お話

日々思いついた「お話」を思いついたまま書く

コーイチ物語 「秘密のノート」 43

2022年08月31日 | コーイチ物語 1 5) 部長・吉田吉吉  
「おいおい、一体何時になったら出社して来るんだ!」
 ロビーに立ったなり吉田部長は怒鳴った。そして天井を見つめている岡島を見つけると、さらに怒鳴った。
「おい、岡島! 来ない連中を探しに行かせたのに、お前も一緒になってこんな所にいちゃ、何のために行かせたのわからんだろうが!」
 岡島は息巻いている部長をボーッとした顔で見返した。吉田部長は舌打ちをした。
 それから、ロビーにたむろっている連中をジロリと見回した。
「印旛沼、林谷、清水、それにコーイチ! ここで何をしてるんだ!」
 印旛沼は頭を掻き、林谷は肩をすくめ、清水は小声で呪いの呪文を唱えた。コーイチは、部長になれたのはボクのおかげだぞと心の中で言った。呼ばれなかった西川は表情を変えなかった。
 吉田部長はボーイスカウト姿の老人を指差してさらに大声を出した。
「おい、じーさん! ここはキャンプ場じゃ無い、会社だよ、会社。それとも何だぁ? コスプレとか言うやつかぁ?」
 北口が大慌てで吉田部長に走り寄り、両肩をがしっとつかむ。
「部長になったからって、少しは落ち着けよ!」
「何だ、オレは部長様だぞ! 放せよ、北口課長!」
 北口は老人を振り返り叫んだ。
「社長! 彼はこの昇進ですっかり自分を見失っているんです! 本来はもっと真面目で冷静なやつなんです! お許し下さい!」
 吉田部長は北口の手を振りどけ、怒鳴った。
「何、社長だって! ふざけるなよ! 社長があんな格好をしているわけ無いだろう!」
 社長は腰に手を当てた姿勢でいきなり「かっかっかっ!」と哄笑した。
「そうかそうか、吉田君、Youとは初めて会うのかな。ま、いつもは社長だけど、今日は『ジャンボリー綿垣』と呼んでもらおうかな」
「えっ?」
 吉田部長は北口を見た。北口は大きく頷く。印旛沼林谷清水を見た。三人とも大きく頷く。岡島を見た。岡島は何度も頷く。コーイチもついでに頷く。西川は向こうを向いていた。
 吉田部長は陸に上がった魚のように口をパクパクさせ、夜中のフクロウの様に目を大きく見開き、壊れて止まらなくなった機械のようにガタガタと震え続けた。

       つづく

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