葉子は息を呑んだまま口が閉まらなかった。『斬鬼丸』から大きく見開いた目を逸らす事が出来なかった。からだ全体がしびれた様に動かなくなっているのに、小刻みに震えだすのが分かった。手足の先が氷のように冷たくなって行くのが実感された。あいつらの顔と禍々しい妖魔の姿とが頭の中で渦を巻いている。からだが支えをなくして傾いた。
「どうしたの?」様子の変化を心配した由紀が、葉子の肩を支える。「しっかりして! 顔が真っ青よ!」
「大丈夫?」キッチンで自分のハンカチを湿らせて戻って来た真弓は、葉子の額に浮き上がった汗にハンカチを当てる。「横になったらいいんじゃない?」
「・・・あ、ううん・・・」葉子はうなった。震える指を『斬鬼丸』に向かって伸ばした。「そ、それぇ・・・」
「敦子、その木の棒がいけないみたいよ!」おろおろしている敦子に由紀が言った。「葉子の目につかない様にして!」
「・・・うん、分かった」敦子は『斬鬼丸』を空のコンビニの袋に投げ入れ、何重にも袋を丸めた。「これでいいかなあ?」
「あなた持って帰ってどこかで捨てちゃって!」由紀が丸められた袋を見て、敦子に言った。敦子は自分のバッグにしまい込む。「・・・さ、もうあの棒はなくなったわよ。もう平気よ」
由紀は優しい笑顔を葉子に向ける。真弓は再び湿らせたハンカチを頬にあてがってくれる。敦子は恐縮したように下を向いている。『斬鬼丸』が視界から消えると葉子のからだが楽になり、意識がしっかりとしてきた。
「・・・ありがとう、もう、大丈夫。平気よ・・・」
葉子は三人に笑顔を見せた。由紀が肩を離した。真弓がハンカチをテーブルの上に置いた。
「敦子・・・」葉子は言って、申し訳なさそうな表情を一杯に湛えている敦子を見た。「いいの、気にしないで。あなたは頼まれただけだもの」
「ごめんね。そんなにイヤなものとは思わなかった・・・」敦子はまだうなだれている。「あの娘、葉子に悪意を持っているように見えなかったから・・・」
「いいの、気にしないで!」葉子は努めて明るい声を出した。「もうすっかり平気よ!」
由紀がビールを注いだグラスを敦子の目の前に突き出した。敦子は驚いてグラスと由紀とを見比べた。
「申し訳ないと思ったら、これを一気飲みすることね」由紀がにやりと笑い、それから葉子に言った。「こんなもんで許してやってね」
葉子は笑顔で頷いた。敦子はグラスを受け取ると、一気に飲み干した。
「ぷは~っ!」敦子がグラスを持った右手の甲で唇に付いた泡をぬぐう。そして、空のグラスを由紀に向かって突き出した。「もっと許しを貰っちゃおうかな」
笑いが起こった。・・・ああ、なんて良い友達かしら。葉子は三人を見た。・・・この三人になら、話せるかもしれない。
「あのね・・・」葉子は話し出した。「さっきの事なんだけど・・・」
「いいのよ、話さないくても」由紀が言って葉子の唇を右の人差し指で押さえる。「何かある事は分かるけど、あれを片付けたら元気になったじゃない? だから、あれはいらないものなのよ。わたし達が責任を持って処分しておくわ。それに、葉子に何かあったら、わたし達、黙っちゃいないから!」
「そうそう、気にしない、気にしない」真弓がにっこりと笑顔を作リ、グラスを葉子にすすめる。「なんともないんなら、ぐっと飲んじゃって!」
葉子はグラスを持ち、ビールを流し込んだ。空腹にビールが沁みた。
三人は嬉しそうに拍手をする。・・・そう、もういいんだわ。これであいつらともすっかりお別れだわ。
「おかわりちょうだい!」葉子はグラスをテーブルに置いた。「今日のイヤな事を全部忘れたいわ!」
「そうそう、それがいいわ」真弓がビールを注ぎながら言った。「わたしも付き合うわ」
「ちょっとぉ、これなあにぃ?」
寝室から酔った敦子の声がした。
「あら、いつの間にあんなになるほど飲んだのかしら?」
由紀が困ったような顔を葉子に向けた。真弓はグラスを持ったまま微笑んでいる。
ドアが勢いよ開けられた。
「これって、葉子のぉ?」
とろんとした眼差しの敦子は肩に一枚、黒い布を掛け、手に一枚、黒い布を持っていた。手にした布を両手で左右に拡げた。
「あっ!」
葉子は真っ赤になって下を向いた。
干してあったTバックのパンティだった。
つづく
著者自註
勝手に「妖魔始末人 朧 妖介」主題歌にした堂本光一さんですが、ついにソロコンが終わってしまいましたね。おかげさまで三回観に行くことが出来ました。楽しくて、考え抜かれたステージでした。声もミラコンの時より出てるんじゃないかなあなんて思いました。相変わらずダンスも見事でしたね。グループでは踊らないんでしょうかねえ。グループと言えば、年末年始にコンサートがあるとか。でも、来年もソロコンがあると言う方が大きなニュースですよね。ファンとしては当然ソロコンに全力でしょうね。応援しています。
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「どうしたの?」様子の変化を心配した由紀が、葉子の肩を支える。「しっかりして! 顔が真っ青よ!」
「大丈夫?」キッチンで自分のハンカチを湿らせて戻って来た真弓は、葉子の額に浮き上がった汗にハンカチを当てる。「横になったらいいんじゃない?」
「・・・あ、ううん・・・」葉子はうなった。震える指を『斬鬼丸』に向かって伸ばした。「そ、それぇ・・・」
「敦子、その木の棒がいけないみたいよ!」おろおろしている敦子に由紀が言った。「葉子の目につかない様にして!」
「・・・うん、分かった」敦子は『斬鬼丸』を空のコンビニの袋に投げ入れ、何重にも袋を丸めた。「これでいいかなあ?」
「あなた持って帰ってどこかで捨てちゃって!」由紀が丸められた袋を見て、敦子に言った。敦子は自分のバッグにしまい込む。「・・・さ、もうあの棒はなくなったわよ。もう平気よ」
由紀は優しい笑顔を葉子に向ける。真弓は再び湿らせたハンカチを頬にあてがってくれる。敦子は恐縮したように下を向いている。『斬鬼丸』が視界から消えると葉子のからだが楽になり、意識がしっかりとしてきた。
「・・・ありがとう、もう、大丈夫。平気よ・・・」
葉子は三人に笑顔を見せた。由紀が肩を離した。真弓がハンカチをテーブルの上に置いた。
「敦子・・・」葉子は言って、申し訳なさそうな表情を一杯に湛えている敦子を見た。「いいの、気にしないで。あなたは頼まれただけだもの」
「ごめんね。そんなにイヤなものとは思わなかった・・・」敦子はまだうなだれている。「あの娘、葉子に悪意を持っているように見えなかったから・・・」
「いいの、気にしないで!」葉子は努めて明るい声を出した。「もうすっかり平気よ!」
由紀がビールを注いだグラスを敦子の目の前に突き出した。敦子は驚いてグラスと由紀とを見比べた。
「申し訳ないと思ったら、これを一気飲みすることね」由紀がにやりと笑い、それから葉子に言った。「こんなもんで許してやってね」
葉子は笑顔で頷いた。敦子はグラスを受け取ると、一気に飲み干した。
「ぷは~っ!」敦子がグラスを持った右手の甲で唇に付いた泡をぬぐう。そして、空のグラスを由紀に向かって突き出した。「もっと許しを貰っちゃおうかな」
笑いが起こった。・・・ああ、なんて良い友達かしら。葉子は三人を見た。・・・この三人になら、話せるかもしれない。
「あのね・・・」葉子は話し出した。「さっきの事なんだけど・・・」
「いいのよ、話さないくても」由紀が言って葉子の唇を右の人差し指で押さえる。「何かある事は分かるけど、あれを片付けたら元気になったじゃない? だから、あれはいらないものなのよ。わたし達が責任を持って処分しておくわ。それに、葉子に何かあったら、わたし達、黙っちゃいないから!」
「そうそう、気にしない、気にしない」真弓がにっこりと笑顔を作リ、グラスを葉子にすすめる。「なんともないんなら、ぐっと飲んじゃって!」
葉子はグラスを持ち、ビールを流し込んだ。空腹にビールが沁みた。
三人は嬉しそうに拍手をする。・・・そう、もういいんだわ。これであいつらともすっかりお別れだわ。
「おかわりちょうだい!」葉子はグラスをテーブルに置いた。「今日のイヤな事を全部忘れたいわ!」
「そうそう、それがいいわ」真弓がビールを注ぎながら言った。「わたしも付き合うわ」
「ちょっとぉ、これなあにぃ?」
寝室から酔った敦子の声がした。
「あら、いつの間にあんなになるほど飲んだのかしら?」
由紀が困ったような顔を葉子に向けた。真弓はグラスを持ったまま微笑んでいる。
ドアが勢いよ開けられた。
「これって、葉子のぉ?」
とろんとした眼差しの敦子は肩に一枚、黒い布を掛け、手に一枚、黒い布を持っていた。手にした布を両手で左右に拡げた。
「あっ!」
葉子は真っ赤になって下を向いた。
干してあったTバックのパンティだった。
つづく
著者自註
勝手に「妖魔始末人 朧 妖介」主題歌にした堂本光一さんですが、ついにソロコンが終わってしまいましたね。おかげさまで三回観に行くことが出来ました。楽しくて、考え抜かれたステージでした。声もミラコンの時より出てるんじゃないかなあなんて思いました。相変わらずダンスも見事でしたね。グループでは踊らないんでしょうかねえ。グループと言えば、年末年始にコンサートがあるとか。でも、来年もソロコンがあると言う方が大きなニュースですよね。ファンとしては当然ソロコンに全力でしょうね。応援しています。
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