つめている。
「小娘……」しゃれこうべは低い声で唸るように言う。「怨み、晴らさせてもらうぞ……」
「わたし、あなたなんか知らないわよ! 人違いじゃないの?」さとみは言い、グラウンドに倒れている百合恵とみつを見る。「……もし、人違いだったとしても、こんな事をして許されるわけはないわ!」
「ひゃひゃひゃ……」しゃれこうべは笑う。「お前は忘れたと言うのか? お前に封じられてからの年月、オレは一時たりとも忘れてはいなかったぞ。お前を恨み、呪っていた。それがオレの封じられている間、滅することなく存続できた糧だった」
「……あのさ、本当に、何を言っているのか分からないわ」さとみが怪訝な顔で言う。「やっぱり、誰かと間違えているわよ」
「ふざけた事をぬかすな! お前は綾部冨だろうが!」しゃれこうべは下顎をかたかた鳴らす。「封が解けたんでな、お前を殺してやる!」
「あのさぁ……」さとみは呆れたように言う。「綾部冨って、わたしのお婆ちゃん、富お婆ちゃんよ……」
つづく
「さあ、さとみ殿! 逃げて下さい!」みつがさとみに向かって叫ぶ。「これだけ散り散りになれば、元に戻るにも時が掛かりましょう!」
「でも、みんなを置いて行けないわ!」
「何を言っているんです! こやつの狙いはさとみ殿ですぞ!」
さとみを見ている豆蔵がうなずく。生意気に竜二までもがうなずいている。
「そうよ、さとみちゃん」百合恵が言う。「こいつを動かしている邪悪霊は強力よ。躊躇っていたらやられちゃうわ!」
「でも、どこまでも追いかけて来るかも……」
「まだ学校の外には出られないと思うわ。いわゆる結界になっているはずよ」百合恵がにやりと笑む。「さあ、早く! 言う事聞かないと、嫌いになっちゃうわよ!」
さとみが向きを変えて走り出す。みつは集まり始めている骨の部品を蹴散らし続ける。
と、蹴散らされた部品の一部が地に落ちずに宙に浮かんだ。みつはそれを見て、身構える。宙に浮いていた部品は右腕を形成した。手を大きく広げて、みつに向かって勢いよく向かって来る。みつは左手の甲でそれを払い飛ばした。しかし、腕は散ることなく再びみつに向かって来る。みつは回し蹴りを放った。右腕は少し浮き上がって蹴りをかわした。
「おのれ!」
みつは跳躍し強烈な右脚の蹴りを食らわそうとした。が、不意に左脚を引っ張られた。みつはグラウンドに降り立った。左脚を見ると、いつの間にか形成した骨の左手が足首をしっかりとつかんでいた。引き剥がそうと前屈みになり両手を使う。しかし、びくともしなかった。
「うっ!」
みつは呻く。後頭部に激痛が走った。骨の右手が髪の毛を強い力で引っ張っていた。みつはそのまま仰向けに倒された。引き剥がそうと両腕を上げて後頭部へ回す。すると、足首をつかんでいた左手が離れ、がら空きのみつの喉元に迫り、首をつかんだ。
「みつさん!」
百合恵がみつに駈け寄ろうとする。左脚はまだ痛いが、動けないわけではない。
と、いきなり背中に衝撃があり、百合恵は前のめりに倒れた。四つん這いの格好でからだを支えて振り返ると、しゃれこうべが宙に浮かんでいた。しゃれこうべがぶつかって来たのだ。青白く光る眼窩に赤い鬼火の瞳が動いて百合恵を睨みつけた。
「……小娘……」
しゃれこうべの下顎がかたかたと動いて低い声で言う。
「あら、嬉しい」百合恵は言うと笑む。「わたしって、そんなに若くに見えるのかしら?」
百合恵はいきなり腹に衝撃を受けた。からだをくの字に曲げながらグラウンドを転がる。百合恵が苦悶の表情で見上げると、二本の骨の足があった。右脚が地を滑るように動いて横倒しになっている百合恵の腹を蹴った。百合恵は呻く。と、左脚が横を向いた百合恵の首を踏み付けた。強い力だ。百合恵は動けなくなった。両手で左脚を退かそうとするが全く動かない。じわじわと踏みつける力が増して行く。豆蔵と竜二はみつと百合恵を抑え込んでいる骨の手脚に飛び掛かるが素通りしてしまう。
「ひゃひゃひゃ……」しゃれこうべが不気味な笑い声を発した。「無駄だ、小娘を呼べ……」
みつと百合恵の苦しそうな呻き声が夜闇に流れていた。
「こらあ!」
大きな声がした。さとみは駈け戻って来て怒鳴ったのだ。ただ、迫力はない。
「好い加減にしなさいよう!」
しゃれこうべが揺れながらさとみの方へと近づいて行く。鬼火の瞳が一層赤く燃え上がった。
「さとみちゃん……」
百合恵が声をかける。と、骨の右脚は百合恵の腹を蹴った。百合恵はぐったりとする。
「百合恵殿!」
みつは起き上がろうとする。と、首を絞めている骨の左手にさらに力が加わった。みつは両手で剥がそうとする。すると、髪の毛をつかんで引っ張っている右手に力が加わる。
「みつさん! アイから抜け出して!」
見かねたさとみが叫ぶ。
「いいえ、そんな事をしたら、アイ殿の命が危ない……」みつが苦しそうに答える。「わたしが憑いている限り、アイ殿に苦痛は起こりませんから……」
みつは答えたが、すぐにぐったりとしてしまった。気を失ったようだ。
さとみはみつに駈け寄ろうとする。が、しゃれこうべが行く手を塞いだ。揺らめく鬼火の瞳がじっとさとみを見つめている。
「小娘……」しゃれこうべは低い声で唸るように言う。「怨み、晴らさせてもらうぞ……」
「わたし、あなたなんか知らないわよ! 人違いじゃないの?」さとみは言い、グラウンドに倒れている百合恵とみつを見る。「……もし、人違いだったとしても、こんな事をして許されるわけはないわ!」
「ひゃひゃひゃ……」しゃれこうべは笑う。「お前は忘れたと言うのか? お前に封じられてからの年月、オレは一時たりとも忘れてはいなかったぞ。お前を恨み、呪っていた。それがオレの封じられている間、滅することなく存続できた糧だった」
「……あのさ、本当に、何を言っているのか分からないわ」さとみが怪訝な顔で言う。「やっぱり、誰かと間違えているわよ」
「ふざけた事をぬかすな! お前は綾部冨だろうが!」しゃれこうべは下顎をかたかた鳴らす。「封が解けたんでな、お前を殺してやる!」
「あのさぁ……」さとみは呆れたように言う。「綾部冨って、わたしのお婆ちゃん、富お婆ちゃんよ……」
つづく
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