その頃にはすでに共産党からは脱退していて、選挙のたびに立候補する共産党員を見ては、「あんな奴は、本物の共産主義者じゃない」と言ってけなしていた。
もはやその頃には、伯父の家には赤旗新聞は置いてなかった。代わりに家にあったのは、なぜか読売新聞だった。
ある時、伯父は突然「腹が張る」と言い出し、それからまもなくして亡くなった。
‘92年1月のことだった。ソ連が崩壊したのが、その1ヶ月前のことだったのだが、もしかしたら伯父の死は、それに気落ちしての死だったかもしれない。
その前年、「しんた、何か本を貸せ」と言って、うちに来たことがある。興味深くぼくの書棚を見ていたが、ある本に伯父の目が釘付けになった。歴史物が多くあるぼくの書棚だが、伯父が選んだのはそういう本ではなかった。
その本は、道元の『正法眼蔵』だった。
「これ貸してくれ」
「ああ、いいよ」
ということで貸したものの、その本はいつまで経っても返ってこなかった。
そこで伯父が亡くなった後、伯母に
「おいちゃんに『正法眼蔵』貸しとったんやけど、あれどこにある?」と聞いてみた。が、伯母は
「え、そんな本読んでたかねえ。見たことないよ」と言う。
伯父の書棚を探しても、その本は出てこなかった。
もしかしたら、あの世に持って行ったのではないだろうか。そうであれば、唯物論の共産主義崇拝者が最後に選んだ本は、唯心論の仏教書だったということになる。
共産主義は、魂を救ってくれなかったのだろう。
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