それから数日後、卒業式が行われた。体育館には、卒業生一同、在校生の一、二年生、卒業生の父兄、良く分からない来賓、人でいっぱいになっていた。
恵一郎が『聖ジョルジュアンナ高等学園』に特待生として入学すると言う話は、かなり広まっていたようだ。そのせいで、両親は卒業式を欠席してしまった。
「まあ、お宅の息子さん、優秀ですのねぇ……」と言われたとしたら、その裏側には「その割に、親は平凡の極みみたいよねぇ……」があると思い、「まあ、羨ましいですわぁ。あんな上流に学校へねぇ……」と言われたら、その裏側には「ふん! 平凡人なんか上流人の中でおもちゃにされれば良いんだわ!」があると思い、「特待生ですってね。素晴らしいわねぇ……」と言われたら、その裏側には「特別待遇生じゃなくって特別虐待生の略なんじゃないの? 散々馬鹿にされるが良いわ」があると思う。他にも色々と言われることを想定した両親は欠席を選んだのだ。様々なプレッシャーに耐えられないと判断したのだろう。
恵一郎もそんな両親の気持ちが分からないわけではない。波風の立たない生き方をしてきたのだ。それがこんな事になってしまって、まさに青天の霹靂だろう。周りと違うと言うのも、自分が何やら恐ろしい怪物になってしまったようで居心地が悪いのだ。当事者の恵一郎がそう思っているのだから、あの両親ならその思いはさらに強いだろう。両親がひきこもりにならなければ良いのだがと、恵一郎は思う。
こんな事になるのなら、やっぱり二次募集や通信制の方が良かったのではないか。周りと違っていても、決して無い話ではないからだ。「二次でも入れたのなら問題は無い、後はお前の努力次第だ」と父親は言うだろうし、「うちの息子、ちょっとあって通信高校で……」と母親が言って皆から妙な同情されるだろうし。後はマグロ漁船に乗って日本から消えて無くなると言う究極の選択もあっただろう。
まあ、今となっては、全てが後の祭りだ。
教材も制服もそろえられ、同級生となる二人の訪問もあった。……そうさ、僕は『聖ジョルジュアンナ高等学園 一年J組』の生徒になるのさ。恵一郎は心を決めいていた。
だが、両親が出席してくれないのは、やはり、寂しいものだった。
校長や来賓の挨拶がまるで耳に入ってこない(基本、生徒たちはそんなかったるいものを聞いてはいないものなのだが)。何となく周囲の視線が気になる。特に苛めの主犯の勝也は、時折振り返っては恵一郎を睨んでくる。「何でこんなヤツが……」睨み付けてくる視線はそれを語っている。……僕が決めた事じゃないのに、逆恨みだよ。恵一郎は思いそっと溜め息をつく。
と、父兄席がざわつき始めた。
つづく
恵一郎が『聖ジョルジュアンナ高等学園』に特待生として入学すると言う話は、かなり広まっていたようだ。そのせいで、両親は卒業式を欠席してしまった。
「まあ、お宅の息子さん、優秀ですのねぇ……」と言われたとしたら、その裏側には「その割に、親は平凡の極みみたいよねぇ……」があると思い、「まあ、羨ましいですわぁ。あんな上流に学校へねぇ……」と言われたら、その裏側には「ふん! 平凡人なんか上流人の中でおもちゃにされれば良いんだわ!」があると思い、「特待生ですってね。素晴らしいわねぇ……」と言われたら、その裏側には「特別待遇生じゃなくって特別虐待生の略なんじゃないの? 散々馬鹿にされるが良いわ」があると思う。他にも色々と言われることを想定した両親は欠席を選んだのだ。様々なプレッシャーに耐えられないと判断したのだろう。
恵一郎もそんな両親の気持ちが分からないわけではない。波風の立たない生き方をしてきたのだ。それがこんな事になってしまって、まさに青天の霹靂だろう。周りと違うと言うのも、自分が何やら恐ろしい怪物になってしまったようで居心地が悪いのだ。当事者の恵一郎がそう思っているのだから、あの両親ならその思いはさらに強いだろう。両親がひきこもりにならなければ良いのだがと、恵一郎は思う。
こんな事になるのなら、やっぱり二次募集や通信制の方が良かったのではないか。周りと違っていても、決して無い話ではないからだ。「二次でも入れたのなら問題は無い、後はお前の努力次第だ」と父親は言うだろうし、「うちの息子、ちょっとあって通信高校で……」と母親が言って皆から妙な同情されるだろうし。後はマグロ漁船に乗って日本から消えて無くなると言う究極の選択もあっただろう。
まあ、今となっては、全てが後の祭りだ。
教材も制服もそろえられ、同級生となる二人の訪問もあった。……そうさ、僕は『聖ジョルジュアンナ高等学園 一年J組』の生徒になるのさ。恵一郎は心を決めいていた。
だが、両親が出席してくれないのは、やはり、寂しいものだった。
校長や来賓の挨拶がまるで耳に入ってこない(基本、生徒たちはそんなかったるいものを聞いてはいないものなのだが)。何となく周囲の視線が気になる。特に苛めの主犯の勝也は、時折振り返っては恵一郎を睨んでくる。「何でこんなヤツが……」睨み付けてくる視線はそれを語っている。……僕が決めた事じゃないのに、逆恨みだよ。恵一郎は思いそっと溜め息をつく。
と、父兄席がざわつき始めた。
つづく
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