「雪は残り花は遅れていた
しかし彼らは知り尽くしていた
ひとつの旅が終わったことを
みんなどこでもいいから吹き飛びたいと言った
というのも彼らの行くところはなかったから
ひとつの旅が終わった時に
薄暗い空から、雨も降り始めていた
でもちょっと見回すと 晴れ間も見えていた
誰かが死んでもいいと言った
でももう死ぬところもないだろう
ひとつの旅が終わっているから
何かひとつ元気が欠けた
大人たちは喜んだ
ひとつの旅が終わっていた
薄暗い空から、雨も降り始めていた
でもちょっと見回すと 晴れ間も見えていた
雪は残り花は遅れていた
しかし彼らは知り尽くしていた
ひとつの旅が終わったことを」
この詩は昭和51年3月1日に書いたものだから、もう26年(当時)が経つ。
この年この日にぼくは高校を卒業したのだ。
ぼくは卒業式の最中、体育館の窓からずっと空を見ていた。その日は小雨のぱらつく曇天の日だった。たまに雲の隙間から日が差し込むのだが、何か気の落ち着かない時間だった。
うっすらと希望は見えているのだが、不安のほうが重くのしかかっていた。そういう気持ちを表すのにもってこいの天候だった。この日からぼくは、学生でもなく、社会人でもない生活を5年間強いられることになる。
誰しも過去を振り返る時、真っ先に思い起こす時代というものがある。ぼくの場合、それは19歳前後である。
その19歳前後の思い出というのは、「あの日、ハエを何匹殺した」とか「あの日、石炭と間違えて猫のうんこを掴んだ」などという出来事だけでなく、その時その時の考え、いや気分まではっきりと覚えている。
「心はいまだにその時代に住み着いているのかもしれない」、
と思えるほどだ。
今の自分は、19歳の心が経験という服を着ているだけではないのだろうか。落ち着きのなさも、物事に対する雑さも、ほとんど19歳の頃と変わってないような気がする。
よく「しんたさんは頭が白いわりには若いね」とか「とても44歳には見えない」などと言われるが、それはぼくがまだ19歳であるからだ。
そう考えれば、その後ぼくがやらかしたこと、すべてが納得できる。
会社のお偉いさんが朝礼でお言葉をたれている最中に、「異議あり!」と反論して左遷の憂き目にあったことも、19歳であるからだ。
11年勤めた会社を考えもなしに突然辞めたことも、19歳であるからだ。
金遣いが荒いのも、いまだいたずら好きであるのも、19歳と思えばすべて納得がいく。
いまだにうっすらと希望は見えているのだが、不安のほうが重くのしかかっているというのも、ぼくがまだ19歳であるからだ。
しかし、どうして19歳なんだろう。よりによって、今まで生きてきた中で一番辛かった時期を思い起こさなくてもよさそうなものなのに。例えば、一番楽しかった17歳の頃とか思い浮かべてもよさそうなものである。
もしかしたら、ぼくにとって高校時代というのは「明治維新以前」つまり「プレ近代」だったのかもしれない。だから何か浮世離れしていたのだろうな。
そう考えると、今に直接つながる時代というのは、「維新以降」、つまり19歳以降ということになる。
では、「維新」というのはあったのだろうか?
ぼくはそれを高校の卒業式だと捉えている。「卒業式の最中、体育館の窓からずっと空を見ていた」ことこそが、ぼくにとっての「維新」だったのだ。
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