「まあ、あらあら!」
花の呆れたような口振りの叫びが遥か下の方から聞こえていた。眼下には木々のてっぺんが、敷き詰めた芝のように連なっている。飛んで来たカラスがかあかあ鳴きながら、大慌てで宙返りをし、もと来た方へと飛び去って行った。・・・僕は大きくなったんだ! コーイチは思った。直接照り付ける太陽がまぶしく、熱かった。・・・大きくなって、太陽に近づいたからだろうな。一人納得しているコーイチだった。
「すごいじゃない! とんでもない巨人だわ!」ふわふわと花が舞い上がって来た。「でも、ちょっと問題があるわね・・・」
「問題?」コーイチは不満そうに口を尖らせる。「きのこが効いて、大きくなったじゃないか。問題なんて無いと思うけどね」
「あのね、わたしを良く見て」花は右の葉で、開いている自分の花の部分を指し示した。「どう見えるかしら?」
「どうって・・・」コーイチはじっと花を見る。別に変わった所は見られない。「花としか見えないけど?」
「お馬鹿さんねぇ・・・」花はやれやれと言った風に、大袈裟に花の部分を左右に振った。「わたしが大きく見える? それとも、小さく見える?」
「・・・」コーイチは改めて花をじっと見た。「変わっていないようだけど」
「大正解! すごいわぁ! 偉いわぁ! 天才だわぁ!」
花は左右の葉で拍手をして見せた。褒めているよりも馬鹿にしているようにしか見えない。
「と言う事はね・・・」花が急に口調を真面目なものに戻した。「あなたは巨人になる事はなったけど、そのままのサイズで大きくなったってわけ」
「・・・そう言えば、アリスは首だけが伸びてしまっていたような・・・」
コーイチは思わず首を触った。長さは変わっていなかった。安堵の笑みが自然と口元に浮かんだ。
「あなた、どうして、そんなにのん気なのよ! それに気が付かないの? 首が伸びていないって事は、他の場所が伸びたって事なのよ!」
「えっ?」浮かべた笑みがそのまま凍りつく。「じゃあ、どこが伸びたって言うんだい?」
「ちょっと歩いてご覧なさいよ」
花は言うと、ふわりとコーイチの顔の前から少し遠ざかった。コーイチは後を追うつもりで一歩前へ進んだ。
「・・・あれ?」
足を前に出しているのに、進んだ気がしない。花は煽るようにどんどんと遠ざかって行く。必死に追いかけるが、思ったように進まない。
「どう言う事なんだろう?」コーイチは強い陽射しと不安な気持ちのせいで流れ落ちる汗をハンカチで拭こうと、スラックスのポケットに手を伸ばした。「・・・あれ?」
スラックスに届かない。いくら手を伸ばしても同じだった。不安そうな顔を花に向けた。
「分かったでしょう?」花はくすくす笑いながら近づいて来た。「伸びたのは、胴なのよ。胴だけが何十倍にも伸びたのよ。肝心の足はそのまま。これじゃ、大きくなった意味が無いわねぇ・・・」
「どうしたら良いんだろう?」コーイチは頭を抱えた。「こんなんじゃ、歩幅は普通のままだ。しかも、自転車にも乗れない・・・」
「相変わらず、お馬鹿さんねぇ・・・ 思い出してよ」花はコーイチの鼻先を葉でつんつんと突つく。「きのこの反対側を食べれば、縮むって事を」
花は言うと、地上へと降りて行き、左の葉にさっきかじった食べかけのきのこを持って、戻って来た。
「かじっていない方を食べれば、縮むわ」コーイチの口元へすっと差し出す。「さあ、食べちゃってよ」
「分かった」コーイチは大きく口を開け、きのこの反対側を思い切りよくかじった。「どわああああああ!」
コーイチのからだが小さくなり始めた。
つづく
(今後の活動予定が発表されませんね。そろそろソロかと思うんですが・・・)
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花の呆れたような口振りの叫びが遥か下の方から聞こえていた。眼下には木々のてっぺんが、敷き詰めた芝のように連なっている。飛んで来たカラスがかあかあ鳴きながら、大慌てで宙返りをし、もと来た方へと飛び去って行った。・・・僕は大きくなったんだ! コーイチは思った。直接照り付ける太陽がまぶしく、熱かった。・・・大きくなって、太陽に近づいたからだろうな。一人納得しているコーイチだった。
「すごいじゃない! とんでもない巨人だわ!」ふわふわと花が舞い上がって来た。「でも、ちょっと問題があるわね・・・」
「問題?」コーイチは不満そうに口を尖らせる。「きのこが効いて、大きくなったじゃないか。問題なんて無いと思うけどね」
「あのね、わたしを良く見て」花は右の葉で、開いている自分の花の部分を指し示した。「どう見えるかしら?」
「どうって・・・」コーイチはじっと花を見る。別に変わった所は見られない。「花としか見えないけど?」
「お馬鹿さんねぇ・・・」花はやれやれと言った風に、大袈裟に花の部分を左右に振った。「わたしが大きく見える? それとも、小さく見える?」
「・・・」コーイチは改めて花をじっと見た。「変わっていないようだけど」
「大正解! すごいわぁ! 偉いわぁ! 天才だわぁ!」
花は左右の葉で拍手をして見せた。褒めているよりも馬鹿にしているようにしか見えない。
「と言う事はね・・・」花が急に口調を真面目なものに戻した。「あなたは巨人になる事はなったけど、そのままのサイズで大きくなったってわけ」
「・・・そう言えば、アリスは首だけが伸びてしまっていたような・・・」
コーイチは思わず首を触った。長さは変わっていなかった。安堵の笑みが自然と口元に浮かんだ。
「あなた、どうして、そんなにのん気なのよ! それに気が付かないの? 首が伸びていないって事は、他の場所が伸びたって事なのよ!」
「えっ?」浮かべた笑みがそのまま凍りつく。「じゃあ、どこが伸びたって言うんだい?」
「ちょっと歩いてご覧なさいよ」
花は言うと、ふわりとコーイチの顔の前から少し遠ざかった。コーイチは後を追うつもりで一歩前へ進んだ。
「・・・あれ?」
足を前に出しているのに、進んだ気がしない。花は煽るようにどんどんと遠ざかって行く。必死に追いかけるが、思ったように進まない。
「どう言う事なんだろう?」コーイチは強い陽射しと不安な気持ちのせいで流れ落ちる汗をハンカチで拭こうと、スラックスのポケットに手を伸ばした。「・・・あれ?」
スラックスに届かない。いくら手を伸ばしても同じだった。不安そうな顔を花に向けた。
「分かったでしょう?」花はくすくす笑いながら近づいて来た。「伸びたのは、胴なのよ。胴だけが何十倍にも伸びたのよ。肝心の足はそのまま。これじゃ、大きくなった意味が無いわねぇ・・・」
「どうしたら良いんだろう?」コーイチは頭を抱えた。「こんなんじゃ、歩幅は普通のままだ。しかも、自転車にも乗れない・・・」
「相変わらず、お馬鹿さんねぇ・・・ 思い出してよ」花はコーイチの鼻先を葉でつんつんと突つく。「きのこの反対側を食べれば、縮むって事を」
花は言うと、地上へと降りて行き、左の葉にさっきかじった食べかけのきのこを持って、戻って来た。
「かじっていない方を食べれば、縮むわ」コーイチの口元へすっと差し出す。「さあ、食べちゃってよ」
「分かった」コーイチは大きく口を開け、きのこの反対側を思い切りよくかじった。「どわああああああ!」
コーイチのからだが小さくなり始めた。
つづく
(今後の活動予定が発表されませんね。そろそろソロかと思うんですが・・・)
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