「今日は休憩と決めたから、色々とやっておかなくちゃね」ナナが決然と言う。「まずは、お風呂の前に買い物ね」
「この時代でも買い物に行くの?」アツコが不思議そうに言う。「コンピュータに注文を打ち込めば、すぐに品物が届くようになっていると思ったわ」
「それはお話の世界よ」ナナが笑う。「それか、もっと将来の話ね」
「思ったより進んでいないのねぇ……」
「と言うより、買い物ってやっぱり現物を見て買わないと、下手したら失敗するじゃない?」
「わたしの時代にもカタログ販売ってあるけど」逸子も加わる。「明らかにカタログと違うってのもあるわね。友人の話だけど、とっても素敵な服を、個人で『売ります』なんて写真付きで出品していて、いざそれを購入してみると、人形の着せ替えの服だったって事があったわ。大写しにされたら分からないものよね」
「そうよね、写真とかじゃ、騙されるかもしれない」ナナもうなずく。「だから、現物を見て買い物するのよ」
「何を買うのよ?」アツコが言う。「食べ物とか?」
「そうね、それは絶対ね。それと……」ナナは言って、皆を見回す。「……いつまでもつなぎってわけには行かないじゃない? 服も買わなきゃいけないわ」
「そうよね……」アツコがしみじみとした様子で言う。「『ブラックタイマー』、もう無いんだもんね……」
「そう言う事ね」ナナは言うとタケルを見た。「タケルも付き合ってね。男性陣の服も買うんだから」
「分かったよ」タケルは言い、気が付いたようにタロウを見た。「そうだ、タロウさんも一緒に行かない? 後学のためにさ」
「はい、こちらからお願いしたいくらいです!」タロウがはきはきと言う。「未来の物には興味がありますからね、ぜひお願いします!」
「タケル、本当は荷物持ちの手伝いをさせる気でしょ?」ナナが意地悪っぽく言う。「見え見えよ」
「ははは…… そんな事…… あるんだよねぇ。……それでも良いかい、タロウさん?」
「ボクはアツコの荷物持ちで鍛えられていますから、ちょっとやそっとの荷物は平気です」
「お互い、強い幼なじみを持つと苦労するよねぇ……」
タケルが両手を大きく広げながら言うと、タロウはうなずきながら笑った。
「それじゃ、行きましょう」ナナが言い、チトセを見る。「チトセちゃんも一緒にね」
「え? オレ……」
チトセは不安そうな顔でコーイチを見上げる。
「大丈夫だよ。チトセちゃんは、きっとすぐにこの環境になじめるよ」コーイチは優しい笑顔でうなずいて見せた。「行っておいで」
「……分かった」チトセも笑顔になって、コーイチの腕を離した。「コーイチがそう言うんなら、行ってくる」
「……それで、ボクは?」コーイチは改めてナナを見て言う。「荷物持ちで行こうか? ボクも逸子さんで慣れているし」
「いえ、コーイチさんは、お兄さんとの久しぶりの再会だから、話でもしていて」ナナは言う。逸子もうなずいている。「すぐに帰ってくる予定だから、お留守番をお願いしますね」
コーイチとケーイチを残して、皆は出掛けて行った。急にしんとなった。
「……で、兄さんは何の研究をしているんだい?」
コーイチは言う。聞いても半分の半分の半分の半分も理解できないが、他に聞くことも無い。元気かどうかは見れば分かるし、アツコやタロウやチトセを見ても別段気にしていないケーイチに、今までの出来事を語ったとしても「ほー、そーかね」と、いつものように返されるだけだ。ならば、ケーイチの関心事でも聞いた方が話が続く。
「もちろん、タイムマシンに関してだ」ケーイチはにやりとしながら言う。「何しろ、ここはトキタニ博士の研究室だ。オレが、以前からあったらいいなあと思っていた道具やら装置やら資料やらが山ほどそろっている。おかげで、オレの研究がはかどる、はかどる」
「そりゃあ、良かったね」
「ああ、それは良かったのだが……」ケーイチの表情が曇った。「そう、研究がはかどるのは良かったのだが……」
「何か問題でもあったのかい?」
「いや、まだ確実ではないんだがな、どうにも気になることを発見してな……」
「どんなこと…… って、ボクが聞いてもわからないか……」
「いや、オレ自身もまだ確信が持てないのだよ。いわゆる、発表段階じゃないんだ。もう少し研究をしなければならない。……と言うわけで、オレはもう少し研究をする。だから、なんて言ったっけ、そう、支持者の件の手伝いは出来ないと思う」
「そうなんだ。……でも、大丈夫だと思うよ。みんな力強い人ばかりだから」
「それなら安心だな。……それで、コーイチ、お前はどうなんだ?」
「ボク?」コーイチは答えに窮した。良く考えたら、自分自身は、今の仲間の中では何も出来ない唯一の人間だからだ。「う~ん、そうだなあ。……ぼくはみんなの邪魔にならないように頑張るよ」
「そうか、それはそれで大変な事だ」ケーイチは納得したのか、何度もうなずいた。「己を知り全力を尽くす、立派な心掛けだ。頑張るのだぞ!」
妙な励ましを受けて、コーイチは苦笑するしかなかった。
つづく
「この時代でも買い物に行くの?」アツコが不思議そうに言う。「コンピュータに注文を打ち込めば、すぐに品物が届くようになっていると思ったわ」
「それはお話の世界よ」ナナが笑う。「それか、もっと将来の話ね」
「思ったより進んでいないのねぇ……」
「と言うより、買い物ってやっぱり現物を見て買わないと、下手したら失敗するじゃない?」
「わたしの時代にもカタログ販売ってあるけど」逸子も加わる。「明らかにカタログと違うってのもあるわね。友人の話だけど、とっても素敵な服を、個人で『売ります』なんて写真付きで出品していて、いざそれを購入してみると、人形の着せ替えの服だったって事があったわ。大写しにされたら分からないものよね」
「そうよね、写真とかじゃ、騙されるかもしれない」ナナもうなずく。「だから、現物を見て買い物するのよ」
「何を買うのよ?」アツコが言う。「食べ物とか?」
「そうね、それは絶対ね。それと……」ナナは言って、皆を見回す。「……いつまでもつなぎってわけには行かないじゃない? 服も買わなきゃいけないわ」
「そうよね……」アツコがしみじみとした様子で言う。「『ブラックタイマー』、もう無いんだもんね……」
「そう言う事ね」ナナは言うとタケルを見た。「タケルも付き合ってね。男性陣の服も買うんだから」
「分かったよ」タケルは言い、気が付いたようにタロウを見た。「そうだ、タロウさんも一緒に行かない? 後学のためにさ」
「はい、こちらからお願いしたいくらいです!」タロウがはきはきと言う。「未来の物には興味がありますからね、ぜひお願いします!」
「タケル、本当は荷物持ちの手伝いをさせる気でしょ?」ナナが意地悪っぽく言う。「見え見えよ」
「ははは…… そんな事…… あるんだよねぇ。……それでも良いかい、タロウさん?」
「ボクはアツコの荷物持ちで鍛えられていますから、ちょっとやそっとの荷物は平気です」
「お互い、強い幼なじみを持つと苦労するよねぇ……」
タケルが両手を大きく広げながら言うと、タロウはうなずきながら笑った。
「それじゃ、行きましょう」ナナが言い、チトセを見る。「チトセちゃんも一緒にね」
「え? オレ……」
チトセは不安そうな顔でコーイチを見上げる。
「大丈夫だよ。チトセちゃんは、きっとすぐにこの環境になじめるよ」コーイチは優しい笑顔でうなずいて見せた。「行っておいで」
「……分かった」チトセも笑顔になって、コーイチの腕を離した。「コーイチがそう言うんなら、行ってくる」
「……それで、ボクは?」コーイチは改めてナナを見て言う。「荷物持ちで行こうか? ボクも逸子さんで慣れているし」
「いえ、コーイチさんは、お兄さんとの久しぶりの再会だから、話でもしていて」ナナは言う。逸子もうなずいている。「すぐに帰ってくる予定だから、お留守番をお願いしますね」
コーイチとケーイチを残して、皆は出掛けて行った。急にしんとなった。
「……で、兄さんは何の研究をしているんだい?」
コーイチは言う。聞いても半分の半分の半分の半分も理解できないが、他に聞くことも無い。元気かどうかは見れば分かるし、アツコやタロウやチトセを見ても別段気にしていないケーイチに、今までの出来事を語ったとしても「ほー、そーかね」と、いつものように返されるだけだ。ならば、ケーイチの関心事でも聞いた方が話が続く。
「もちろん、タイムマシンに関してだ」ケーイチはにやりとしながら言う。「何しろ、ここはトキタニ博士の研究室だ。オレが、以前からあったらいいなあと思っていた道具やら装置やら資料やらが山ほどそろっている。おかげで、オレの研究がはかどる、はかどる」
「そりゃあ、良かったね」
「ああ、それは良かったのだが……」ケーイチの表情が曇った。「そう、研究がはかどるのは良かったのだが……」
「何か問題でもあったのかい?」
「いや、まだ確実ではないんだがな、どうにも気になることを発見してな……」
「どんなこと…… って、ボクが聞いてもわからないか……」
「いや、オレ自身もまだ確信が持てないのだよ。いわゆる、発表段階じゃないんだ。もう少し研究をしなければならない。……と言うわけで、オレはもう少し研究をする。だから、なんて言ったっけ、そう、支持者の件の手伝いは出来ないと思う」
「そうなんだ。……でも、大丈夫だと思うよ。みんな力強い人ばかりだから」
「それなら安心だな。……それで、コーイチ、お前はどうなんだ?」
「ボク?」コーイチは答えに窮した。良く考えたら、自分自身は、今の仲間の中では何も出来ない唯一の人間だからだ。「う~ん、そうだなあ。……ぼくはみんなの邪魔にならないように頑張るよ」
「そうか、それはそれで大変な事だ」ケーイチは納得したのか、何度もうなずいた。「己を知り全力を尽くす、立派な心掛けだ。頑張るのだぞ!」
妙な励ましを受けて、コーイチは苦笑するしかなかった。
つづく
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