友岡さんがこの本を紹介していました。
『居場所を探して-累犯障害者たち』(長崎新聞社、2012.11)
出所しても居場所がなく犯罪を繰り返す累犯障害者たち。彼らを福祉の手で更生させようと活動する社会福祉事業施設の協力で、現状と解決の道筋を探った。日本新聞協会賞を受賞した長崎新聞の長期連載をまとめた一冊。
さっそく図書館で借りて読んでみました。
一部、引用します。
□第1章 居場所を探して―累犯障害者たち
■第2章 変わる
■変わる刑事司法と福祉~南高愛隣会の挑戦をめぐって
□山本譲司さんインタビュー
□おわりに
第2章 変わる
変わる刑事司法と福祉~南高愛隣会の挑戦をめぐって
(つづきです)
2011年12月2日。東京都内。
福祉の支援を受けないまま罪を繰り返す障害者・高齢者の支援策を探る厚生労働科学研究班(研究代表者・田島良昭南高愛隣会理事長)の最終会合が開かれた。
近年の累犯障害者対策の多くが、研究班の実践がベースになっている。そういう意味では、研究班は累犯問題においての「頭脳」のような存在と言ってよかった。
「第1期(06~08年度)の研究事業では、全国15カ所の刑務所の受刑者約2万7000人のうち、410人に知的障害(疑い含む)があるという実態を明るみにし、障害者が刑務所を出た後、福祉へと橋渡しする仕組みの土台をつくった。
「第2期」(09~11年度)は、愛隣会をはじめ、弁護士、学識経験者が5つのグループに分かれ、罪を犯した障害者・高齢者の支援策をいかに「進化」させることができるか、実態調査やモデル事業を通じて検討した。
中でも注目を集めたのが、愛隣会が実践した「地域社会内訓練事業」。捜査・裁判段階から罪を犯した障害者を支援する「判定委員会」を組織し、刑務所に入る前の「入り口」の部分で、福祉がどこまで対応できるのかについて調査・研究を重ねた。
発表の場でマイクを握ったのは愛隣会常務理事の松村真美。松村の報告によると、判定委では、罪を犯した障害者8人を対象に福祉的な支援が必要かどうかを検討。うち6人について、裁判所に意見書を提出したり、弁護側の証人として出廷したりして執行猶予付きの判決を求める活動に取り組んだ。その結果、5人に執行猶予判決が出た。
「裁判所が、福祉の支えの有効性を理由に、本来なら刑を猶予することが難しいケースでも猶予判決を出す画期的な事例がありました。ですが、執行猶予判決を得た後に、被告本人が福祉の利用を拒否した事案もありました……」
「失敗例」があったことも、松村は率直に語った。
龍谷大法科大学院教授の浜井浩一の研究グループは、日本弁護士連合会(日弁連)の協力を得て実施した弁護士向けのアンケート結果を公表した。
それによると、回答した弁護士の6割以上に当たる239人が、「過去1年間に知的障害者の刑事弁護を担当したことはない」と回答。それなのに、そのうちの157人は、「質問と答えがかみ合わない」など障害の特性を示す20項目の中で3つ以上が該当する容疑者・被告がいたと答えており、ちぐはぐな結果となった。
浜井は「弁護士が障害の特性を把握できていないため、刑事裁判の段階で見過ごされている障害者がたくさんいるのではないか」と懐疑的な見方を示した。
当の弁護士からも、累犯問題への対応の不十分さを認める発言が相次いだ。
弁護士の荒中は、日弁連の委員会で障害の疑いを把握する簡易チェックシートを作成したことを報告した。「弁護士、捜査関係者の双方に『気付き』の部分で大きな問題点があると思う。この問題への意識を高める努力が必要だ」。荒の表情は終始堅かった。
北海道社会福祉事業団参与、小林繁市のグループは、全国の障害者施設やグループホームにアンケート調査を実施し、回答があった639事業所のうち、140事業所(21.9%)に罪を犯した知的障害者236人が入所(予定者含む)していたことが分かったと発表した。累犯障害者を受け入れる福祉の側にとっても、罪を繰り返させないための更生支援策の充実が急務であることが浮き彫りとなった。
中央大名誉教授の藤本哲也は、09年12月~10年1月の2ヵ月間で、「帰る場所がない」などの理由で、全国の保護観察所に緊急的な保護を申し出た起訴猶予者が227人いて、その中に知的障害者(疑い含む)が8人(3.5%)いたという調査結果を明らかにした。裁判にかからず、検察段階で刑事手続きを終えて社会に戻った障害者の実態を調べたのは今回が初めてだった。
「検察より前の警察段階での微罪処分対象者などを含めると、福祉の支えを必要としながらも、それにつながることなく社会に戻っている知的障害者が相当いると思われる」藤本は警鐘を鳴らした。
それはすなわち、捜査段階においても、支援が必要な累犯障害者が大勢いるのかもしれないということを意味していた。会場に重苦しい空気が漂った。
藤本はそれを振り払うように言った。
「長崎では司法と福祉が連携した取り組みが進んでいる。これは画期的だ。『長崎モデル』とでも呼ぶべきこの手法を、日本の司法制度に浸透させていくことは大きな意味を持っている」
会議を終え、参加者たちは三々五々、会場を後にした。
東京の街には、きらびやかな電飾がまたたき、クリスマスソングが流れていた。
累犯障害者対策で、福祉と刑事司法が大きく動いた1年だった。
「累犯障害者元年」。誰かが2011年という年をそう呼んだ。
(つづく)
【解説】
「長崎では司法と福祉が連携した取り組みが進んでいる。これは画期的だ。『長崎モデル』とでも呼ぶべきこの手法を、日本の司法制度に浸透させていくことは大きな意味を持っている」
この「長崎モデル」が出来上がる過程には、多くの先人たちの努力の積み重ねがありました。
獅子風蓮