すっかり油断していたデスゴンだった。大量の石礫を避ける事が出来なかった。仮面の前で両腕を交差させるのが精一杯だった。その腕と晒されたからだとに石は容赦なく飛ぶ。さらに、デスゴンに当たった石は再び宙で集まり、デスゴンに飛ぶ。それが繰り返された。
「さすがはアーロンテイシア様じゃ」デールトッケが一連の出来事を見て、ハロンドッサに言う。「わしら考えを汲み取って下されたな」
「左様、左様」ハロンドッサは大きくうなずく。「デスゴンは勝ったとでも思ったのだろうさ。アーロンテイシア様のつぶやいた『愚かな』はデスゴンへの言葉であったのだ」
二人の長の言葉に、民は恐る恐る顔を上げた。石はひっきりなしにデスゴンを打ち続けている。民たちは歓声を上げ始め、アーロンテイシアの名を叫ぶ。
皆から少し離れた所に立っていたジャンセンも宙を見上げている。しかし、その表情は曇っている。
「……ジェシル……」ジャンセンは心配そうにつぶやく。「そんな事をしていたら、デスゴンの憑いた人物が大変な事になっちゃうじゃないか……」
ジャンセンの心配には、ジェシルは全く意識が向いていなかった。ジェシルはデスゴンを打ちのめしていた。ジェシルが持つ闘争心と戦う事の悦びとがアーロンテイシアの闘神の面と同調し、今のジェシルは、闘神アーロンテイシアそのものだったのだ。
「ジェシル、好い加減にしないと、まずいぞぉ……」ジャンセンはつぶやく。「取り返しのつかない事になるぞぉ……」
民は大声でアーロンテイシアを賛美している。闘神となったアーロンテイシアは石を飛ばす事に躊躇ない。デスゴンのからだに血がにじみ、打撲で色が変わって来た。仮面を覆っていた腕も力なく垂れ下がっている。
「あはははは!」アーロンテイシアは楽しそうに笑う。「どうしたのだ、デスゴンよ? 景気が良かったのは、現われた時だけのようだな! お前はここで朽ちるのだ!」
……ダメだ、ジェシルの性格の悪さとアーロンテイシアの闘神の残忍さとがシンクロしてしまっているぞ…… デスゴンが石に撃たれる様を見ながら笑い声を上げているアーロンテイシアの姿に、ジャンセンは頭を抱えた。
アーロンテイシアは右腕を高く差し上げた。デスゴンを襲っていた石がアーロンテイシアの頭上高くに集まった。
「おおおっ!」デールトッケが感嘆の声を上げる。「民たちよ、良く見ておくのだ。アーロンテイシア様の次の一撃でデスゴンは駆逐される。そうなればダームフェリアの者たちは敵ではないぞ」
と、そこへ弓矢や槍、大剣を携えた見るからに勇猛そうな男たちを引き連れたサロトメッカが姿を見せた。サロトメッカとその精鋭たちだ。民は歓声を上げる。
「これはちょうど良い時に戻って来たのう」ハロンドッサがつるつる頭を撫でながらサロトメッカたちに言う。「これこそアーロンテイシア様の導き。デスゴンも今少しで朽ちる。仮にダームフェリアの者どもが襲って来ようとも盤石だな」
さらに歓声が上がる。アーロンテイシアは冷たい笑みを浮かべる。
「デスゴン、此度はわれの勝ちだな。次の依童を見つけるまで大人しく朽ちておれ!」
アーロンテイシアが言うと、頭上の石が小刻みに震え始めた。
……民たちは興奮しているようだ。そして、アーロンテイシアも…… ジャンセンは意を決したような表情で宙のジェシルを見上げ、メガホンのように両手を口元に当てた。
「ジェシル! 歴史を変えるな!」
ジャンセンが大声で言い放ったのと、アーロンテイシアの右腕を振り下ろされるのとが同時だった。石はデスゴンの仮面目がけて飛んだ。
つづく
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