サードウェイ(第三の道) ~白井信雄のサスティナブル・スタイル

地域の足もとから、持続可能な自立共生社会を目指して

「環境コミュニティ・ビジネス」の複層的で多様なアプローチ

2012年08月20日 | 環境と経済・ビジネス

 「持続可能な地域づくり」とは、単純に言えば、環境、社会、経済の3つを充足させる地域づくりである。そして、この持続可能な地域づくりを事業という単位で捉え、社会をコミュニティ、経済をビジネスという言葉に置き換えたものが「環境コミュニティ・ビジネス」である。

 日本における「環境コミュニティ・ビジネス」へのアプローチは複層的で多様である。歴史をさかのぼると、環境、コミュニティ、ビジネスの3つを充足させる事業は、最初から3つを目指したのではなく、まずは2つを満たす動きがあり、その発展段階として2つから3つの充足を目指すようになったとみることができる。その発展プロセスの違いを整理する。

■ 環境コミュニティにビジネスを追加

 身近な環境問題である大気汚染や水質汚濁等は住民運動が直接被害を受ける問題であり、1970年代頃から生活環境を守るための住民運動が大きな盛り上がりをみせた。また1980年代頃から都市部を中心に廃棄物・リサイクルに取り組む市民活動が活発になってきた。こうした活動が本格化するに伴い、水俣における市民出資での「リサイクル石鹸」製造工場の建設、中部リサイクル運動市民の会では「食える市民活動」等、経済面での自立を目指した取組みが進められてきた。

 2000年代に入り、民間の非営利団体(Non Profit Organization, NPO)に法人格を与え、活動を支援するため、特定非営利活動促進法(NPO法)が成立すると、補助金や行政委託が活発化してきた。しかし、公的資金のみに依存しない資金調達が課題とされ、環境NPOにおけるビジネスが志向されるようになってきた。

 環境省では、事業型環境NPOの支援を地球環境パートナーシッププラザ及び地方環境パートナーシップオフィスが寄り添いながら行う事業を2009年度より開始している。「公益活動を行う非営利団体であるNPOでビジネスをしてよいのか」という疑問も呈されてきたが、経済的に自立するビジネス手法を習得したNPO活動の安定継続と充実が期待される状況にある。

■ コミュニティ・ビジネスに環境を追加

 日本では、1990年代に初めて、細内信孝氏によりコミュニティ・ビジネスという言葉が用いられた。同氏は、「地域に眠る労働力、技術を活かし、住民が自発的に地域問題に取り組み、ビジネスとして成り立たせる活動」と定義した。この定義は、住民主導や公益が強調されており、NPO活動にビジネスという手段を持ち込んだ①のアプローチと共通する。

 これに対して、地域に密着したビジネスで住民との関わりを重視するビジネスはもともと存在する。小さな工務店、商圏が小さい商店街、地元客が利用する路線バス・鉄道等である。これらのビジネスは住民との関わりの中、すなわちコミュニティを基盤として成立しており、その意味でコミュニティ・ビジネスである。このコミュニティ・ビジネスにおいて、環境問題の解決という公益性を打ち出す動きも見られてきた。工務店では、産直野菜ならぬ、産直住宅として、地元材にこだわり、かつ施主とのコミュニケーションや山元との連携を重視する動きが活発化してきている。2008年の林野庁調査によれば、最も歴史のある産直住宅事業は1980年代後半位から活動を開始している。

 また、商店街における環境への取組みの先駆けは西早稲田商店街である。同商店街の取組みは、1996年に東京都が事業系ごみの有料化を導入した際、「環境」をテーマにイベントを行ったことが発端である。その後、空き缶やペットボトルを回収するエコステーションを設置したり、地域通貨(アトム通貨)を導入するなど、アイディアあふれる地域に密着した取組みで注目を集め、同商店街を追随する取組みが全国各地で展開された。

  この他、公共交通においての地球温暖化防止を追い風にして、コンパクトな市街地づくりと連動する取組みが進められてきた。以上のようなコミュニティを基盤としたビジネスにおいて、「環境」で差別化したり、消費者を繋ぎ止める取組みが活発化してきたことも、環境コミュニティ・ビジネスの歴史の一つの側面である。

■ 環境ビジネスにコミュニティを追加

 環境ビジネスには、環境汚染防止装置・サービスからクリーナープロダクション・環境適合設計、さらには持続可能な農林水産業、再生可能エネルギーやエコツーリズム等が含まれる(OECDあるいは環境省の定義より)。

 こうした環境ビジネスは、いずれにせよ、地域という空間に立地するのであるが、地域との連結性を持たない場合も多い。例えば、ハイブリッドカーの部品製造や太陽光発電パネルの製造を行う工場が立地していても、地域での消費や地域の環境活動の連携が不十分な場合があるだろう。

 企業城下町を形成する大企業では、もともと地域への貢献は企業活動と一体的にあり、トヨタ自動車が本社を構える豊田市、新日鉄製鉄が立地する北九州市等では、企業が環境戦略の一環として、環境先進都市を目指す地域の取組みを主導している。また、環境をテーマとする産業団地においても、地域との関わりが重視されてきた。1990年代半ばからゼロエミッションを目指した山梨県国母工業団地では、立地する企業間の循環だけでなく、生ごみ循環における地域との連携が行われてきた。

 環境ビジネスにコミュニティとの連携を追加する動きを後押しするものとして、2010年11月に発行されたISO26000(企業の社会的責任に関する手引き(Guidance on social responsibility))がある。同手引きでは、企業によるステイホルダーの特定と配慮を求めている。ここでステイクホルダーとは、株主、従業員、顧客等であり、ここに企業が立地する地域(コミュニティ)が含まれる。 

 

 以上、環境コミュニティ・ビジネスに対するアプローチを、NPO、地域企業、あるいは環境ビジネスという主体に着目して整理した。今後、環境自治体においては、民間主体の環境コミュニティ・ビジネスを支援し、波及させていくことが施策課題となるだろう。地方自治体における環境基本計画や地球温暖化防止のための計画等では、環境ビジネスの振興を施策に掲げながらも、コミュニティとの糊付けを考慮していない場合も多いように見受けられる。環境と経済の統合だけを目指しても、コミュニティとの一体性が志向されなければ、持続可能な地域づくりとしては不十分である。

 

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