秋の夜長、遅くまで起きていた。
せっかく夜更かししたんだから、いっちょう金縛りにでもあってやれと思いながら、布団に入る。
目を瞑って、ゆっくりと深呼吸をして、ラジオを消して…。
だけど、金縛りになんか、そうそうあうものではない。
思考が邪魔するのだ。
「あの頃はこうだった」「あっ、ああいうことがあった」と、昔のことばかり考えている。
耳が痒く、鼻の痛みは増すばかりだ。
もしかしたら、ぼくはもう終っているのかもしれない。
少しは狂ってもいるのだろう。
上は、高校を卒業した年(1976年)11月8日)の日記だ。この頃「金縛りにあおう」なんてバカなことを、ぼくは考えていたのだ。もしかしたら、金縛りにあうことに喜びを感じていたのかもしれない。
ところで、文中に『鼻の痛みは増すばかりだ』と書いているが、その年の秋のこと、変なことに気がついた。鼻の脂肪のことだ。
それまでぼくは、鼻を押さえたら脂肪が出てくるなんて知らなかった。10月のある日、何気なく鼻を触っていたら、ニョキニョキと何か白いものが無数に出てくるのに気がついた。
「えーと、これは何?」
それを見た時、ぼくはそれが何なのか、さっぱりわからなかった。ただ、それを見て思っていたことがある。
「これは虫だ!」
ニョキニョキと出てくるから、てっきり生き物だと思ったわけだ。ということで気味が悪くなり、その日からぼくは、鼻の虫(脂肪)の退治を始めたのだった。