Local-Liner ~静サツ雑記帳

静岡運転所札幌派出所=静サツへようこそ。
札幌圏の鉄道を軸に、気ままに書き連ねていく日記です。

総合時刻表の作り方 ~時刻表は誰のためにあるのか

2020年01月02日 | 日記
※この記事は乗車率(Twitter:@riding_rate)さまの以下の記事と関連しています。
 先にお読みくださると幸いです。
 「総合時刻表の作り方-10と11の間」
 https://10point5.hatenablog.jp/entry/2020/01/01/092839

 みなさま、あけましておめでとうございます。
 昨年は大変お世話になりました。

 さて、昨年末はコミックマーケットC97(以下、C97)に2日間にわたり出品させていただきました。
 たくさんの方にお手に取っていただきありがとうございました。
 おかげさまで大方完売となりました。

 


 今回は配布したうちの一つ、「大井川鐵道 鉄道バス総合時刻表」についてのお話です。

○鉄道バス総合時刻表とは

 鉄道バス総合時刻表とは、簡単に言えば「鉄道時刻表に鉄道に並行する路線バスの時刻を追加したもの」です。

 製作のきっかけとなったものはいくつかあります。

 1つは2017年10月の石北遠征です。
 キハ183系初期車引退を見越して「オホーツク」「大雪」の撮影に向かいました。
 主な撮影場所は白滝~遠軽~生田原で、各所に撮影地が点在するエリアなのですが、大きな問題がありました。
 それは、遠軽では列車本数が異常に少なく、撮影対象となる特急4往復を除くと遠軽~生田原は6往復、白滝~遠軽は4往復しかない点です。しかも、そのうち半数は夜間帯のため、撮影してからの移動が困難になってしまいます。
 このエリアには鉄道に並行して遠軽町営バスと北海道北見バスがあります。最終的にバスを駆使して移動したわけですが、この時自分用に作成した時刻表が総合時刻表の原型です。

 もう1つが2017年11月のニセコエクスプレス撮影です。
 通称山線と呼ばれるJR函館本線小樽~倶知安(~長万部)で撮影するにあたり、2時間に1本程度しかないJRだけでは効率的な撮影が不可能だったため作成しました。
 また、山線は駅間が長く、駅から徒歩30分以上の場所がざらにあることも原因です。


 製作してからしばらくして、TwitterのFFでもある乗車率さまが似たようなものを作っていたことを知りました。次の制作予定だった石北本線を作っていたことを知り、他に総合時刻表がない区間についての制作を始めました。(→宗谷本線、室蘭本線、大井川鐵道)
 大井川鐵道については2019年8月に井川線を訪問した際、駅で井川線時刻と並行バス(大鉄バス閑蔵線)が併記された時刻表をもらったのが製作のきっかけです。
 調べると閑蔵線以外にも並行する路線バスがあったことから、全線についてバス時刻表を作成しました。


井川線と並行するバス路線図



○情報収集の困難さ

 鉄道バス総合時刻表の作り方は下のような感じです。

 ① 鉄道時刻表をExcelで作成する
 ② 各駅の最寄りバス停を検索する
 ③ ②を経由するバス路線をリストアップする
 ④ ③のうち並行区間を持つものについて時刻を入力する
 ⑤ 時刻順にソートする
 ⑥ 体裁を整えて完成


 書いてしまえば簡単ですが、実際には多大な労力が伴います。

 ①は路線にもよりますが、鉄道の時刻は時刻表を基に手打ちになるのでそれなりに時間がかかります。1日に数本とかならすぐ終わるのですが、室蘭本線のように1時間1本レベルでも少々面倒になります。

 ②と③が肝であり、最も苦労するところです。
 主な理由としては2つあり、

 ・駅最寄りにバス停があるかがわかりにくい
 ・バス路線はルート変更が頻繁に行われるにもかかわらず情報が更新されないことが多く、現存路線(バス停)なのか精査が必要

 そもそもバス路線の経由地が地図上に可視化されたものが少ないというのが現状です。したがってどのバス停が駅に近いかは個別に調べる必要性が出てきます。
 場所によっては近接しているにもかかわらず名称が異なるケースもあるので厄介です。



 例えばこちらは北海道の名寄市風連地区(旧風連町)のバス網です。JRの風連駅前には「風連」(道北バス)と「風連駅前」(名士バス・士別軌道)の2つの異なるバス停がありますが、いずれも駅から200mほどと至近距離にあります。一方で、隣の「25線」バス停は名士バスと道北バスで場所が異なっています。幸いにして「25線」は近接していますが、JRで隣駅の瑞穂駅最寄りである「31線」バス停は道北バス(駅至近)と士別軌道(駅から約1.5km西)で大きく異なります。
 駅から多少離れたバス停について掲載するか否かの判断は個々のケースによります。他に代替路線がない場合は時刻表に載せるべきでしょうし、別に駅に近いバス停がある場合については必要がありません。
 しずさつの場合は概ね徒歩20分以内(駅から1km内)までを駅至近のバス停として掲載しています。これはしずさつが現在収録している路線が1時間に1本以下であり、20分程度であればバス停まで歩いたとしてもバス移動も検討しうるという想定に基づいています。

 後者については特にコミュニティバスについてよく起きる現象です。コミュニティバスは実態に合わせて路線を改廃が多く、数年スパンでも路線ごと消滅することがあります。ところが時刻表に比べると路線図はおざなりにされることが多く、路線が廃止されたのに路線図だけ残ってるようなケースもあります。発行時点でどこまで残っているかは都度確かめなければいけません。つらい山。

 ④は③での整理が終わればかなり楽になります。ただし駅最寄り時刻が載っているかというと各社によってまちまちです。全停留所を載せている会社もありますが、ほとんどは主要バス停のみを載せたものとなっています。したがって必要に応じてさらに時刻を検索する必要が出てきます。

 ⑤の時刻ソートについては基本始発駅(または時刻表に登場する一番上段の駅/バス停)の発車順ですが、所要時間によっては前後させる必要が出てきます。ここも個々の裁量となるところです。

○製作に必要なもの

 しずさつの場合は以下のものを必要とします。

 ・Excel
 ・バス等運営会社ホームページ →(②)③④
 ・各市町村の交通関係のホームページ →②③(④)
 ・NAVITIME(必要に応じて)→②③④

 バスのページに路線図も各停留所の時刻表も載っているのが理想で、これさえできていれば数時間で完成する場合もあるのですが、多くは省略されているため別の手段を必要とします。
 市町村のホームページは主に(自治体運行の)コミュニティバスの時刻や路線図、路線バスの路線図のために見ます。コミュニティバスを運行している自治体の場合、多くは地図にバス停や路線図を書き込んだ「地図型」の路線図を制作しています。これには民営の路線バスが表示されることも多く、総合時刻表制作時には役に立ちます。市内で複数事業者が運行している自治体でも似たような傾向があります。

 バスや自治体のホームページで時刻表が分からない場合、時刻を参照するのに最も役立つのがNAVITIMEです。おおむね民営バス路線はほぼカバーしており、市町村のコミュニティバスも取り扱うなど、2020年1月1日現在日本で最も充実したバス時刻表となっています。基本的に経由するすべてのバス停の時刻を取得することができます。
 NAVITIMEでは「駅情報」から駅最寄りのバス停を表示させることができます。バス停を経由する路線も取得できるため、総合時刻表製作には書かせません。


駅最寄りバス停の検索例


 ただし、NAVITIMEはいくつか問題があり、

 ・環状区間がある路線では全停留所が抽出できるとは限らない
 ・ほぼ同一経路でも起終点が異なる場合路線名
 ・路線名/系統名が実際の路線名/系統名と一致していない場合がある

 など、実際の運行系統を把握していないと見誤る危険があるため、NAVITIMEは路線網を理解したうえでの補助手段として使用しています。

○浮き彫りになる地方交通の実態

 総合時刻表の目的としては「列車本数の補完」の他に「地方交通の実態調査」があります。
 おりしもJR北海道の存廃で揺れている当時、赤字のJRと並行するバスの多さには驚いたものです。地方のバス路線の多くは税金など公的資金でなんとか維持している状況であり、並行してバス路線を走らせておいてJRに公的資金を投入できないとうそぶくのは首をひねるところではありますが、限られた予算でやりくりしようとするとバスに流れてしまうのでしょう。それでも破たんしたところはコミュニティバス化していくのですが、皮肉にもコミュニティバス化したところの方が本数が多かったり鉄道との接続が良かったりします。

 面白い傾向としては、「列車本数と並行バス路線の本数は反比例の関係にある」ところです。
 これは利用を考えれば簡単な話です。基本的にバス利用者の移動は「自宅⇔目的の施設」なので、乗換駅での待ち時間は無駄になります。接続がよくない場合は自家用車に流れてしまうので、直行便が好まれるというわけです。
 極端な例が道北バス層雲峡線(旭川駅―上川駅―層雲峡)で、旭川から上川まで40㎞近くが並行路線となっています。層雲峡は温泉を中心とした観光地である他、旭川以外の都市規模が小さいという理由から、旭川までの長距離需要が大きいエリアです。並行区間においても数百メートルおきにバス停があるため、駅から遠いエリアもカバーしています。

 人口の多少と路線の多少は比例しないというのもバスならではの特徴です。特にコミュニティバスにおいては、通学や病院通いをサポートするため便によって経由地が異なるケースが散見されます。
 また、市街地の経由地を路線ごとに分けて、市街地全体をカバーするという対策を取る町が多くあります。このために、駅最寄りのバス停が路線によって異なることも多く、時刻表作者を悩ませる種となっています。
 

○時刻表は誰のためにあるのか

 最後に時刻表の存在意義について考えてみたいと思います。

 先ほど述べたようにバス利用の多くは「自宅と拠点施設」の移動がメインであり、鉄道のような拠点間移動はあまり想定されてないように思います。
 というより、路線バスというシステムそのものが、定期的な拠点輸送からは程遠い存在なのでしょう。路上駐車、信号、乗り降りの時間、釣り銭両替でもたつく老人、路線網もわからず運転士に尋ねては発車を遅らせる観光客……路線バスには発車から到着まで遅れ要素が多分に存在しています。バス自体も載せられる人数の制限はもちろんのこと、バスは構造上通路が狭いため、電車並みに混雑させるとそれだけで乗降遅れの原因になります。世の中には1台のバスに通路まで埋め尽くすほど客を詰め込んでようやくさばける程度しか本数がない都バスとか都バスとか都バスとかいう運行事業者もありますが、一体乗客はどうやって降りると思ってるんでしょうか。

 遅れの積み重ねで運行している路線バスにおいて、「信用のできない」時刻表を鉄道と同様に提供することに意義があるのかというと疑問が湧きます。交通事情はある程度考慮可能ですが、乗降にかかる時間まではさすがに読めません。
 加えて路線バスには時刻表よりも早く発車できないという制限があります。これはワンマンの鉄道でも同じことですが、鉄道の場合走行中の遅れはほぼ無視できる(回復すら可能)一方、路線バスでは無視できません。結果、遅れを考慮して初めから無理な時刻設定となり、その結果時刻表が何も役に立たない例もあります。


役に立たない時刻表の例 発車のたびに遅れていく


 つまりはここまで「バス時刻表がないことが総合時刻表のネック」と書いておきながら、バスの時刻表の存在意義はないに等しいという結論に達してしまいます。

 それでも総合時刻表を作る意義は、鉄道とバスの共存点を探ることにあります。
 地方において鉄道はおろかバスさえも自動車によって存続が危ぶまれているのはみなさんご存知の通りです。この先公共交通が生き残るためにはなるべく競合を減らすのが良いのですが、既にそれで延命できる段階ではなく、一方が生き残ることでしか保てないというのが実情です。
 なればこそ、並走路線において列車とバスの時刻が近接している状態はあまりよくないといえるでしょう。ただでさえ少ない乗客を取り合ってる状態なのですから。鉄道のない時間をバスが埋めている関係ができていれば理想です。総合時刻表はその可能性を可視化してくれます。

 現在の時刻表の主流は紙からネット検索に移り、駅名やバス停名で検索を架けるのが当たり前の時代となりました。NAVITIMEを始め対応するサイトや事業者の数は増えており、中には検索サイトを自社サイトに利用するバス事業者も多くあります。
 私に言わせれば公式で検索型の時刻表しかない事業者には殺意しかわかないのですが、こと利便性という点では検索型の時刻表は『わかりやすい』ものとなっています。
 「自宅から目的施設まで」「乗り継ぎなしで移動できる」バスの時刻表は、ネット検索で十分なのです。

 自分が(紙の)時刻表を欲するのは、時刻表があって初めて、路線の全体像を把握できるからです。先ほど書いた「可視化」が、総合時刻表の意義です。
 そのため、フォーマットも必要な分にそぎ落としています。総合時刻表はあくまで駅移動に特化しているので、よほど遠回りでもない限りは途中停留所の時刻は意味を持ちません。そのため掲載路線は並行区間を持つ路線に限定し、途中停留所も時刻は省略しています。
 しかし、もしこれがバス事業者単体の時刻表となればどうでしょうか。おそらく作る時刻表によって変わることでしょう。全体像をまとめるだけなら主要停留所のみで全便掲載で成り立ちますし、検索タイプしか時刻表がない事業者の時刻表ならば全停留所を書いても過剰ではありません。乗り継ぎ時刻表なら乗継便できる便のみ掲載するのが望ましいでしょう。ページ数や時刻表の大きさによっても変わることでしょう。
 ネット検索全盛の時代の時刻表は、全員のためではなく、目的をもって時刻表を読んでくれる人のためにあると考えます。
 ですから、同じ時刻表であっても載せるべき情報を吟味しなければならないことを、時刻表の制作者は心に留め置かねばなりません。でなければ、そこに載るのはただ分厚いだけの数字の羅列した本になってしまいます。
 意図をもって必要な情報を絞り込んだ時刻表に意味があるのです。
 むしろ時刻表に意図を持たせることでしか、時刻表の命脈は保てないと考えています。


 長文となりましたが、これから時刻表を作られる方、読まれる方にとっての一助となれば幸いです。
 2020年もしずさつをどうぞよろしくお願いいたします。

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