吹く風ネット

珍事

 久しぶりに新聞でほほえましい記事を見た。地元で起こった珍事だ。てっきりローカルニュースだと思っていたら、毎日新聞の関西版あたりにも載っていたというから、おそらく全国版にも載っていたのかもしれない。

 いちおうこの珍事を紹介しておくと──

昨日、福岡県椎田町にある椎田中学体育館の落成式に、数学者の秋山仁氏の講演を予定していた。
ところが実際に来たのは、同じ秋山でも、野球評論家の秋山幸二氏だった。

昨年の2月に秋山仁氏の講演を聴いた校長が感動し、「ぜひ落成式に」と今年の5月、県に仲介を頼んだ。
ところが、県が紹介したのが、運悪く地元放送局スポーツ部の宣伝部長だった。
宣伝部長にしたら、秋山といえばもちろん野球の秋山である。

校長「秋山(仁)先生の講演をお願いします」
宣伝部長「はい、秋山(幸二)先生ですね。了解しました」
おそらくこういうやりとりがあったのだろう。

その後、学校側は秋山仁氏の講演に向けて準備をし、宣伝部長は秋山幸二氏の講演に向けて準備をした。
当日、体育館に「講師 秋山仁」と大書された垂れ幕が下がり、挨拶した町長も「秋山先生のお話をよく聞くように」と生徒を諭していた。
秋山先生の乗った車が到着した。
学校側は最敬礼で秋山先生を出迎えた。
車のドアが開き顔を上げると、そこには秋山仁ではなく秋山幸二がいた。
一瞬誰もが目を疑っただろう。

教頭は真っ青な顔をして「大変なことになりました」と校長に耳打ちしたという。
校長は事態がつかめないまま控室に走り、秋山幸二氏に謝罪し、代打講演を依頼した。

一番驚いたのは、秋山仁氏の登場を待つ生徒達だった。
おそらく、大半の生徒は「数学者の話なんかつまらん」と思っていただろう。
社会人であるぼくでもそう思う。
ところが、壇上に立ったのは昨年までダイエーホークスにいたスター選手。
生徒達は驚くと共に、大歓声で出迎えた。
講演後の質疑応答も、「小久保問題」などで大いに盛り上がったという。
校長は「大失態のはずが、結果は大ホームランでした」と胸をなで下ろしたという。


 ケガの功名的な事件である。きっと校長以外は、実に有意義な時間を過ごしたことだろう。生徒達にとっては、一生の思い出になるかもしれない。実にうらやましい話である。  (2003年11月22日付)


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20年前の今日、2003年11月21日に起きた事件です。ダイエーホークスとか、小久保問題とか懐かしい言葉が出てくる。(記事中に引用しているのは、新聞の記事からだが、どの新聞に載っていたのかは、定かではない。その当時西日本新聞を取っていたので、おそらくそこからの引用だったと思う)
 ちなみに小久保問題とは、その年の11月3日に起きた事件で、当時ホークスの主力だった小久保裕紀選手(現ソフトバンクホークス監督)を無償で巨人に放出したというものだった。その年の日本シリーズで阪神を下して日本一に輝いたのだが、その直後だったので、地元では大きなニュースになったのだった。真意のほどはいまだにわからないが、そこにはオーナー代行との確執があったと伝えられている。

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