勘違い台風のため、かがわ長寿大学の授業が延期になったので、つい「遠い夜明け」を観てしまう。アパルトヘイトを描いた映画の中でもかなり有名なもので、リベラルな白人ジャーナリストのドナルド・ウッズと所謂「黒人意識運動」のスティーブ・ビコを軸に描いているが、後者の虐殺のあとは前者の亡命劇が長くて、ビコの心理や考え方は相対的にあまり描かれない。しかし、それは当然で、ビコは個人ではなく、最後に描かれるソウェト蜂起のなかに生きているからである。ソフィト蜂起のデモの場面はすばらしく、デモ隊はほとんど踊りながら進軍しているように見える。それに静かな鎮圧部隊がいきなり発砲、700人ぐらいを撃ち殺してしまう。
興味深かったのは、その発砲が、司令官が指示したのではなくて、なにやら義憤にかられているような表情をしたとても若い兵士が、指示を待たず自らすすんでやった結果はじまったということである。私は、その表情からして、デモに気圧されて銃を取り落とすかなにかすると思っていたが、まったく逆だった。映画の前半で、悪者として描かれていたのは、警視総監であった。しかし、次第に、指示を受けている下っ端の凶悪な顔が目立つようになる。確かにそうである。彼らははじめは「仕事だから」やっているのだろうが、だからこそ、何でも本気でやってしまうのである。アイヒマンの例や認知的整合性の理論をひくまでもなく、我々の身近な世界でもよくあることである。根本的な自信がない人間の良心に期待することなどできない。自らの身に危険が及びそうになれば、彼はなんでもしてしまう。