サードウェイ(第三の道) ~白井信雄のサスティナブル・スタイル

地域の足もとから、持続可能な自立共生社会を目指して

環境新聞連載:「再生可能エネルギーと地域再生」より、22回目:みやま市の再生可能エネルギーと地域づくり(2)

2018年05月13日 | 再生可能エネルギーによる地域づくり

前回は、みやま市における行政によるメガソーラーの設置とHEMSの導入実験について記した。今回は、「みやまスマートエネルギー(株)」という新電力会社の設立をとりあげる。

 

●みやまスマートエネルギー(株)の概要

大規模HEMS情報基盤整備事業のみやま市での取組みを経て、みやまスマートエネルギー㈱が設立された。同社を立ち上げるために、パナソニックにいた経歴のある技術者や他スタッフが同社に参加した。

2014年3月、みまや市長はみやまスマートエネルギー㈱の設立を全市議会議員に説明し、合意を得た。市長は、「市内の「道の駅」の整備で成功した実績があり、ビジネスとして実施する新電力会社の設立に対して、市が出資することへの理解が得られやすかった」という。同社の概要を説明する。

(ア)     設立の趣旨としては、a.自治体が抱える課題を「水道、下水、電力、ガス、交通の分野の公共エネルギーサービス供給」により解決する、b.みやま市での取組みは、他の自治体への先導的な役割を担い、モデルケースになる、c.みやま市に新しいビジネスによる雇用を生み、経済を活性化させる、といった点が強調された。

(イ)     市内の太陽光発電を主要エネルギー源として、電力を地域で消費し、電力消費に係るキャッシュフローを地域内に取り込める仕組みを構築する。供給電力は2013年に設置したメガソーラーと住宅の太陽光発電の余剰電力である。

(ウ)     需要先としては、立ち上がり段階では、市内の主要な公共施設36施設と市内の工場など高圧契約需要家とし、次の段階で市民を対象に低圧小売りを開始する。また、余剰分の域外販売も行っていく。

(エ)     出資者は、みやま市が55%、筑邦銀行5%、九州スマートコミュニティ40%である。(*九州スマートコミュニティは現在社名を変更し「みやまパワーHD㈱」としているため以下は「みやまパワーHD」と記す)

 

●関係主体の役割分担

3者の役割を表に示す。みやまスマートエネルギー㈱の立ちあげ時には、みやまパワーHDに業務が委託されるが、徐々に同社が実業務を行う。

みやまスマートエネルギー㈱の当初の計画に対しては当時、電力改革システム等の制度がまだ不透明な部分も多いため、市役所の当時の市幹部は懸念を示すこともあったが、最後は市長が強く実施意向を示し、リーダーシップを発揮することで実現した。そして、その役割を担う部署として2014年8月にエネルギー政策推進室(2016年4月からエネルギー政策課)が設置された。

2,000万円の資本金の出資は、市が過半数持つように計画した。みやまパワーHD㈱はHEMSの事業に貢献していた。地域で70年〜80年続いている電気工事を行っていた店の経営者が同社の代表を務め、当初から計画づくりに参加していた。複数の企業や市民とのつながりにも強く、 HEMS機器や施工、通信回線の設定等ができる機能を内部にもつ必要があったこと、また営業的に地域の力が必要という考えから、みやまスマートエネルギー㈱への出資者となった。

  

表 みやまスマートエネルギー(株)の出資者の役割

主体

役割

みやま市

・「公共エネルギーサービス」のしくみ構築を先導

・情報やサービスのノウハウを蓄積・分析し、市のエネルギー政策に反映

・本事業の取組の広報、市民への啓蒙や他の自治体へ情報発信

㈱筑邦銀行

・資金面、事業管理面で事業運営を支援

・地方銀行としての公共的使命を持ち地域社会づくりをバックアップ

・金融サービスや情報提供の向上・充実、経営の効率化、健全化をバックアップ

みやまパワーHD㈱

・発電家獲得営業、需要家獲得営業、顧客管理支援

・地域コミュニティの形成につながる企画提案

  

●電力の調達と電力需給管理

みやま市役所が出資しているメガソーラーだけに頼らずに、リスクメネジメントを含めて複数の電源が必要となった。しかし、新規の自治体電力会社という形態が存在していなかったため、電力調達は簡単ではなかった。そこで、市民から住宅用太陽光発電の余剰電力を集めることを計画し、結果的に電力調達の多くを市民から調達することになった。調達価格はFITの買取価格より1円高い。市民からの電力調達について、足を運んでの積極的な営業活動はしていないが、HP上でのPRで、市民から自主的に自分たちの電気を使ってくださいという申し込みがあった。現在200件強の調達となっている。地域新電力のなかで、家庭の余剰電力を買い取っているところは、みやまスマートエネルギー以外にはない。

電力需給のオペレーションには専門的なノウハウや技術がいる。オペレーションシステムの開発には1億数千万円~2億円の投資が必要である。アウトソーシングに出すことも含め、半年検討した。この結果、地域内でやろうという決定になった。地域内で行うことになった理由として、電力情報以外の顧客情報も含めて管理し、地域行政サービスに活かしたいという考えがあった。

 

●需要者の開拓

大口需要者の契約は300件超となっている。工場や病院はビジネスなので少しでも安ければ採用する。ビジネスの面もあるし、市長自らが知り合いも回って、トップセールスを担っている。

 大口需要者の確保を優先してきたが、次に小口需要者(一般家庭)の新規開拓を進めている。この際、小口需要者は、新電力への切り替えとともに、HEMSの設置を行うこともできる。HEMS設置に対しては、機器購入及び設置工事に要した費用の2分の1の額、上限は3万円という市の補助がある。HEMSによる行政サービスは、電気の見える化や高齢者の見守りサービス等である。

 

●地域間提携

鹿児島県いちき串木野市、大分県豊後大野市、鹿児島県肝付町、大木町との地域提携をしている。

いちき串木野市には電力の需給調整業務をサポートし、電力の補給も行っている。

大分県豊後大野市と鹿児島県肝付町は、別の理由である。同市町内には水力やバイオマスを有しており、みやま市は太陽光しかないので、夜は電力を買わないといけない。お互い融通しようとの考え方から協定の提案があった。

肝付町では、「おおすみ半島スマートエネルギー」(資本金:肝付町335万円・みやまパワーHD㈱165万円)を設立し、みやまスマートエネルギー㈱の取次店として活動をスタートしている。まずは近隣市町村の公共施設と高圧施設を対象にした営業を行っている。

さらに、大木町と「持続可能な循環型社会の構築に係る包括協定」を締結した。大木町とはメタン発酵設備によるバイオマス事業の相互支援を図るものであるが、大木町にみやまの電気の顧客になってもらうことでエネルギー事業の連携も視野に入れている。

 

●さくらテラス

みやまスマートエネルギーのオフィスがある建物の1階は、地場産品の販売ショップ、レストラン、会議スペース等をもつさくらテラスとして整備されている。

さくらテラスは、総務省「地域経済好循環推進プロジェクト」を利用し、2016年11月に完成した。農産物の6次産業の情報発信、地域で活動している人たちの活躍の場、コミュニティ館であり、電力事業の利益還元の場としている。再生可能エネルギーのショールームと一緒に利用してもらうことで、エネルギーとのつながりも生み出す。

 

 

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 環境新聞連載:「再生可能エ... | トップ | 根本的なライフスタイル転換... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

再生可能エネルギーによる地域づくり」カテゴリの最新記事