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ヒーロー「スペシャルマン」・9

2009年10月18日 | スペシャルマン
 オレは「スペシャルマン」と呼ばれる正義のヒーローだ。常人の及ばない様々な特殊能力を秘めている。この力で悪を倒し続けているのだ。
 さて、ヒーローの条件の一つとして認識されているものに、悪の組織の壊滅と言う事がある。
 そこで考えてもらいたい。悪の組織は、いったい何を「目的」としているのか?
 多くの人はこう答えるだろう。
「そりゃあ、地球制服だろうが!」
 じゃあ、聞くが「地球征服」した後はどうするのだ? 
「そりゃあ、征服された連中を好き勝手に扱うに決まってるじゃないか!」
 どう「好き勝手に扱う」のだ?
「そりゃあ、殺生与奪の権を握っているんだから、部下にして最前線へと送り出すとか・・・」
 配下に置かれた人類が、大挙して地球以外の星へ戦闘員として派遣されると言うのか? 何の訓練も施されずに? まあ、捨て石扱いならばそれも有りかも知れない。しかし万が一、その星に大気がなければどうなる? 着いた途端に役立たずになってしまうんだぞ!
「じゃあ、どうするって言うんだよ!」
 そう、そこがオレにも分からないところなのだ。
「征服」は目的なのか、通過点なのか。
 目的ならば、それ以降のプランがどうなっているのか。「征服したぞ、じゃ、次へ行こう!」こんな遊び感覚なのか。
 通過点ならば、その後に控えている真の目的とは何なのか。もし、人類を抹殺し、その後に住み着くのが目的ならば、こんなちまちました攻撃などせず、持てる科学力を駆使すれば、事は早いのでは無いのだろうか。
 これが人間の悪の組織ならば、金銭だの支配だのと言うことは理解できる(どっかの国のお偉いさんやどっかの世界的企業なんかは目的は違えども似ていると思う)。しかし、「ブラックシャドウ」のような悪の組織については皆目だ。どう思いを巡らせても、やってる事が中途半端な気がしてならない。
 ある日曜日、翔子とデートの待ち合わせをしていた某駅前に「ブラックナイト三号」と戦闘員たちが現れた。オレは「スペシャルマン」に変身してヤツらと対峙する。
「現われたな、スペシャルマン! 今日こそは息の根を止めてやる! 者共、掛かるのだ!」
「ブラックナイト三号」の命令が終わらぬうちに、戦闘員たちが襲い掛かってくる。
「待て!」オレはやつらを制した。「戦う前に、聞いておきたい事がある」
「・・・なんだ?」相手は怪訝そうな顔をする。「戦う前に聞く事などあるのか?」
「お前達の目的とは、一体何なのだ?」オレは日頃の疑問をぶつけた。「征服する事が目的なのか? 他に何か別の目的があるのか?」
「なにぃ!?」相手は呆れたような声を出した。そして、笑い出しやがった。「わっはっはっはっは! スペシャルマン! お前は、前から思っていたが、相当な馬鹿者だな!」不意に真顔になる。「・・・者共、こんな馬鹿はさっさと始末してしまえ!」
 改めて戦闘員たちが襲い掛かってくる。オレは戦闘員達を難なく倒し、「ブラックナイト三号」に詰め寄る。激しく長い戦いの末、オレは「ブラックナイト三号」を倒した。
「スペシャルマン、我々の目的を知りたいと言っていたな・・・」アスファルトの上に倒れ、絶え絶えの息の中で「ブラックナイト三号」は言う。「教えてやろうか・・・」
「ああ、教えてくれ! お前達の目的とは、何だ?」オレは相手の上半身を抱え上げ、耳を傍立たせる。「さあ、言え! 言うのだ!」
「お前だよ・・・」ささやくような声とともに「ブラックナイト三号」はゆるゆると右の人差し指をオレに向けて伸ばした。「正義の味方って言うのはな、我ら悪があってこそ、成り立つんだよ。正義と悪とは持ちつ持たれつの関係なのさ。いいか、平和の世では、お前は役立たずなんだよ。返って、人と違う力を持った、厄介者さ。そんな事も分からなかったのかい。めでたいヤツだな。・・・逆に、感謝してもらいたいくらいなのにねぇ・・・」
 そして、にたりと笑うと、「ブラックナイト三号」はそのまま力尽きた。
 隠れていた大衆は物陰から躍り出てきて、口々にオレは誉めそやしてくれる。スペシャルマン・コールと手拍子も興った。オレは感謝を示しながらも、気が晴れなかった。
 迂闊だった。聞くんじゃなかった。「ヒーロー倒すにゃ刃物は要らぬ、悪の味方があれば良い」って所なのか。こんなんじゃ、オレが悪のヒーローになってしまうかもしれない。




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