仕事帰り、嫁さんと二人でぼくの実家に行った。駐車場に車を駐めている時、黒い人影が見えた。影は二つだった。
車を駐め実家に向かって歩いていると、左手にある自転車置き場から声が聞こえた。見てみると、そこに中学生らしき男が二人立っていた。どうやら先ほどの影の主らしい。彼らはぼくたちのことに気がついたのか、何かちぐはぐな動きをしだした。
どうも怪しい。最近、実家付近では、中学生を中心としたグループでの自転車泥棒が増えているというのだ。もしかしたら、その仲間かもしれない。そこでぼくは、わざとその前をゆっくり歩き、じっと顔を見てやった。
彼らは顔を背け、下を向いた。そして、一人が小声で「どうするか?」と聞いた。するともう一人が「ああ」と気のない返事をしている。ぼくは「何をどうするんだ?」と思ったが、変に近寄って聞き耳を立てると逆にこちらが怪しまれる。
ということで、そのままそこを通り過ぎた。だが、どうも気になる。ぼくは立ち止まり、もう一度彼らのほうを見た。自転車に手がかかっているじゃないか。嫁さんに、「おい、警察呼ぼうか?」と彼らに聞こえるくらいの声で言ってみた。だが、彼らは動じないみたいで、鍵を触っている。
ちょっと頭に来たぼくは、駐車場に用があるようなふりをして、もう一度彼らの前を通ってみた。彼らは自転車の鍵を開け、自転車に乗っている。そして「ドンキに行こう」と言って、そのまま二人とも去っていった。
その後実家に行ってテレビを見ていたから、そのことは忘れていたのだが、ふとその心の片隅に何か疑惑のような感情があることに気がついた。
「そうだ、自転車だ」
そこで、そのときのことをいちいち思い出しながら、検証してみることにした。鍵の開け方は手慣れたものだったから、本人たちの自転車なのかもしれない。それに今時の中学生なのだから、夜外に出てうそうそしていても何の不思議もない。ということで、自転車泥棒というのは、きっとぼくの勘違いなのだろう。
しかし、何か吹っ切れないものがある。それは、うそうそする場所が悪いということだ。これが道ばたですれ違うとか、コンビニなどにたむろしているのなら別にぼくも怪しく思わなかっただろう。
問題は、その場所が自転車置き場だったということだ。元々自転車泥棒が増えているという情報があるから、見知らぬ人がそこにいれば誰でも怪しむだろう。その自転車泥棒が中学生を中心としたグループだと聞けば、なおさらである。
さらに彼らはぼくたちを見て、落ち着きをなくしたように見えた。これはもう疑うしかないだろう。先入観で、あることを見ると、どうしてもそういう風に見えてくるから不思議である。
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