その拓郎さんのコンサート、一度だけぼくはタダで入ったことがある。
三十代のころ、ぼくは会社でCD部門の担当をしていた。ある時、フォーライフレコードを扱っている取引先の人が、ぼくが拓郎さんのファンだということを知って招待してくれた。
担当はKさんという人だった。せっかちな性格のKさんは、その招待話をぼくにしてから、すぐに具体的な打ち合わせをはじめた。
「えーと、開場は何時だったかなあ。ああ、6時だ6時。その時間に入口付近にフォーライフ関係の人がいるはずですから、その人に言ってぼくを呼んで下さい。すぐにそちらに行きますから。6時ですからね」
「わかりました。6時に入口ですね。それとお願いなんですが、招待は一人しかだめなんかねえ。もう一人熱烈なファンがおるんやけど…」
「かまいませんよ。特別席だから少しは空きがあると思いますから」
と、ぼくは同じく拓郎ファンである取引先の人間を連れて行くことにした。
拓郎さんのコンサートに行ける、それもタダで。それだけでぼくは充分だったのだが、Kさんはさらに、
「ああ、その日はしんたさんにビッグなプレゼントがあるんですよ」
「プレゼント?」
「ええ、実はここだけの話なんですけど、コンサートの終了後に、拓郎さんのレセプションがあるんですよ。そちらのほうにもしんたさんを招待することになっています。ふだんはレコード業界とかマスコミ関係の人しか入れないことになってますから、これはビッグですよ」
「ええっ!?そうなんですか」
「はい、もう拓郎さんにも、しんたさんのことは伝えていますから」
拓郎のファンになってから十数年の時が過ぎていたが、本人をコンサート以外で見たことはない。そういうことだから、もちろん話もしたこともない。ぼくは「こんな感動的なことはない」と、コンサートの日を指折り数えて待ったものだった。
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