★さちゅりこん――渡邊史郎と縦塗横抹

世界が矛盾的自己同一的形成として、現在において過去と未来とが一となるという時、我々は反省的である。(西田幾多郎)

時々に踊って又やめる

2015-09-09 23:23:28 | 文学


「地蔵は始終踊っているんですか」と、わたしは訊いた。
「日が暮れてから踊り出すのですが、夜なかまで休み無しに踊っているのじゃあない。時々に踊って又やめる。それを拝もうとするには、どうしても気長に半晌ぐらいは待っていなければならない。それには丁度いい時候ですから、夕涼みながらに山の手は勿論、下町からも続々参詣に来る。そのなかには面白半分の弥次馬もありましたろうが、コロリ除けのおまじないのように心得て、わざわざ拝みに来る者も多い。そんなわけで、高源寺の縛られ地蔵はまた繁昌しました。

――岡本綺堂「地蔵は踊る」

蝉の抜け殻

2015-09-09 01:58:48 | 文学


 私は、突瑳に幻を変えて――
 私は、一瞬にして、懶うげな空気の中へ、透明な波紋となつて溶けてしまふと、この坂道に鳴き頻るジンジンとした蝉の音となり、そして、この真つ白な病室へ――私は、もんもんと呟き乍ら木魂して来るのであつた。

――坂口安吾「蝉――あるミザントロープの話――」

昨日の猫ちゃん

2015-09-09 01:03:33 | 文学


吾輩はここで始めて人間というものを見た。しかもあとで聞くとそれは教員という人間中で一番獰悪な種族であったそうだ。この教員というのは時々我々を捕えて煮て食うという話である。

――「吾輩は猫である