母親の施設から印鑑を求められる用事ができて伊勢原の田園地帯へ出かける。台風11号が北上してきているニュースを眺めていた。そこでいつも使うバイクはやめることにした。にわか雨の中をバイクで走る片道10数キロはとてもしんどいものがある。まだ雨は降っていないから座間駅までのほんの数分をバイクにして電車、バスを乗り継いで母親の施設へと向かうことになった。
バイク置き場に覆いかぶさっている公孫樹の大木を仰ぎ見るのは日課みたいになっている。繁る葉っぱの陰に沢山の銀杏の実が垂れているが、やはり立秋を境にしてその実の色具合は青緑から黄色へと諧調を微細に変えている。施設はとても便が悪い所にある。しかしそこへ行くのは嫌いではない。在来の農地の際を彩っているそれぞれに叶った季節の花を見るのがいつも楽しみだ。半端に都市化している座間付近よりも伊勢原の郊外は未だ自然が奔放でその色彩は濃厚だ。1時間に二本というダイヤのバスに乗った甲斐もあって施設へ向かう露地は真夏のさなかだ。
百合や向日葵の勢いを感じる大きな農家の庭先を通り過ぎるときにパン販売の看板を見かける。手造り風看板の活字ロゴ体に好感を覚える。幸運にも月に一度の土曜日オープンに巡りあわせたみたいだ。座間にある「池久」、湯河原の山沿いにある「和っしょい」、この「ボナペッテイ」もそうだが本格的個人技能が発揮しやすい分野がパン屋さんなのだろうか。鄙びた立地にあってとても採算ベースには乗っているとも思えないが趣味の延長で味を極めようという楽しさに小さな喜捨で加担することにする。
ちょうど母親のおやつにも向いているマドレーヌ風や一口サイズの調理パンを3個500円くらいで購入することになった。味は前記二店が麦素材や発酵・焼き上げのプロセスを剛直に徹底探求しているパンの味に対して、こちらは若妻さんのやさしいおやつ味といったところで座間駅前にある「ポエム」という店のパン等で味わう食感にもどこか似ている。母親の昼食後にマドレーヌを食べさせてみた。美味い!美味い!を連呼している。年寄りと幼児の舌は正直だからきっとこのお店もシンパ層を序々に広げることになりそうだ。
施設の面談を終えてバスを待つ合間に秦野在にいるNさんへ久しぶりの電話をしてみる。Nさんは熱海付近の海岸で深夜の伊勢エビ釣りをしてきたがボウズだったらしい。ちょうど鶴巻温泉の「弘法の里湯」のサービス券があるから行かないか?と誘われる。待ち合わせして鶴巻温泉へ出向くが台風余波の情報統制も行き届いているのか?いつも混雑している温泉は長閑な様子だ。ぬるめな浴槽に浸かって、時々露天風呂にも浸かることを繰り返す。
Nさんへの温泉無料の返礼に近くの「コロラド」珈琲店で珈琲をおごる。こちらが最近食べた福島県田村市付近の桃の味を褒めたらNさんも同感する。Nさんは返す刀で秦野付近の枝豆の不味さを罵倒している。元全共闘で今は世捨て人の飲んだくれという風情のNさんだが、日頃交わっている秦野付近の百姓さんが「農」を自棄して形骸化した農作物しか作っていないことに腹を立てているみたいで、こちらはよき聴き手として格好のガス抜き相手になっている。Nさんは伊東にある敷地を処分してもっと近くの湯河原付近を終の棲家にしたいと画策している様子だ。それが実現したら泊めてくれと冗談を言ったら、一年に亘るような居候は困るが一カ月くらいならいつでもいいよ!と気の良い坊ちゃん気質で応じてくれるところがNさんらしい持ち味である。
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