ドアは、少し開いては止まり、少し開いては止まりを繰り返しながら、少しずつ開き始めた。
ドアの開きが増すごとに音楽が大きく聞こえてくる。どこかで聴いた事のありそうな曲だ。
コーイチは開いて行くドアを見ながら、じりじりしていた。ドアの向こうに何があるって言うんだ! それに、この妙に期待を膨らませてくれる曲はボクに何を伝えたいんだ!
ドアが半分ほど開いて、止まった。コーイチはロッカーから離れてドアの方へ近付いて行った。と、急にドアが壁に激突するほどの勢いで一気に開いた。コーイチは思わず後ろへ飛び去り、壁にしがみついた。
え? こんな所に壁は無いぞ、しかも壁にしがみつけるわけがない…… コーイチが恐る恐る振り返ると、殺し屋が、自分のがっしりした背中にしがみついている小柄なコーイチを、感情の無い眼差しで肩越しに見下ろしていた。コーイチは思わず愛想笑いを浮かべながら手を離し、コートに寄った皺をていねいに伸ばした。殺し屋は再び課長の方に顔を向けた。
大きく開け放されたドアから見える廊下には誰も居なかった。音楽だけが期待を高める。
しばらくすると、誰もいない廊下に、はらはらと金色と銀色の紙吹雪が降り始めた。それらは朝日を受け、目映い光を四方に放った。コーイチは目を細めながらもまた近付き始めた。と、急に廊下の床に積もった紙吹雪が大きな火柱を立てて燃え上がった。コーイチは後ろへ床を転がりながら逃げ、カーテンの裾を握り締めた。
え? こんな所にカーテンは無いぞ、しかもカーテンにしては手触りが何とも…… コーイチが恐る恐る見上げると、いきなり死神の上半身だけの身体が丸ごとコーイチの前に寄って来た。髑髏の顔をぐっと近寄せ、下あごの骨を動かしカチカチと音を立てた。コーイチは思わず愛想笑いを浮かべながら立ち上がり、握り締めていた死神のマントを軽くはたいてほこりを落とすような仕草をして手を離した。死神は上半身を浮き上がらせ、再び課長の方に顔を向けた。
火柱はまだ立っていた。大変だ! 火事だ火事だ! コーイチがおろおろしていると、急に火柱が消え、そこにスタイルの良い身体の線がはっきりと浮き出るほどぴっちりとした袖なしの白いミニドレスを纏い、白い大きなリボンをあしらった白いシルクハットをかぶった、黒いショートヘアの若い女性が笑顔で立っていた。
「すごい、すごい! これはすごい手品師さんだ!」コーイチは拍手をしながら叫んだ。いつの間にか、その若い女性の手品師のすぐ前まで寄っている。
手品師はコーイチに向かい軽く会釈をすると、シルクハットを左手で取り、かぶる側をコーイチに向けた。
「うん、何も入っていない!」
コーイチは力強く断言し、一人頷いた。
手品師は胸元にシルクハットを戻し、右手をその中へ差し入れた。何かを探しているような眉間に軽く皺を寄せた困った表情をし、次いで、探し物が見つかって安心したのか微笑みを浮かべた。
右手をシルクハットから取り出す。手には白い棒が握られていた。棒はシルクハットの高さを越えてするすると伸び続け、すっかり取り出したのを見た時、コーイチが叫んだ。
「あ、ステッキだ!」
コーイチの目が好奇心でキラキラと輝いた。
つづく
ドアの開きが増すごとに音楽が大きく聞こえてくる。どこかで聴いた事のありそうな曲だ。
コーイチは開いて行くドアを見ながら、じりじりしていた。ドアの向こうに何があるって言うんだ! それに、この妙に期待を膨らませてくれる曲はボクに何を伝えたいんだ!
ドアが半分ほど開いて、止まった。コーイチはロッカーから離れてドアの方へ近付いて行った。と、急にドアが壁に激突するほどの勢いで一気に開いた。コーイチは思わず後ろへ飛び去り、壁にしがみついた。
え? こんな所に壁は無いぞ、しかも壁にしがみつけるわけがない…… コーイチが恐る恐る振り返ると、殺し屋が、自分のがっしりした背中にしがみついている小柄なコーイチを、感情の無い眼差しで肩越しに見下ろしていた。コーイチは思わず愛想笑いを浮かべながら手を離し、コートに寄った皺をていねいに伸ばした。殺し屋は再び課長の方に顔を向けた。
大きく開け放されたドアから見える廊下には誰も居なかった。音楽だけが期待を高める。
しばらくすると、誰もいない廊下に、はらはらと金色と銀色の紙吹雪が降り始めた。それらは朝日を受け、目映い光を四方に放った。コーイチは目を細めながらもまた近付き始めた。と、急に廊下の床に積もった紙吹雪が大きな火柱を立てて燃え上がった。コーイチは後ろへ床を転がりながら逃げ、カーテンの裾を握り締めた。
え? こんな所にカーテンは無いぞ、しかもカーテンにしては手触りが何とも…… コーイチが恐る恐る見上げると、いきなり死神の上半身だけの身体が丸ごとコーイチの前に寄って来た。髑髏の顔をぐっと近寄せ、下あごの骨を動かしカチカチと音を立てた。コーイチは思わず愛想笑いを浮かべながら立ち上がり、握り締めていた死神のマントを軽くはたいてほこりを落とすような仕草をして手を離した。死神は上半身を浮き上がらせ、再び課長の方に顔を向けた。
火柱はまだ立っていた。大変だ! 火事だ火事だ! コーイチがおろおろしていると、急に火柱が消え、そこにスタイルの良い身体の線がはっきりと浮き出るほどぴっちりとした袖なしの白いミニドレスを纏い、白い大きなリボンをあしらった白いシルクハットをかぶった、黒いショートヘアの若い女性が笑顔で立っていた。
「すごい、すごい! これはすごい手品師さんだ!」コーイチは拍手をしながら叫んだ。いつの間にか、その若い女性の手品師のすぐ前まで寄っている。
手品師はコーイチに向かい軽く会釈をすると、シルクハットを左手で取り、かぶる側をコーイチに向けた。
「うん、何も入っていない!」
コーイチは力強く断言し、一人頷いた。
手品師は胸元にシルクハットを戻し、右手をその中へ差し入れた。何かを探しているような眉間に軽く皺を寄せた困った表情をし、次いで、探し物が見つかって安心したのか微笑みを浮かべた。
右手をシルクハットから取り出す。手には白い棒が握られていた。棒はシルクハットの高さを越えてするすると伸び続け、すっかり取り出したのを見た時、コーイチが叫んだ。
「あ、ステッキだ!」
コーイチの目が好奇心でキラキラと輝いた。
つづく
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