8月23日、その日休みだったぼくは野暮用で、朝から会社に来ていた。
午前11時に、ようやく野暮用が終わり家に帰ろうとした。その時だった。一人の品のいい年配の男の人が「店長さんいますか」と言って、事務所に入ってきた。ぼくは店内放送で店長を呼んだ。
店長とその男性は、倉庫でしばらく話をしていたが、「その件は私は知りません」と言う店長の声が聞こえた。そして店長は「しんた君」とぼくを呼んだ。
「1月に屋上で人が倒れとった話を知っとるかねえ」
「ああ、知ってますよ」
「誰が担当したんかねえ」
「一応、第一発見者は、ぼくということになっていますけど」
「ちょうどよかった。この方が話があるらしいよ」
そう言って店長はその場を離れた。
この店長は最近転勤してきたばかりで、そんな事件があったことは知らない。
さっそくその男性は、ぼくに名刺を見せた。名刺に書いてある社名では、その仕事の内容がわからなかったが、その男性の説明で興信所みたいな会社だということがわかった。その人は、あの時倒れていたおっさんの調査をしにきたのだ。
その人が調査を始める前に、ぼくは
「あの人どうなったんですか?」と尋ねた。
「救急車で病院に運ばれた後、しばらく意識があったんですが、その後意識がなくなって、植物状態になりました。そして先々月、6月に急性肺炎で亡くなりました」
「ああ、亡くなったんですか」
調査が始まった。
「そのときの状況を教えて下さい。まず、倒れていたのはどこですか?」
「こちらです」と言って、ぼくは屋上までその人を連れて行った。
「どこに血が流れていたのですか?」
「この辺一帯です」
「小便をしていたらしいですね?」
「それはこの壁です」
「吐いた跡もあったとか」
「えっ、吐いた跡?あったかなぁ・・」
「お酒を飲んでなかったですか?」
「すいません、よく憶えてないです」
彼は20分ほどぼくに質問して、帰って行った。
「あ、そうだった!」
興信所の人が帰った後、ぼくは、あの時の状況を日記(ブログ)に書いていたのを思い出した。
日記を開いてみると、おっさんは酒気帯び運転で店まで来ていたと書いている。あいまいな受け答えをするよりも、その日記を見せてやればよかった。
しかし、何で興信所の人が来たのだろう?どこかに依頼されたので調べていたのだと思うのだが、依頼主をその人は明かさなかった。もしかして、あの事故は、最初の推理通り事件だったのか。いや、それなら興信所ではなく、刑事が来るはずだ。ということは、保険会社からの依頼されたのか。
そういえば、あの事故の後、前の店長が
おっさんには一人娘がいると言っていた。なんでも、おっさんとその娘は仲が悪く、絶縁状態なんだとか。
「警察が身元を確認のために娘を呼んだら、『そんな人知りません!』と言って行くのを拒んだらしいよ」(前の店長談)
やはり、保険会社からの依頼なんだろうな。父親であるおっさんが死んだので、保険金を請求したのだろう。それで保険会社は、興信所に事故の模様を調べさせた。興信所の人が、ぼくに飲酒のことを聞いてきたのも、そういう理由があったからだと思う。それに早く気づいていたら、「おっさんは泥酔状態で運転して来ましたよ」と、言ってやればよかった。
しかし、生きている時は知らない人、死んだら父親って。世知辛い世の中である。
最新の画像もっと見る
最近の「過去の日記」カテゴリーもっと見る
最近の記事
カテゴリー
- 日記(499)
- もう一つの日記(1)
- ぶるうす(55)
- 思い出(4)
- 過去の日記(161)
- 言葉をつま弾く(6)
- 詩風録(6)
- 街風景(0)
- 夢見録(0)
- 吟遊(0)
- 生活(0)
- 事件簿(0)
- 飲食ネタ(0)
- 頑張る40代!(0)
- 健康一番(0)
- 備忘録(0)
- ローカルな話(1)
- 聴き歩き(0)
- スポーツ(0)
- 仕事の話(0)
- HP・PC・携帯(0)
- 想い出の扉(0)
- 中学時代(0)
- 高校時代(0)
- 浪人時代(0)
- 東京時代(0)
- 旅行記(0)
- 吹く風録(0)
- 筋向かいの人たち(0)
- 嫁ブー(0)
- ヒロミちゃん(0)
- 甘栗ちゃん(0)
- タマコ(0)
- 酔っ払いブギ(16)
- 歌のおにいさん(0)
- たまに人生を語る(0)
- 延命十句観音経霊験記(0)
- 霊異記(0)
- 携帯写真館(0)
- 本・読書(0)
- 歳時記(0)
- テレビ・芸能(0)
- 動物録(1)
- 時事・歴史(0)
- がらけろく(0)
- しゃめがら(0)
- 自戒(0)
- モノラル(0)
- 入院日記(0)
- リライト(1)
- 履歴書(0)
バックナンバー
2003年
人気記事