「ちょっ、ちょっ、ちょっ……」
コーイチは言いながら、ステージ後方へと後退した。背中が壁に当たり、もうこれ以上下がることが出来なくなった。それでもコーイチの足は後方へ後方へと進もうとしていた。
京子はそんなコーイチを笑顔で見つめ、右手でおいでおいでと手招きをした。コーイチは首を左右に振り、拒否のアピールをした。
「どうやらコーイチ君は高所恐怖症のようです」
林谷がからかうように言った。場内から失笑が漏れた。
高所恐怖症? そんなんじゃないですよ、林谷さん! 空中を飛ぶんですよ! いいや、飛ばされるんですよ! ボクはそんな経験なんか過去に一度もないんですよ!
「さあ、コーイチ君。皆さんお待ちかねよ。んふふふふ……」
京子は言って、さらに手招きをした。笑顔は変わらないが、目が笑っていなかった。……あきらめて、こっちへいらっしゃい。これ以上手を焼かせると、姿が変わっても知らないわよ。京子の目はそう語っているようにみえた。コーイチはため息をついた。
重い足取りで歩き出したコーイチは、京子の横で立ち止まった。心配そうな顔で京子を見ていた。
「言ったでしょ? 任せてって」
京子はささやいて、コーイチにウインクして見せた。
「でも、でも、魔法を使うんだろう?」
コーイチもささやき返した。心なしか声が震えている。
「まあ、そう言う事になるわね」
「ボクは、ボクは、実を言うと、魔法にかけられるのも空を飛ぶのも初めてなんだ。全部任せて、大丈夫、私を信用して、なんて色々と言ってくれるけど、おっかないんだよ……」
京子は呆れたような顔でコーイチを見た。しかし、すぐに笑顔に戻った。
「魔法をかけられるのは初めてって言うのは、間違いよ」
「え? どうしてさ」
「両方の手を見てごらんなさいよ」
コーイチは言われるままに自分の両手を見た。
右手はフォークを握り、左手は料理を持った皿を乗せていた。……ずう~っと持ってたんだ。よく落としたりこぼしたりしなかったもんだ。奇跡だぞ! コーイチは驚いた顔でフォークと皿を目の高さまで持ち上げた。
「コーイチ君、まさか奇跡だと思ってるんじゃないでしょうね」
「……思っているよ」
コーイチはさらに両手を揚げて答えた。
「ダメねぇ。これよ、これ!」
京子は右手の人差し指をピンと立てて、軽く振って見せた。……そうか、魔法のおかげだったんだ。考えてみれば、奇跡でなけりゃ、それしかないよなぁ。
「どう? 何か変な感じとか、する?」
「いいや、痛くも痒くもないよ。魔法をかけられていたなんて、全く気付かなかった」
これなら、魔法は大丈夫だ、と思う。多分、きっと…… やっぱり不安の抜けないコーイチだった。
「そうでしょう!」
京子はそんなコーイチの心境などを全く気にせず、嬉しそうな声で言った。
それから、ふと、いたずらっ子のような顔になって続けた。
「でも、空中へ人を飛ばすなんて、私も初めてなのよ!」
「えええええっ!」
京子はコーイチの背中を力一杯押し出した。
つづく
コーイチは言いながら、ステージ後方へと後退した。背中が壁に当たり、もうこれ以上下がることが出来なくなった。それでもコーイチの足は後方へ後方へと進もうとしていた。
京子はそんなコーイチを笑顔で見つめ、右手でおいでおいでと手招きをした。コーイチは首を左右に振り、拒否のアピールをした。
「どうやらコーイチ君は高所恐怖症のようです」
林谷がからかうように言った。場内から失笑が漏れた。
高所恐怖症? そんなんじゃないですよ、林谷さん! 空中を飛ぶんですよ! いいや、飛ばされるんですよ! ボクはそんな経験なんか過去に一度もないんですよ!
「さあ、コーイチ君。皆さんお待ちかねよ。んふふふふ……」
京子は言って、さらに手招きをした。笑顔は変わらないが、目が笑っていなかった。……あきらめて、こっちへいらっしゃい。これ以上手を焼かせると、姿が変わっても知らないわよ。京子の目はそう語っているようにみえた。コーイチはため息をついた。
重い足取りで歩き出したコーイチは、京子の横で立ち止まった。心配そうな顔で京子を見ていた。
「言ったでしょ? 任せてって」
京子はささやいて、コーイチにウインクして見せた。
「でも、でも、魔法を使うんだろう?」
コーイチもささやき返した。心なしか声が震えている。
「まあ、そう言う事になるわね」
「ボクは、ボクは、実を言うと、魔法にかけられるのも空を飛ぶのも初めてなんだ。全部任せて、大丈夫、私を信用して、なんて色々と言ってくれるけど、おっかないんだよ……」
京子は呆れたような顔でコーイチを見た。しかし、すぐに笑顔に戻った。
「魔法をかけられるのは初めてって言うのは、間違いよ」
「え? どうしてさ」
「両方の手を見てごらんなさいよ」
コーイチは言われるままに自分の両手を見た。
右手はフォークを握り、左手は料理を持った皿を乗せていた。……ずう~っと持ってたんだ。よく落としたりこぼしたりしなかったもんだ。奇跡だぞ! コーイチは驚いた顔でフォークと皿を目の高さまで持ち上げた。
「コーイチ君、まさか奇跡だと思ってるんじゃないでしょうね」
「……思っているよ」
コーイチはさらに両手を揚げて答えた。
「ダメねぇ。これよ、これ!」
京子は右手の人差し指をピンと立てて、軽く振って見せた。……そうか、魔法のおかげだったんだ。考えてみれば、奇跡でなけりゃ、それしかないよなぁ。
「どう? 何か変な感じとか、する?」
「いいや、痛くも痒くもないよ。魔法をかけられていたなんて、全く気付かなかった」
これなら、魔法は大丈夫だ、と思う。多分、きっと…… やっぱり不安の抜けないコーイチだった。
「そうでしょう!」
京子はそんなコーイチの心境などを全く気にせず、嬉しそうな声で言った。
それから、ふと、いたずらっ子のような顔になって続けた。
「でも、空中へ人を飛ばすなんて、私も初めてなのよ!」
「えええええっ!」
京子はコーイチの背中を力一杯押し出した。
つづく
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